第411話 次に使うときは気を付けよう

 ミナトをにして発現した大海嘯が眼前に迫る炎の魔物を飲みんで押し流す。ここは丘の中腹、下の斜面に先頭の魔物に続いて集まってきていた残りの魔物も全て大海嘯が呑み込んでくれる……、その想定で【眷属魔法】の水竜の息吹アクアブレスを発動したミナトだが、


『え?後ろから水……?』


 背後からの水を感じて振り返るミナト。そこにはミナトを飲み込もうとする大海嘯が迫っていた。ミナトをに発現した大海嘯、丘の中腹で発現したためミナトの背後に発現した大海嘯が丘を下ってきたのである。


「全方位に発動したから!?これはヤバいかも……?うわぁぁあああああ!」


 大海嘯に飲み込まれ魔物と一緒に流されるミナト。


『……子供の頃、水泳をやっていてよかったと今日ほど思えることはない気がする』


 咄嗟に身体強化魔法を発動したことで大海嘯に巻き込まれた際の衝撃はそれほどでもなく、流れに身を任せることで水面から顔を出すことができた。こうなってくると岩場などがない草原のフィールドであることが幸いし、流れるプールで流されている感覚で少々快適だったりする。


 しかし快適に流されるミナトの周囲ではそんなことにはなっていなかった。見渡すと炎を纏っていた筈の鳥型の魔物が藻掻きながら水中に引きずり込まれるかのようにして沈んでいく。何らかの魔法的な効果が発動しているかのような不自然な動きだ。


『もしかして自分の魔法だから浮かぶことができているとか?』


 次々と魔物が沈んでいく様子を眺めながら流されつつそんなことを考えるミナト。しばらく流されていると水位が徐々に減少し、最終的には生み出された水はすべて消滅していた。まさに魔法である。ミナトの周囲には夥しい数の巨大な鶏肉の塊がドロップしていた。


『何かの効果で水中に引きずり込む作用があったみたいだけど、再現しての検証はしたくない……。次に使うときは気を付けよう……』


 そう心に誓うミナトであった。


「こんなに乱獲する気はなかったけど……、ファイアドランカーの肉って美味しいのかな?でも見た目はかなり美味しそう……」


 そう呟きながら巨大な鶏肉を【収納魔法】の収納レポノで亜空間に放り込む。一塊百キロは軽く超えそうな鶏肉が次々に亜空間へと保管される。


『時間経過がないから美味しい肉なら食料としてずっと入れておこうかな』


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


 そうして最後のファイアドランカーのお肉を亜空間に放り込んだとき、ミナトの視線が遠くの空にキラリと光る存在を捉えた。


「あれって……」


 太陽がないのに何故か明るいダンジョンの空、随分と遠いがその空を優雅に飛んでいるのはどういう仕組みかは分からないが銀色の光を反射させながら飛ぶ鳥型の魔物。


「資料で観たシルバーラグの特徴と同じ……、見つけたぞ!」


 ミナトは身体強化魔法を可能な限り全開で発動し全速力でシルバーラグを追いかける。ミナトの身体強化魔法は特別だ。【保有スキル】である『白狼王の飼い主』と【眷属魔法】である『地竜の息吹アースブレス』の相乗効果による強化の度合いは計り知れない。


【保有スキル】白狼王の飼い主:

 白狼を自身の眷属として相応しい形で強化し従わせる。

 身体強化魔法の性能を圧倒的に向上させる。上限はなし。強化の度合いは任意。

 強化しすぎると人族では肉体が瓦解する危険があるので注意。

 種族が人族であるときは気を付けましょう。


【眷属魔法】地竜の息吹アースブレス

 極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。アースドラゴンを眷属化したため取得。地竜の息吹アースブレスを扱うことができます。ブレスと表現していますが、これは放出系の魔法ではなく呼吸法に近い……、厳密には身体強化魔法の部類です。アースドラゴン並みの身体能力を発揮することが可能です。ただし、人族ではその身体強化には限界があります。【保有スキル】白狼王の飼い主を持っていることから相乗効果が期待されますがくれぐれも使い過ぎによる自壊にはご注意を!


 強化させすぎると肉体が瓦解とか自壊とか物騒なことが起きそうなのでその辺りにだけは気を使いながらミナトは走り続ける。人族や亜人が通常の身体強化魔法で走る速度の優に数倍の速度によってシルバーラグとの距離がぐんぐんと縮まり見上げるとその姿をハッキリと視認できるところまでやってきた。


「随分と高いところを飛んでいるな。ちょっと射程外だけど……、ジャンプ!」


 その言葉と共にミナトが十メートル以上は飛び上がる。


「ここからなら届く……、堕ちる者デッドリードライブ!」


 ミナトがそう唱えると空中のシルバーラグが身動きを止めて落下してくる。至高のデバフ魔法が魔物の意識を一時的に最低レベルまで低下させたのだ。


【闇魔法】堕ちる者デッドリードライブ

 至高のデバフ魔法。対象の能力を一時的に低下させます。低下の度合いは発動者任意。追加効果として【リラックス極大】【アルコール志向】付き。お客様に究極のリラックス空間を提供できます。


悪夢の監獄ナイトメアジェイルで確保っと……」


 生み出された漆黒の鎖がシルバーラグを拘束する。手元に戻ってきたのを確認してミナトは地上へと降り立った。


【闇魔法】悪夢の監獄ナイトメアジェイル

 ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!


「あれ?もうアイテムに変わっている……、既に斃しちゃった?」


 ミナトの手には銀色に輝く美しい尾羽が一つ。これが『銀の尾羽』だろう。


「ふう……、『銀の尾羽』ゲットだぜ!?」


 天に掲げてとりあえず言ってみるミナト。すると先ほどまでは気が付かなかったが視界にいくつか銀色に反射する魔物の姿を視認する。


「グドーバルさんは必要なのは一つって言ってたけど、予備ってあったほうがいいよね……」


 そう呟くミナト。あと数匹……、そう考えてシルバーラグを狩るため行動を開始するミナトであった。

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