第352話 ミナトは事情を訊くことにした
ミナトが放った漆黒の炎が冒険者の
倒れていた『
「ピエール!」
ふよん。
ミナトの言いたいことを理解しているかのように肩へ一体の青色の球体が乗ってきた。既に普通のスライムに擬態済みのピエールの分裂体の一つである。ミナトは眠らされているふりをしている間に認めた書状を懐から取り出すふりをして【収納魔法】である
「これを王都のウッドヴィル邸にいるミリム=ウッドヴィルに渡してほしい……。もしいなかったら冒険者ギルドのカレンさんにお願いするね?」
ふよよん。
分裂体は念話を使うことができないようだがミナトの指示は理解しているようで、ミナトの言葉に了解と答えるかのように揺れるとミナトの手にある書状を自身の体内へと収納した。
「頼むね。
その言葉と共に分裂体が姿を消す。ウッドヴィル邸の敷地内に密かに魔法陣を設置してある。ミナトの書状には黒鉄騎士団と『
ふるん。
野球ボールほどの大きさになったピエール本体である虹色の球体がミナトの肩に乗り、何かを催促するかのように可愛らしく揺れる。
「そう……、まだ終わってはないんだよね……」
そう呟くとミナトは薬で意識を失っている第一王女と第二王女へと向き直る。
「もう大丈夫ですよ?」
ミナトの言葉に反応して二人の女性が起き上がる。その様子にティーニュは知っていたかのようにフードを下ろし、『
「気が付かれておりましたか……、さすがですね」
「お姉さま……、これでよかったのですか?」
これはミナトの想像の範囲内である。王族であれば常に毒殺のリスクを考慮するのは当然のことだ。ミナトが首から下げているような状態異常からその身を護る魔道具を持っているのではと考えていたがその通りだったようである。
「お二人にお願いがあります。近衛騎士から話を聞きたいので二人にも同席してもらいたいのですが……」
ミナトの言葉と同じタイミングで、ピエールの分裂体が漆黒の鎖で殴られ意識を失っている二人の女性近衛騎士を運んできた。
『ピエール。回復魔法は使える?』
『シャーロット様やミオ様ほどではありませんガ、使えますヨ~』
『では、おねがいします』
するとピエールの分裂体が直径三メートルくらいに巨大化し二人の騎士を飲み込んだ。周囲は騒然とするがそのままふよんふよんと縦と横にリズミカルに伸び縮みする光景は実にシュールである。
「きゃっ!」
「うわっ!」
しばらくしてそんな声と共にポイっと……、というかこの場合の効果音は『ぺっ!』だろうかそんな感じで分裂体から二人の騎士が吐き出された。どうやら意識を取り戻したらしい。漆黒の鎖で殴られた際に負った怪我も回復しているようだ。ピエールはかなり万能である。さすがは伝説のエンシェントスライムがさらに進化した個体といったところか。
二人の女性近衛騎士、よく見ると似ている。
『姉妹かな?』
なんてことを考えているミナト。二人は第一王女と第二王女が目の前にいることに気付くとすぐさま跪いた。
「申し訳ございません……」
「申し開きもございません。どのような罰もお受けします……」
そう言って唯々俯いてしまう二人。近衛騎士といえば王家を護るために抜擢された騎士である。騎士の忠誠心はカーラ=ベオーザとの出会いでよく理解しているミナト。この二人を抜擢した王家の意図は分からないが、そんな近衛騎士が何の理由もなく叛逆に加担するとは思えない。
「何があなた達を今回の企てに加担させたのですか?その理由を伺っても?……これをお二人に聞くのはもうすぐウッドヴィル家の騎士がここに到着するからです。くれぐれも内密に動いてほしいとはお願いしましたが、今回の企てが失敗したという事実はあっという間に王家に届けられる。そうなった場合、あなた達の大切な何かに危害が加えられるのではありませんか?」
ミナトの言葉にはっと顔を上げる二人。
「何年一緒にいたと思っているのですか?あなた達が私達を簡単に裏切るような者である筈がない!そのことはこの私とアナベルが一番よく分かっています」
「その通りです!私はカノンとカナンを信頼しています!」
第一王女のマリアンヌと第二王女のアナベルがそう言ってくれる。
「今ならまだ間に合います。おれの実力はもう知っているでしょ?話してください。必ず助けになってみせます」
ミナトが笑顔と共に畳みかけた。カノンとカナンと呼ばれた二人の近衛騎士は俯いたままその目に涙を浮かべつつ今回の事情を説明する。話を聞き終わった直後、ミナトはピエールの分裂体に叛逆者達の拘束を頼み、儀式とそのための護衛については二人の王女とティーニュと『
「
ピエールを伴い王都へと向かうのであった。
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