第410話 篝火のように見えるけど……

 特に問題なくキラーオストリッチを斃して鶏肉……、おそらくはダチョウのお肉を入手したミナト。森というよりは林という表現が適切っぽい木々の間を歩いて樹上にいるかもしれないシルバーラグを探す。


『うーん……、資料には何故か明るいこのダンジョン内で太陽がないのにどういう訳か銀色の光が反射することがあるって……』


 残念ながら周囲に銀色に輝くガンの姿は確認できなかった。ミナトが林を抜けると眼前に小高い丘が出現した。


『丘の向こうって……?』


 身体強化魔法をかけたままのミナトが丘を駆け上がる。あっという間に駆け上がったミナトの視界に飛び込んできたのは……、


「でっかい篝火かがりび……、それがいっぱい……、草原が燃えていないから魔法の炎なのかな……?」


 思わずそう呟くミナト。三本の脚に支えられた巨大な篝火かがりびが草原のいたるところに設置されている不思議な光景だった。警戒しながらもゆっくりと丘を下って篝火かがりびらしき存在との距離を詰める。


『もしかして……、もしかしなくてもあれがファイアドランカー?』


 ほぼ確信に近いそんな思いを胸中に秘めつつ、さらに距離を詰め丘の中腹まで降りてきたところで……、突然、篝火かがりびがミナトの方へ振り返る。


『やっぱり動いた……』


 振り返った瞬間、その勢いで纏っていた炎の隙間から鳥型の魔物がその姿を現わす。炎を纏った三本足の鳥型の魔物ということらしい。そして大きさはキラーオストリッチと同じくらいか……。


 クゥゥエエエエエエエエエエエエエエエエ!


 ミナトへと振り返った魔物が空に向かって甲高い鳴き声を上げた。


 クゥエエエエエエエエーーーー!

 クゥエエエエエエエエーーーー!

 クゥエエエエエエエエーーーー!

 クゥエエエエエエエエーーーー!

 クゥエエエエエエエエーーーー!

 クゥエエエエエエエエーーーー!


 周囲の篝火かがりびがそれに呼応するように天に向かって鳴き声を上げ、全ての個体がその視線をミナトの方へ向ける。


『あ……』


 ミナトはマズい事態を察知する。周囲にいる夥しい三本足の篝火かがりびが一斉にミナト目掛けて走り出したのだ。


「疾い!?」


 最初にミナトに気付いた個体が丘の坂道など微塵も気にすることなく駆け上がりミナトの眼前に迫る。背後には殺到する無数の炎の塊たち。


『ヒクイドリよりも凶悪だ。炎を吐くのかそれとも蹴りか……』


 普通の人族や亜人であれば完全にパニックに陥る状況だがミナトは冷静だ。【保有スキル】の泰然自若が今日もよい仕事をしているらしい。


【保有スキル】泰然自若:

 落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。


『ここは斜面。そして上流はおれの位置。ということは……』


 ミナトの身体から凄まじい魔力が吹き上がる。この魔法を使うのは久しぶりだ。鉄より硬い水球ウォーター・ボールを使って以来だろうか……、眼前に炎を纏った凶悪な魔物が迫る中、ミナトは静かに目を閉じて集中する。イメージは最後のファンタジーの召喚獣で……、ミナトの魔力が青く輝く。


水竜の息吹アクアブレスという名の……』


 カッと目を見開く。そこにあるのは全身に炎を纏った巨大な魔物の体当たり……。


水竜の息吹タイダルウェイブ!!」


 ミナトを中心に発現した尋常ならざる大きさの大海嘯が炎の魔物を根こそぎ飲み込むのであった。


【眷属魔法】水竜の息吹アクアブレス

 極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。ブルードラゴンを眷属化したため取得。水竜の息吹アクアブレスが放てます。口だけではなく任意の場所から発動可。もちろん生活用水としても使用できます。ちなみに水質は極上です。やっぱり水は必要でしょ?

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