第362話 相性が悪すぎる

 謎の力でホールに引きずり込まれた結果、思いっきりダイブする形でうつ伏せのまま地面へと着地するミナト。


「イテテ……、っと!」


 痛がりながらも身体強化魔法を発動して素早く立ち上がる。絶対にヤバい状況に遭遇したはずなのだ。鋭く視線を送って周囲を確認すると、


「ミ、ミナト!?……さん?」


 視界に捉えたのはそう言ってくる武器を構え全身から血を流している一人の冒険者。ミナトの知っている顔である。


「『鉄の意志アイアン・ウィル』のウィルさん?」


 そう、王家の儀式である『王家の墓への祈り』が行われた際に護衛としてミナトやA級冒険者のティーニュと共に冒険者ギルドから指名依頼を受けたB級冒険者パーティ『鉄の意志アイアン・ウィル』のリーダーであるウィルであった。見れば足元には幾人もの冒険者が倒れている。『鉄の意志アイアン・ウィル』のメンバーも負傷しているのか蹲って動けないようだ。


「何かあったんですか!?」


 ミナトはそう問いかけつつウィルの下へと走りよる。


「このダンジョンの第二階層に潜って最初の扉に触れた途端、パーティごと中に引きずり込まれちまった。そして出口の扉は見つからない上に魔物から攻撃を受けている最中さ。俺達より先に来て倒れていた連中もそんなところだろうな……」


「魔物……?」


 そう呟くミナト。索敵をするがこの近くに魔物の気配は感じられないが……、


『いや……、かなり離れたところに数体の魔物がいる……?あの魔物が攻撃してきた……?どうやって?』


 ミナトはシャーロットに鍛えて貰ったその索敵能力には自信がある。近距離攻撃を受けるような位置に魔物の気配は感じられなかった。


「ミナトさん!魔物が来る!気を付けてくれ!」


 ウィルの言い方に違和感を覚えるミナト。ウィルはと言った。ではなく……。


『魔物が来るとはどういう……』


 そう聞き返そうとした瞬間、かなり離れたところにいる魔物の気配に動きがあった、と同時にミナトの足元から漆黒の鎖が出現する。【闇魔法】悪夢の監獄ナイトメアジェイルで創り出した漆黒の鎖がまるで生物のように有機的な動きで何かの攻撃を受け止め弾き飛ばした。凄まじい衝撃音がホール内に響く。この漆黒の鎖はミナトが自在に操作できるがミナトの身が危険な時などある程度自動で発動するのだ。シャーロットがこの魔法があれば大体の攻撃から身を護れると言った理由がここにある。


【闇魔法】悪夢の監獄ナイトメアジェイル

 ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!


「蜘蛛の魔物!?」


 ミナトの視界に飛び込んできたのは巨大な蜘蛛の魔物。そんな巨大蜘蛛が太い足をミナト目掛けて振るったのだ。ミナトの索敵能力に近づいてくる魔物の反応は無かった。全く何もないところから蜘蛛の魔物は出現したのである。


「この……」


 ミナトは即座に攻撃をしかける。悪夢の監獄ナイトメアジェイルで拘束してしまえばどうということはない。しかし、ミナトの行動を嘲笑うかのように巨大な蜘蛛の魔物はその姿を消してしまった。


「消えた……?」


「さすがはミナトさんだ。俺達全員あの攻撃でやられちまった。あの魔物は突然現れて攻撃したと思ったら消えちまう。俺達はあいつらの攻撃を受け止めることも、こちらからの攻撃を当てることもできなかったんだ!」


「消えたってことは瞬間移動か何かのスキルを持っている……?」


「そんなスキルはお伽噺みてぇなもんだが、多分そんなところだろうぜ。ただ連続ではできないらしい。色々な大きさの蜘蛛が出てきては消えていってる。こちとら攻撃のされすぎで大体の間隔がつかめてきたのさ……」


 血を流しつつそう話すウィル。ミナトは倒れている冒険者達に目を向ける。全員まだ生きているようだが、重傷者もいるようだ。ミナトは回復魔法を使えない。このままではちょっとマズい状況だ。


『気配の動きを感じた瞬間、こっちに蜘蛛が現れた……。あの遠くにある魔物が蜘蛛か……、スキルを使って遠距離からのヒットアンドアウェイか……』


 ミナトは唇を噛み締める。ミナトは結界魔法が使えない。あの蜘蛛とミナト一人が戦うだけなら何の問題もない。次に姿を現わした瞬間、【闇魔法】冥獄炎呪ヘルファイアを当てる自信があるし、【重力魔法】この世界の重力をフォース・オブ・プラネットで圧し潰すことも可能だし、同じ【重力魔法】の唱える者キャスターで消滅させることも可能だ。収納魔法レポノで短剣を射出して撃ち抜くことも可能だろう。


【闇魔法】冥獄炎呪ヘルファイア

 全てを燃やし尽くす地獄の業火を呼び出します。着火と消火は発動者のみ可。火力の調節は自由自在。ホットカクテル作りやバゲットの温め直しなど多岐にわたって利用できます。素敵なアイリッシュコーヒーがお客様を待っている!?


【重力魔法】この世界の重力をフォース・オブ・プラネット

 対象に作用している重力を操作します。軽くしたり、重くしたりと対象の動きを阻害することが可能です。生物、無生物関係なく作用させることが可能。岩に突き刺した剣にこの魔法をかけて伝説の聖剣(偽)なんてことも可。


【重力魔法】唱える者キャスター

 攻撃系極大重力魔法。触れた者だけに作用する小型で超高質量かつ超重力の物質を高速で放ちます。触れた者はその物質に飲み込まれ二度と出てくることはできません。生物のみに使用可能。ある程度の質量がある無生物や他の魔法が触れた場合、何ごともなく消滅するので遠距離からの使用には注意が必要です。躰に纏った結界や衣服でも消滅するので必ず直に当てられるよう使用しましょう。


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


 だがあの蜘蛛がここで倒れている他の冒険者と標的にしないとは限らない。ミナトの戦い方は暗殺と殲滅には向いているが防衛に向いているとはいえない。倒れている者を護りつつ瞬間移動でヒットアンドアウェイを仕掛けてくる魔物と戦うというこの状況はミナトの戦い方との相性が悪すぎると言えた。


『この状況……、おれだけでは冒険者達を護れない……』


 ミナトは心の中でそう呟くと次に行うべき行動について即決する。


「叱られるかもしれないけど……、みんなお願い!手を貸してくれ!眷属転移テレポ!」


 その言葉と同時にミナトの周囲が光り輝くと共に六つの人影が現れるのだった。


【転移魔法】眷属転移テレポ

 眷属の獲得という通常とは異なる特異な経緯から獲得された転移魔法。魔法陣を使用することなく眷属を召喚することが可能。当然、送り返すことも可。建造物等がある場合しっかりと避けて召喚・送喚するのでそういった点は心配無用。

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