第412話 ミナトは王都へ帰還する

 結局、十羽分の『銀の尾羽』を乱獲したミナト。首都ヴェスタニアに戻って無事グドーバルに『銀の尾羽』を納品することができた。丸一日かからずに『銀の尾羽』十羽分を獲ってきたことが原因だと思われるが、グドーバルだけでなくケイヴォンやリーファンからも人外を見る視線を向けられてしまったミナト。


『どうやって獲ってきたのかは冒険者の秘密ってことで宜しくね?(ニコッ)』


 ミナトの笑顔によるお願いにより全員が首をコクコクと縦に振って了承してくれたので問題ないことにする。グドーバルさんの顔が悪かったのは気のせいだと思いたい。そしてお土産としてキラーオストリッチの肉を塊のまま渡したミナトはさらに驚かれることになる。どうやらキラーオストリッチの肉は高級なお肉として有名らしい。ケイヴォンとリーファンは歓喜し、満面の笑みとなったグドーバルは知り合いの肉屋に解体をお願いすると言っていた。


 そうしてミナトは一旦ルガリア王国の王都に帰還する。まだ指輪のデザインを詰める作業があるのであと何回かはグドーバルの工房を訪れる必要があるが、シャーロットたちがおうちの建設が大詰めのために彼女たちは全員不在ではあるが、だからといってBarをずっと休みにする訳にもいかないと考えての行動である。


『今日まではBarはお休みってことにしよう。明日は開店するとして今夜の晩御飯を作りますか!』


 別にグランヴェスタ共和国の古都グレートピットの近くにある温泉街で過ごすという案もあったのだが、


「これを味見したかったんだよね」


 ミナトは【収納魔法】の収納レポノで亜空間からファイアドランカーのお肉を取り出す。帰りに王都の冒険者ギルドによって解体してもらったお肉である。ファイアドランカーのお肉もかなりの高級品として名が通っており、冬の王都ではまず手に入らない品ということらしく冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんから泣いて懇願されたためかなりのお肉を納品したミナト。明日の競りでは貴族や高級店による争奪戦が繰り広げられるのだろう。カレンさんはおそらく王家もその争いに参戦すると言っていた。


『ま、みんな仲良く分け合ってくれ……』


 そんな感想しかないミナト。目の前には皮つきのもも肉、胸肉、ささ身、手羽先、ここだけ別に分けて貰ったソリレス。鳥ガラ、手羽先以外の骨はギルドに引き取ってもらっている。


「しかし醤油がないことがこれほど不便とは……。唐揚げも親子丼もできない……」


 ミナトもやっぱり元日本人である。鶏肉を前にして最初に浮かんだ料理は醤油がないため断念せざるを得なかった。


『フライドチキンはできるけど唐揚げができないなんて……、いやここは発想を変えて……』


 ぽくぽくぽく……、ちん!脳内でそんな音が再生されミナトは今晩の料理を決定する。


「コルドン・ブルーだ!ここはフレンチ!それがいい!そうしよう!」


 そう宣言したミナトは近くのマルシェにフレンチではジャンボン・セックと呼ばれる生ハムか、ジャンボンと呼ばれる普通のハムを探しに行く。


『よし!生ハムが手に入りました!材料も揃った揃った』


 二階にあるキッチンに立つミナト。調理台の上にはファイアドランカーの胸肉、生ハム、チーズ、塩、胡椒、小麦粉、卵、パン粉、そしてフライドポテト用のジャガイモが用意される。


 ファイアドランカーの大きな胸肉を薄くカットし、さらに横に包丁を入れて袋状に開く。両面に塩、胡椒をして胸肉の袋状な部分に生ハムとチーズを入れる。それに小麦粉をまぶし卵にくぐらせパン粉をつけてフライパンにたっぷりの油で揚げ焼きにする。別の鍋でフライドポテトを揚げる。二度揚げしてサクサク感を強調してみるミナト。


「よし!お手軽で美味しいフレンチ!コルドン・ブルーのフレンチフライ添え!」


 ちょっとしたサラダも用意して、晩御飯の完成である。お酒の一杯目はエールビール。グランヴェスタ共和国で小さめではあるがエールビールのサーバーである魔道具を購入しておいたミナト。完成する新居では大型のビールサーバーを導入したい。それと可能であればドラフトビールも入手したいミナトであった。


「二杯目は白ワインにしようかな……。では、頂きます!」


 一人で食べる晩御飯はちょっぴり寂しいが努めて明るく振舞うミナトはエールの注がれたジョッキを掲げるのであった。

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