第387話 黒髪の女性

 ミナトの眼前に現れたのはフルプレートメイルを纏って魔剣を背負った首のない騎士ではなく、漆黒のドレスを纏った黒髪で長髪の美女である。そんな黒髪がつぶらな紅い瞳や白い艶やかな肌にとてもよく似合っている。そしてスラリとした美しいスタイル。身長はシャーロットより少し高いだろうか……。


「ロビン……、なんだよね?」


 ミナトが思わずそう呟く。本来であればテイムが完了したことでどんな魔物に進化したのか、とか自身のステータスがどうなっているのかが気になるところなのだが、その容姿の変貌に驚きが隠せない。しかしミナトの目の前には、


「もちろんでございますマスター。ロビンはここに……」


 鈴を鳴らすかのような美しい声色でそう答え跪こうとする漆黒のドレスの女性。やはりこの黒髪で長髪のスレンダー美女が首無し騎士デュラハンで問題ないらしい。先ほどまでの作り物デコイで作製した女性の頭部でもその話し方とのギャップがあったが、現在の声色と堂々とした騎士の口調、その違和感がさらにもの凄い。


「いや跪かなくていいんだけど……、ロビン、君の容姿というか外見が……、シャーロット、お願いできる?」


「任せて!鏡よ鏡マジックミラー!」


 ミナトの意図を正確に理解しているシャーロットの凛とした声が響く。するとロビンの前に一枚の姿見鏡すがたみほどの大きさの鏡が浮かび上がった。その鏡はロビンの姿を正しく映し出す。


「これは……?吾輩……?」


 自身の容姿を確認して呆然とそう呟くロビン。


「これがミナトにテイムされた効果よ。ちなみに種族も変わっているわ。煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンじゃなくて今は首を失った闘神ヘル・オーディンですって。魔力量がものすごく強化されている。たぶんこの姿って普段の姿で、戦闘のときに別の姿というか本来の姿になるんじゃないかしら?」


 シャーロットが教えてくれる。


首を失った闘神ヘル・オーディンって……、もしかしなくてもすっごく強い……?』


 ミナトがそんなことを思っていると、ロビンはその色白で細く美しい両の手を握ったり開いたりを繰り返し……、


「うむ。なるほど……、分かります。そのようなことが……、別の姿になることができるのが本能的に分かりますぞ!こうですな!」


 ロビンがそう言った瞬間、彼女の体が光に包まれる。するとそこには、


「これは本当に強そうだね……」


 ミナトはそう呟くので精一杯である。ミナトの目の前にいるのは黒髪の美女ではない。テイム前よりもさらに厳つく装飾をほどこされた漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、背中に……、こちらもテイム前の魔剣からさらに迫力を増した禍々しい魔剣を背負った首から上がない巨漢の騎士。身体がテイム前よりも明らかに大きくなっている。そしてその傍らには雷光を纏い呼吸の度に炎を吐いているテイム前に比べて倍の大きさになったアンデッドの巨馬が地面を掻きながら佇んでいた。初級の冒険者が夜に目にしたら間違いなく漏らしてしまうほどのド迫力である。


『そういえばアンデッドの馬ってどこに行っていたんだ?もしかして馬も首無し騎士デュラハンの一部だったとか……?それにしてもこれが首を失った闘神ヘル・オーディン……。強化されているし威圧感が凄まじい』


 ミナトがそんなことを考えているとロビンの身体が再び光に包まれる。それが納まるとそこには黒髪の美女がいた。


「マスター!吾輩の戦闘形態はいかがでした?」


「カ、カッコよかったんじゃないかな?凄く強そうだったし……」


 その迫力に圧倒されたミナトがそう返す。


「うむ。強者の圧を感じた。強き同胞が増えるのは喜ばしいではないか!」

「ん。いい感じ!」

「素晴らしいですね~。今度、わたくしと模擬戦などいかがですか~」

首を失った闘神ヘル・オーディン……。いまの私と互角といったところでしょうか……」

「カッコよかったでス~」


 デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエールがそんなことを言ってくる。好評なのはよいことなのだがナタリアのちょっと戦闘狂な発言が気になるミナト。しかし、そのことにツッコミを入れることは叶わない。


「ミナト!次はあなたのステータスよ!」


 シャーロットの言葉に覚悟を決めるミナトであった。

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