第407話 もう一つの素材

「おおう!?なんじゃ!?こら!来客中じゃぞ!騒々しいではないか!」


 ケイヴォンとリーファンが飛び込んできたことによる衝撃のお陰かグドーバルが意識を取り戻す。


『よかった……。あのままだとたぶんアブナカッタヨネ……』


 ミナトがこっそりと胸を撫で下ろしているのは秘密だ。


「親方!そんな場合じゃないんだよ!冒険者ギルドに行ったら北のダンジョンが溢れたってギルドが大騒ぎでさ!」

「冒険者と街の衛兵達は稼ぎ時だと言っていましたけど目当ての素材が……、ギルドに在庫もありませんでした……」


 ケイヴォンとリーファンがそう言ってくる。


「それはなんともタイミングが悪いことじゃな……」


 それを聞いたグドーバルも表情を曇らせた。


「グドーバルさん?何かマズい状況ですか?」


 ミナトはそう聞いてみることにする。今回の注文に仇を成す存在は全て悉く排除する……、そんなことをいま即決で決定したミナトである。


「ミナト殿……、この二人に足りない素材を集めるために冒険者ギルドへと行かせていたことは話したじゃろう。素材の名は『銀の尾羽』という。ケイヴォンが先ほど言った北のダンジョンに出現するシルバーラグという魔物の尾羽じゃな」


「シルバーラグ?銀色のガン?鳥の魔物ですか?」


『雁がラグ、ガチョウがグースだったような?あれ……?違ってる……?』


 そんな以前の世界の知識を思い出しつつ聞いてみるミナト。


「知っておるのか?それほど大きな魔物ではないがな。肉はそれほど美味いわけではないが尾羽が素材になるのじゃよ。そして滅多に遭遇できない森などで探すより尾羽を落とすダンジョンで狩ることが一般的とされている魔物じゃ」


「尾羽……、たしかこの前のアイリスさんの依頼でも大烏オオガラスの尾羽を三枚獲ってきた記憶が……」


 以前、ここ首都ヴェスタニアを訪れた際、冒険者ギルドやこの街の有力者の思惑に巻き込まれた若手職人のアイリスさんの手助けをした時のことを思い出すミナト。


「ふむ……、あの作品に大烏オオガラスの尾羽というところがアイリスの才能よな……。おっと話が逸れてしまうわい。鳥型の魔物から獲れる尾羽はこの街では様々な材料として利用されることが多いのじゃ。ミナト殿の依頼にもシルバーラグの尾羽を使おうと思っていたのじゃが……、この季節に北のダンジョンが溢れたということは当分シルバーラグの素材は冒険者ギルドに持ち込まれんじゃろう……」


「その理由を教えて頂けますか?」


 ミナトがそう質問する。


「ミナト殿も冒険者であるから、ダンジョンから魔物が出てくるということが極めて珍しいことじゃというのは知っていると思う」


「え、ええ……」


 当然のことのように話すグドーバルの前で曖昧に相槌を打つミナト。額から冷汗のようなものが一筋流れた。


『そうだっけ……?そういえばダンジョンからのスタンピードとかって単語を聞いたことがないような気がする……。えっと、ダンジョンの外で斃した魔物はそのまま残るけど、ダンジョンの魔物はアイテムになるんだよね……。やっぱりダンジョン内外で世界が違うからみたいな設定が……?あれ?でも属性を司るドラゴンさんたちって自由にダンジョンを出入りしているような……』


 心の中にはそんな幾つかの疑問が生じるがそれは後でシャーロットに尋ねることにして今はグドーバルの話を聞くことにするミナト。


「北のダンジョンは鳥型の魔物が獲れるダンジョンとして知られておる。そして極まれにダンジョン内が魔物で溢れ外に出てくることがあるのじゃよ。その発生時期は不明じゃが今のような冬にそれが起こると冒険者や街の治安を守る衛兵はこぞって食料となる魔物を狩りに行くのじゃ。いまの時期じゃと肉は良い値で売れるのでな。その影響で……」


「尾羽のような素材を落とす魔物は二の次になる……」


「そういうことじゃ……。なに、ミナト殿が心配することはない。代用の素材というものはどんな時でも存在する……」


 グドーバルの言葉を遮るようにミナトが立ち上がる。今回の贈り物ではグドーバルに最高の仕事をしてもらわなければならない。絶対にそうでなければならないのだ。そうであれば次にミナトがするべき行動は決まっている。


「グドーバルさん。冒険者ギルドに行ってきます。シルバーラグの尾羽……、『銀の尾羽』でしたっけ……?その依頼この私が受けさせて頂きます!」


 決意を込めた瞳でそう宣言するミナトであった。

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