第354話 ミナトからの問い

 ミナトがミリムとカレンさんを見据える。


「今回の依頼……、っていうか『王家の墓への祈り』という儀式を行うって決定はおれが依頼を受けることが前提だった……、んじゃない?」


「……どうしてそのように思われるのですか?」


 先ほどまでの笑顔から一転、真顔になったミリムがそう問いかける。


「大した根拠はないよ?最初の違和感は冒険者の編成かな?この王都に所縁ゆかりのある者が少ないって思ったんだよね……。騎士団だってそうだよ?普通はもっとまともな騎士を派遣するよね?あの連中が使っていた魔道具とかって本当にヤバいものだったよ?おれとピエールにそこまでの信頼があった?王女様二人にもし何かあったら……」


 そう言ってみるミナト。A級冒険者パーティである『白銀の鈴風』は身動きを阻害する魔道具を使用してきた。その効果でティーニュも『鉄の意志アイアン・ウィル』も行動不能になってしまったのでもしミナトとピエールがいなかったら相手側の企みは成功していただろう。


「全てお話しします。先ず王家の権威をこれまで以上に高めたいという目的は本当です。マリアンヌ様の体調が回復したことで、次代の王は誰なのか……、という話題が貴族の口に上がるようになりました。現国王であるマティアス様はまだお世継ぎを決めておられません。ここルガリア王国では男性でも女性でも王位に就くことが可能ですが、マリアンヌ様の体調が優れなかったことは周知の事実。貴族の中では第二王女のアナベル様か第一王子のジェラール様のどちらかが次代の王となると考えている者が大半だったことでしょう。その証拠にアナベル様とジェラール様のそれぞれを推す派閥のようなものまで発生して……」


「王家ではそれをよくないことだと認識していた?そしてマリアンヌ様が回復して……、どこかの貴族が何かをやらかすような可能性まで浮上した?」


「はい。冒険者ギルドでお話させて頂いたマリアンヌ様のよからぬ風評が流れたという話は本当です。あの時は申し上げられなかったのですが、それに加えてミナト様の仰る通りレンデール侯爵家を始めとするいくつかの貴族家がなにやら企んでいるとの情報がもたらされました。そのためマリアンヌ様が健在であることを広く認知させること、そして王家の権威をより高めてそのような貴族家をけん制することが必要となりました」


 ミナトは苦笑する。


「そこで思いついたのがおれ達を護衛として雇って、危険とされてここ数年は行われていなかった儀式である『王家の墓への祈り』を使って……。儀式が上手くいけばマリアンヌ様が健在だと証明できる……。そしてその何かを企んでいる貴族家がちょっかいを出してきたら幸いとばかりに一網打尽に……?」


「ミナト様への信頼とミナト様たちの強さがあってこそ成立する策ということになりますね?」


 そう言ってくるのはカレンさんだ。


「王女様二人はそれでよかったの?命がけの作戦じゃない?」


『白銀の鈴風』はA級冒険者のティーニュの動きを封じることができるような連中だった。黒鉄騎士団とB級冒険者パーティ『黒鳥こくちょう』も弱いわけではない。ミナトとピエールは規格外だとしても普通の人族や亜人の冒険者では太刀打ちできなかった可能性がある。


「それはわたくしからお答えさせて頂きますわ!」


 振り返ると第一王女のマリアンヌが立っている。彼女の背後には第二王女のアナベルもいる。


「二人が無事で本当によかったよ……」


 心からそう思うっているミナトに、


「私はミリムお姉さまとティーニュ姉さまからミナト様のお力については伺っておりました。お姉さまの提案に最初に賛成したのはわたくしなのです」


「お父様は反対されました……」


 姉の言葉にそう補足する第二王女。それはそうだろうとミナトも思う。まっとうな王族であれば命を懸けて国のために尽くすということは普通なのかもしれない。だが父親という生き物は娘が大切に決まっているのだ。それにBarで楽しい時間を過ごしている父と娘をミナトもよく知っている。


『ミリムお姉さまとティーニュ姉さまか……。公爵家を裏から支える策士と凄腕のA級冒険者が姉って……。マリアンヌ様って結構……、いやかなり活発なお嬢様だったりして……』


 ミナトがそんなことを思っている中、マリアンヌの言葉は続く。


「今回の計画に関してはわたくしが無理を通したということになります。体調が回復した今、どうしてもこの国の……、いえお父様の役に立ちたかったのです!」


 そう瞳を輝かせながら話すマリアンヌ。体調が回復した彼女はやはりかなり活発なお嬢様になったようである。そんな愛娘を複雑な表情で見つめている現行王のマティアス。


『王様っていろいろと苦労が多そうだね……』


 そんなことを思ってしまうミナトであった。

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