第360話 新しいダンジョンについて
新しいダンジョンの発生。それはなかなかにファンタジーな案件である。ミナトはカレンさんに詳しい説明をお願いしたところ、
「ではご説明させて頂きます……。今回、発生したダンジョンはここですね」
快く引き受けてくれたカレンさんが広げた王都周辺の地図でとある一点を指し示す。地図を覗き込むミナト。ここは先日の指名依頼のときにも案内された冒険者ギルドの二階にある個室スペース。上級冒険者用のスペースの筈であるが、カレンさんにとってF級冒険者のミナトやミナトのパーティメンバーは階級を無視して全員上級冒険者として扱うことに決めているようだ。ギルドマスターの許可とかが必要な気もするのだが、その辺りは気にしないことにするミナト。その辺りはカレンさんが普通の受付嬢ではないらしいと心の中で呟くのみに留めている。
「そこまで遠くはない?」
「そうですね。南へ延びるこの街道を徒歩や馬車で一時間といったところでしょうか。雪の影響で街道の往来は少ないですが、行商人の
「ダンジョンの特徴は分かっているのですか?」
ミナトの問いにカレンさんは頷き、
「王都周辺では珍しい鉱物が中心のダンジョンと推定されます。出現する魔物も斃すと何らかの鉱物や宝石に変わることが確認されていますね。最下層は不明ですが、調査の終わっている第二階層までなら全階級の冒険者が潜ることができそうだとの調査結果が出ていまして恐らくは初級ダンジョンと判定……」
カレンさんが説明を続けていると、その言葉を遮るようにギルドの建物を揺らすような大勢からなる雄叫びが一階から聞こえてきた。そうして我先にと駆け出す人々の怒号が後を追うように耳に飛び込んでくる。
「どうやら解禁されたようですね……」
「なんで皆は先を争ってダンジョンに?発生したばかりのダンジョンはいいドロップ品とか宝箱があるとか?」
「それを信じて勇んで潜る冒険者の方は確かにいらっしゃいます……、証明はされていないのですが……」
異世界ファンタジーありがちなことを聞いてみたミナトだがそういったことはないらしい。
「あとは踏破を目的とする方ですね。最初の踏破者として名を残そうとして……」
「そんな連中もいるんだ?」
「ダンジョンの踏破に関してはそのダンジョンの特性によって禁止されたり推奨されたりしますが、そういったことが決まっていないダンジョンの初踏破はとりあえずその冒険者の記録として残りますから……」
ナルホドね……、と思いつつもそれもなかなかに危険な賭けだと思うミナト。
「踏破を目指すのは当然高いリスクが付きまといます。ミナトさんは挑戦しないでくださいね?」
見透かされたのかカレンさんも釘を刺してくる。それには頷いて応えるミナト。ミナトたちは王都で普段行っている冒険者活動ではダンジョンには潜らない。もっぱら王都の東にある大森林で狩りをして素材や魔石を納品するのが日常だ。ミナトやシャーロットたちの力があれば世界最難関ダンジョンの踏破も不可能ではないが、ミナトはダンジョンの踏破にあまり価値を見いだせていなかった。
「それとこれは重要な点なのですが、新しいダンジョンが発生した場合、解禁から二年間は魔物やそのドロップ品、宝箱の情報に報告の義務が生じます。情報を隠すことも出来なくはないですがそれが発覚した場合、かなり重たいペナルティが課されますので注意してくださいね」
こちらもナルホドと納得するミナト。これはよい仕組みだと思う。今回のダンジョンも第二階層までしか調査されていないためそれ以降の情報は冒険者の探索頼みになる。二年間もの情報の蓄積があれば安全にダンジョンへ潜ることができるようになるのだろう。そういった意味では新しいダンジョンの探索というものは比較的階級が上の冒険者が向いているのかもしれない。今回は王都の殆どの冒険者がダンジョンを目指したようだが……。
「大森林があるため王都の冒険者ギルドでは魔物の素材と食材の扱いが中心です。そのため鉱物採取の依頼が長く放置される場合も多い……。ギルドとしてはこの新しいダンジョンによって安定的に鉱物が供給できるようになってほしいとの期待はありますね」
こちらも納得できる内容だと思うミナト。王都にも鍛冶の工房はあるがグランヴェスタ共和国ほど数は多くない。いや、王都の規模を考えると鍛冶を営む工房は少ないと言えるだろう。新しいダンジョンで良質の鉱石が採れれば王都の鍛冶業界がもっと活性化するかもしれない。それは武具を日常的に扱う冒険者にとっては喜ばしいことであった。
「ありがとうございます。状況は大体分かりました」
『ファンタジーの世界だし迷信を信じるとして何かいい鉱物でも見つかるかな……。プレゼントのヒントでもあったりして……。あれ?ダンジョンにプレゼントのヒントを求めるのは間違っている……??ま、いいか……』
心の中でそう呟きつつ、新しいダンジョンへ潜る気になるミナトであった。
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