第340話 ミナトとピエールと初雪と……
ミナトとピエールが冒険者ギルドでミリム=ウッドヴィルから護衛依頼の詳細を聞いてから一週間が経過した。
ミリムへ『王家の墓への祈り』の開催日を尋ねたミナトだが返ってきた回答は冒険者ギルドの受付嬢をしているカレンさんからの答えと同じく王城内に居る星詠みと呼ばれる者達が決定するとのことだった。初雪が降ればすぐにでも日程が決まるとのことだが、まだ具体的には決まっていない。
シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアの五人は建設中の新しい我が家のため大森林の深層に詰めているらしく殆ど王都に戻ってこない。たまたま姿を見せたときに何をしているのかを聞いてみると、
「大丈夫!大丈夫!すべて順調よ!何も心配いらないわ!ミナトには完成した姿を見せたいからまだ来ちゃダメよ?」
「うむ。マスターは我の主なのだからな!どっしりと構えておればよいのだ!」
「ん。楽しみに待ってて!」
「
「シャーロット様たちとグラン親方や職人の方々のお世話はこのオリヴィアにお任せください!」
という言葉が返ってくる。結局はピエールと二人で王都に取り残される形となっていた。
そんなミナトは今日もBarの開店準備を進めている。この一週間はBarの経営に専念していた。ミナトとしては二大公爵家か王家の誰かが訪ねてくる展開を予想していたのだが……、
『そういった関係者は全然来ないね……』
そんなことを心の中で呟いていると、
「ますター!」
可愛らしい声と共にとてとてと白いワンピースを来た虹色の髪と瞳をした美少女がミナトの下へとやってくる。人の姿になったエンシェントスライムのピエールである。最初は裸足で着ているのは白い半袖のワンピースのみという装いだったのだが、ミナトとシャーロットの教えに従い今はきちんと靴を履いている。ちなみに白いワンピースや靴はエンシェントスライム本体の一部だ。
「ピエール?どうしたの?」
「外を見て下さイ」
そう言って窓を指すピエール。ミナトがピエールの細くて可愛らしい指の先へと視線を送ると、そこにあるのは大きめの窓。この窓は採光率が高めの大きなものにスモークを貼っているミナトの拘りの窓である。店内が窓から全て見えるのは問題だが全く見えないと入りづらい。入りづらいBarにはしたくなかったミナトであった。そんな窓の向こうで見慣れた白いものが太陽の光を反射しつつちらちらと舞っている。
「雪か……、こっちの世界に来て初めての雪……」
そう呟いたミナトは店の外へと出る。背後からはとてとてとピエールがついてくる。雪がちらつく寒さなのだがエンシェントスライムのピエールは気にしない。元の世界では北海道出身であったため雪は見慣れているミナトだが異世界で見る雪はなにやら感慨深い気分になる。
「これが初雪……、うーん……、随分と寒くなってきたね。ピエール!風邪を引く前に店に戻ろう!」
「ワタシは風邪などの病気にはなりませんけド?」
キョトンとした表情を浮かべるピエール。もう少しで理性を失いそうになるくらい可愛いがそんな可愛い子を雪がちらつく日にこんな薄着で外に出しておくとご近所さんから何を言われるか分からない。ミナトはピエールを促して店の中へと戻るのであった。
『初雪が降ったってことは儀式が行われる日も近いってことかな……』
そんなことを思いつつ店内にモップをかける。掃除はBarの最重要な仕事である。アースドラゴンの里で特別に造られた魔道具であるこのモップは僅かな汚れも見逃さない。ピエールはスライムの姿になって窓の傍でちらちらと舞っている雪を眺めている。
しばらくそうして開店の準備を進めていると、一通の書状が届く。送り主は冒険者ギルド。
『随分と早い知らせ……、かな?』
書状を受け取ったミナトはその内容に目を走らせる。
『ますター?』
そんな念話と共にふよんふよんと弾んでやってきたピエールがミナトの肩の上に乗る。
「ピエール!『王家の墓への祈り』は五日後だってさ!一緒に冒険を楽しもう!」
ふよふよ。
ミナトの声に応えるかのように嬉しそうなピエールが肩の上で揺れるのだった。
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