第338話 冒険者ギルドで依頼の説明1
「王家の血筋の権威を高める?ルガリア王家は自分たちの権威が落ちてきているという認識があるのですか?」
怪訝な表情を浮かべてミリムへと問い返すミナト。
「ここにいる私はウッドヴィル家の長女ではなくただの研究者……、といいますか無役である公爵家のメッセンジャーのようなものですので私の言葉は正式には何の意味持ちませんが……」
ここにはミリムとミナト、そしてピエールしかいない。そして盗聴防止の魔道具が起動している。ミナトの索敵能力でも周囲に怪しい者は感知できない。それにそんな者がいればピエールも反応するはずである。それでもミリムがそんな前置きをするとは……、それだけ重要な話なのか……。
「ここにいる私の返答はそのとおりですということになります」
ミリムはミナトをまっすぐ見据えてそう答えた。ミナトは溜め息を一つつくと、
「護衛依頼に関係することですよね……。詳細を伺っても?」
そう言ってミリムに詳細な説明をお願いした。
「きっかけは大きく二つあります。一つは第一王女のマリアンヌ様が病から回復されたことが宣言されたこと」
右手の人差し指を立てながらミリムはそう説明する。ようやく第一王女の名前を聞くことができたミナト。そんなミナトが右手を挙げる。
「聞いてもいいかな?そのマリアンヌ様がミオに魔眼を治してもらってBarにもよくお客ってこと?そもそも王族の皆さんの名前をおれは聞いたことがないんだけど……?」
そう問われてはっとした表情になるミリム。ミナトのBarに訪れる国王とその娘と思しき女性がまだ名乗っておらず、ミリムの祖父であるウッドヴィル家前当主のモーリアン=ウッドヴィルからも正式な紹介がされていないことを思い出す。
「失礼しました。今回の依頼に関係される主な王族の皆様のお名前は……。国王様がマティアス=レメディオス=フォン=ルガリア。王妃様がアネット=セレスティーヌ=フォン=ルガリア。第一王女様がマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリア。第二王女様がアナベル=ブランディーヌ=フォン=ルガリア。第一王子様がジェラール=オクタヴィアン=フォン=ルガリアです。マリアンヌ様は一七歳。アナベル様が十一歳でジェラール様が八歳ですね」
『お、覚えきれない……』
ニコニコ顔のミリムから矢継ぎ早に王族の名前を教えてくれたが一度に覚えるにはちょっと名前に馴染みが無さすぎる。特に全員に異なるミドルネームがあるのがつらいところだ。元の世界でそれこそ二十歳過ぎの若い頃、参加した飲み会で女性陣の名前を覚えきれなくて終盤にお気に入りの女の子の名前が不明という失態を犯したときの苦い記憶が何故か蘇ってくるミナト。
『あ、後で紙に書いてもらおう……』
そんなことを考える。第一王子は八歳で運河要塞の攻略で功を成した方?なんてロマンシングなボケまでは頭が回らなかった。
「これは最重要機密ですがミオ様に魔眼の治療をして頂いたのが第一王女のマリアンヌ様ですね。おじい様とご一緒にBarに来られる方がお父上のマティアス様ですね」
苦い記憶は遠い彼方へと追いやったミナトはBarに来るお客の名前を把握することができた。
「確かマリアンヌさんは魔眼のことを隠して病弱ってことになっていたんだよね?なんでそのマリアンヌさんが回復して王家の権威が落ちることになるの?」
ミナトの問いに難しい顔になるミリム。
「貴族の暗闘とは些細なきっかけさえあればよいのです。マリアンヌ様が病弱であったことは周知の事実。ルガリア王国では男性と女性の区別なく王位を継ぐことが可能です。そして現国王のマティアス様は未だ跡継ぎを決められておりません。それが原因かは分かりませんが、これまで第二王女様や第一王子様と懇意にしていた貴族家が王家と第一王女様と懇意にしていた貴族家の悪評を広め始めました。『あの連中は病弱であるマリアンヌ様が回復されたことにして王位を継がせる気だと、そして国王夫妻もそのことを黙認している』と……、あ、でも誤解なさらないで下さい。ご兄弟の仲は極めて良好です!」
「でもそんなことを言う連中は『国王夫妻に国を任せてはおけない。早々に王位を返上し、第二王女派か第一王子派のそれぞれが推すどちらかに王位を継がせてまだ幼い王女もしくは王子の後見は我らに任せよ……』的な思惑?そして第二王女派と第一王子派は仲が悪い……、たまたま共通の標的がいるから組んで動いている……?」
ミナトの言葉にミリムが驚いた表情をする。
「どうしてお分かりになるのですか?」
「ただそんな気がしただけですよ……」
そう答えるミナトだが心中は、
『言えない……、前にいた世界のラノベとゲームの知識を総動員させただけなんて……』
となっていたのでボロが出ないうちに話をつづけるミナト。
「え、えっと……、な、なるほど……、近年は強い魔物が出現したことが原因で行われていなかった儀式である『王家の墓への祈り』を第二王女と共にとはいえ、病弱とされていた第一王女が無事こなすことができれば第一王女の体調が回復したことが嘘ではないと貴族たちに証明できるというわけね」
「はい。それが一つ目のきっかけと目指す目的となります」
ミナトは頷く。
ふよん。
『わかりましタ~』
揺れているピエールも納得してくれたらしい。ピエールは他の種族からのミナトへの悪意に敏感だ。ミリムの話に嘘はないと感じているらしい。
『さて……、二つ目のきっかけって何だろう?多分……』
そんな予想を心の中で呟きつつ、ミナトはミリムに説明の続きをお願いするのであった。
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