第339話 冒険者ギルドで依頼の説明2

「二つ目のきっかけはミナト様にご助力を頂いた件です」


 こちらはミナトも納得である。


 夏の日の深夜、ふらりとミナトのBarに来店しジン・ソーダを一杯だけ楽しんだ老人。帰宅の途についたその老人を狙う刺客に気付いたミナトは【闇魔法】で撃退する。その後、ミナトは老人と刺客がそれぞれ白獅子と黒獅子を紋章とする貴族家の者であることを把握し、冒険者ギルドにおいて日本でいうところの武鑑ぶかんと格闘して紋章からルガリア王国の二大公爵家であるミルドガルム公爵ウッドヴィル家とスタンレー公爵タルボット家に辿り着いた。


 肩書がF級冒険者であるミナトが貴族に武力以外の何かを働きかけることは難しい。その老人の護衛のために四六時中張り付いていることは不可能である。そのためタルボット家がウッドヴィル家の老人を狙っているということが分かった時点でこの話は終わる筈だった。


 しかし後日、大森林で巨大な鹿の魔物であるジャイアントディアーの群れに襲われたミリムを助けたことからウッドヴィル公爵邸で再会することになる。老人はミリムの祖父であるウッドヴィル公爵家の先代当主モーリアン=ウッドヴィルであったのだ。そしてミナトたちの真の力の一端を垣間見たミリムからの護衛依頼を受け、エルト湖と呼ばれる広大な湖沿いに造られたウッドヴィル家の領都であるアクアパレスまで旅をしたのである。


 そうしてタルボット家の一部の者達が企てた陰謀からウッドヴィル家を守るために水竜の紅玉ブルー・オーブを必要としたミナトは世界最難関団ダンジョンの一つである『水のダンジョン』に潜りその最下層でミオと出会うこととなった。


 ちなみにシャーロットとデボラの話ではアクアパレスと呼ばれている街はかつて古都ガーライ、エルト湖は神秘の湖ヴィナスハートレアと呼ばれていたそうである。


 さらに色々とあったのだが、ミナトはどれくらい助力したのかについてウッドヴィル家の者には全く伝えていない。だがウッドヴィル家では水竜の紅玉ブルー・オーブの件から深夜に行われた襲撃、タルボット家当主であるロナルド=タルボットの救出までその全てにミナトが関わっていることを把握しているようである。


「二大公爵家の間で何かがあったとかって噂に?」


 そう聞いてみるミナト。


「その通りです。特にタルボット家は長男と次男が急病ということで継承権を放棄し自領であるスタンレー公爵領へ送られましたからね。特に長男はタルボット家を継承することが半ば公になっていましたから……」


「そんな不始末を起こすのは公爵家として相応しくないってところ?」


「はい。特に国王様は幼少のみぎりをタルボット家の自領であるスタンレー公爵領で過ごしておりますし、現当主のロナルド様への信頼も厚いことで知られていますので……」


 そんなタルボット公爵家の失点を見逃さない貴族がいたということなのだろう。


『貴族か……、この国自体は安定しているけどそういう暗闘は無くならないんだね……。ウッドヴィル家やタルボット家の人たちは結構いい人たちなのに、いちゃもんをつけてくる貴族って面倒な連中なのかな?』


 ミリムの話を聞きながらそんなことを考えるミナト。貴族に転生するラノベも結構読んだ記憶があるが、自分の転生が森の中で最初にシャーロットに会えたことを今更ながらにいるかいないか分からない神に感謝するミナトであった。


「現国王様とタルボット家の繋がりはウッドヴィル家よりも深いと言えます。長男と次男の暴走でタルボット家は失態を犯した。ですから王家の権威を高めることで間接的にタルボット家の権威を復活させるというのが二つ目のきっかけと目指す目的になりますね」


 ミリムの説明にミナトは頷く。


 ふよんふよん。


『わかりましタ~』


 今度もピエールは納得してくれたらしい。二つ目のきっかけについてもミリムの話に嘘はないと感じたのだろう。


「状況は理解しました。護衛内容の詳細について伺っても?」


「こちらをご覧ください」


 そう言ってミリムが地図を広げる。覗き込むとどうやらダンジョン内の地図らしい。


「王家の墓は地下に広がるダンジョンとなっていますが詳細な地図が伝わっています。最下層は第五階層でありそこにある祭壇で第一王女様と第二王女様が祈りを捧げれば儀式は完了となります」


 ミナトは地図を眺める。縮尺の確認は必要だがそれほど複雑なダンジョンという訳ではない。


『となると問題になるのは……、魔物か人か……』


「出現する魔物はオーガが中心との情報がございますが、ジャイアントディアーを瞬殺できるミナト様にはあまり関係がないかと……」


 オーガはミナトも転生前から知っている魔物である。たしかこの世界のオーガは単独行動する魔物でB級冒険者がパーティを組んで狩るのが定石だとギルドの資料室で読んだ気がするミナト。ミナトの【闇魔法】の前にオーガの防御力など紙装甲に等しく、ピエールが擬態した外套マントを貫ける攻撃がオーガにできる筈がない。苦戦は考えられなかった。


 しかし説明しているミリムの表情が冴えない。


「魔物は問題ないと私は考えているのですが……」


「やっぱり問題になるのは他の護衛達ということですか?」


 ミナトの問いかけを肯定するかのように頷くミリム。


「本当であれば我が家が統括している麗水騎士団から副団長のカーラ=ベオーザなどを派遣したかったのですが、王家の縁者である私どもウッドヴィル家にも護衛の編成が知らされていないのです。冒険者を加えることが慣例である点を突いてミナト様とティーニュさんを加えるのが精一杯でした」


 カーラ=ベオーザはウッドヴィル家の騎士でかつてミナトたちがアクアパレスへ赴いた際に同行した女性騎士である。少し考え方の固いところはあるがウッドヴィル家に忠実な騎士であったというのがミナトの印象だ。


 ティーニュもミナトがアクアパレスへと赴いた際に同行したA級の女性冒険者である。ここ最近は王都でウッドヴィル家を相手に護衛任務をしておりミナトのBarの常連でもあった。対人戦を得意としており、修道女のような装いで水魔法とメイスを組み合わせる戦い方はシャーロットやデボラも褒めるほどに人族としては高い戦闘能力の持ち主である。


『騎士と冒険者が護衛として参加する……。儀式にどんな横槍が入るのか……』


 そんなことを心の中で呟くミナトであった。

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