第408話 基本に忠実に情報収集
「基本に忠実にってことで先ずは情報収集を……」
グドーバルの工房を後にしたミナトはそんなことを呟きながら冒険者ギルドを目指している。ほどなくして冒険者ギルドに到着したミナトだが……、
『混んでる……』
グランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアにある冒険者ギルドだけあって広々としたサイズに造られている筈なホールの状況はその一言に尽きた。
「俺達はC級の冒険者だ!ポーターを募集しているんだがどうだ?」
こちらではムサイおっさんが若い冒険者にそんなことを話しかけている。まだ駆け出しであるらしい若い冒険者は困惑顔だ。
さらにカウンターには長蛇の列。
「私達はE級冒険者パーティです。荷物持ちを募集しているのですが……」
そんな列の先頭にいる女性だけのパーティがカウンターで受付嬢相手に相談をしている。荷物持ち募集をしたいらしいが、
「……そうですかこの状況だと一日ディルス銀貨五枚では難しいのね……」
そう言って項垂れる。どうやら金額が折り合わないらしい。
ちなみにディルス貨幣はこの大陸で主要かつ最も信頼されている通貨の一つであり、日本の通貨に換算すると下記のような価値となる。
ディルス鉄貨一枚:十円
ディルス銅貨一枚:百円
ディルス銀貨一枚:千円
ディルス金貨一枚:一万円
ディルス白金貨一枚:十万円
つまりディルス銀貨五枚は日当が五千円ほどということだ。E級の冒険者が荷物持ちに出せる金額としては妥当というところだが……。
北のダンジョンが溢れた影響でこの冬の時期に高値で取引される鶏肉を大量に入手する機会が訪れた。【収納魔法】である
さらに依頼の掲示板に群がる人々の群れ。覗いてみると荷物持ちとかポーターと書かれた依頼が大量に貼ってある。
『掲示板で荷物持ちを集めるってことは北のダンジョンのスタンピード的な現象は結構続くのかな……』
そんなことを胸中で呟きながらミナトはカウンターを目指す長蛇の列の最後尾に立つ。北のダンジョンの現状、この状況がどれくらい続くのか、鳥型の魔物というが具体的にどんな魔物が出現するのか、それらの情報は必要である。スタンピードが起こっていてもE級冒険者が潜ろうとするダンジョンにミナトを脅かす存在などいない筈だが、ミナトは冒険者の基本として情報収集は怠らないのであった。
『でもこうやって並んでいるとテンプレに巻き込まれて……』
列に並びつつそんなことを考えているミナト。実際、並んで待つ間に何人かが荷物持ちの話を持ち掛けてきたのだが、断ると皆が素直に引き下がっていった。
『みんな随分あっさりと引き下がった……。荷物持ちを保護するルールみたいなものでもあったりする……?』
そうこうしているうちにミナトはカウンターの前に立っていた。
「ようこそ。首都ヴェスタニアの冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件ですか?」
大量の冒険者の相手をし続けている筈なのに疲れを見せることもなく笑顔でそう言ってくる受付嬢。
「実は北のダンジョンが溢れたという話を聞きまして……、私は駆け出しで状況がよく分からず、その辺りを教えて頂ければと……」
首元からF級の冒険者証を取り出しつつミナトはそう切り出す。どこからどう見ても駆け出しの冒険者に見える筈だ。
さらに説明すると冒険者にはS級からF級までの七つの階級に分かれており、それぞれ冒険者証となるプレートの色で区別される。
S級冒険者:
A級冒険者:金、超一流…この国にほんの僅か
(以上の冒険者は滅多に遭遇することが出来ない)
B級冒険者:銀、一流…この国に数人
C級冒険者:銅、上級…この国に数十人
D級冒険者:鉄、普通…この国に数百人
E級冒険者:青、見習い…多すぎて計測不能
F級冒険者:赤、初心者…多すぎて計測不能
ミナトが見せた冒険者証は当然のごとく赤である。
「当ギルドで依頼を受けたりした御経験は?」
「ありません」
即答で嘘を吐くミナト。アイリスさんの依頼だけでなくギルドマスターからの秘密裏の依頼を受け、さらにその依頼を力でもって激しく斜め上の方向に解決し多大な事後処理を発生させたことがあるとはさすがに言えない。
「分かりました。できるだけ分かりやすく説明させて頂きます。北のダンジョンとは地図だとこちらに位置したダンジョンです」
一枚の地図を取り出してそこに印をつけてくれる受付嬢。
「このダンジョンは最下層が第四階層という初心者向けのダンジョンです。各層は広大な草原型のフィールドとなっていまして各層の階段の位置を表示した地図も販売されています。出現する魔物は全てが鳥型の魔物であり、普段ですと冒険者の方は鳥型の魔物の素材を集めるために潜られる方が多いですね」
受付嬢が慣れた様子で説明してくれる。
「ですが現在の状況は異なります。このダンジョンは不定期にダンジョンから魔物が溢れ出すという状況が発生することで知られていまして、今がまさにその状況下にあります。ダンジョンの外に出てくる魔物はそれほど多くはありません。ですがダンジョン内は大量の魔物で溢れかえることになります」
「ここに集まっている冒険者はその魔物を狙って……?」
「はい。特に今の季節は冬ですので鳥型の魔物が落とす肉に高値がつきますから」
笑顔で答える受付嬢。
「この状況は過去の記録から一、二週間は続くと考えられています。二週目には買い取り価格が落ちると思われますが……」
「ちなみにどのような魔物が……?」
「代表としてはレグホンという赤いトサカに白い羽毛の魔物が大量発生します。冒険者の皆さんは基本的にこのレグホンを狙います。またエミュという大型の魔物を狙う冒険者の方も多いですね。こちらは攻撃力がなかなかにある魔物なのでD級冒険者パーティ以上が推奨されています。どの階層も安定して大量に魔物が発生していますが、最下層である第四階層では極稀に北のダンジョンには存在しない筈のキラーオストリッチやファイアドランカーといった強力な魔物も現れるので最下層は避けることをお勧めします。余程、上級の冒険者でない限りこの時期の最下層は皆が避けている筈ですね」
「なるほど……」
「あと気を付けて頂きたいのはレグホンが落とす肉はなかなかの重量があるという点です。斃し過ぎても運べなくては意味がありませんから、もしソロで向かわれるのでしたら荷物持ちを雇われることが推奨されていますね。そしてこの街は初めてとのことでご注意頂きたいのですが、グランヴェスタ共和国は職人の国でありこの首都ヴェスタニアでは魔物の素材や鉱石を運ぶ荷物持ちを大切にしています。彼らの不興を買えばこの街での活動は難しくなるとお考え下さい」
そんな会話を続けて首都ヴェスタニア周辺の地図とダンジョンの地図を購入してカウンターを離れたミナト。
『なるほど……、荷物持ちは厚遇されているのか……、それにしてもレグホンって鶏のことだよね。エミュはきっとオーストラリアのエミューかな……。キラーオストリッチはヤバいダチョウ?ファイアドランカーってヒクイドリって感じかな?ヒクイドリの蹴りは命に係わるって前の世界のテレビで観たような気がする……。シルバーラグの話は出せなかったけどその辺りは資料室で調べれば問題ないかな……』
そんなことを考えつつ、さらなる情報を求めてミナトは冒険者ギルドの資料室へと移動するのであった。
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