第335話 相談の前にカクテルを一杯(ギブソン完成)
冒険者ギルドを後にしたミナトはピエールを連れ基本的に元の世界の日曜日と同じ意味合いである無の日の王都でマルシェと言われる市場を散策した結果、極めて上機嫌で帰宅の途につくことになる。とあるマルシェで一つの瓶詰を見つけたのでだ。それはミナトがどうしても手に入れたかったものであり、その結果……、
「冒険者ギルドで依頼の話を聞いてきたんだけど、その内容を相談する前にカクテルを造ります!!」
本日はお休みであるBarのスペースでそう高らかに宣言するミナト。カウンター席座っているシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、そしてカウンターでふよふよと揺れている本来の虹色に輝くピエールの六人が今日のお客という訳だ。我が家の建設は順調に進んでいるということだけは聞いているが、それ以上は教えてくれない。女性の姿を取っている美女たち全員がニコニコしているので問題ないと思いたいミナトである。
カウンターの上にはよく冷やされたジンのボトル、瓶に詰められた辛口のベルモット、そしてオレンジ・ビターズ。後はレッドドラゴンの里産のレモン……、というかその皮であるレモンピールが六枚。ショートグラス六つも冷凍庫で冷やしてある。そうしてミキシンググラスを用意するミナト。
「どんなカクテルかしら?」
「うむ。マルシェで買い求めた瓶詰がきっかけとはなんとも興味深い……」
「ん。ジンは好き!」
「ジンはこれまであまり飲んできませんでしたからね~。マスターが造るジンのカクテルですか~」
「とても楽しみです」
ふよふよ……。
そんな美女たちの視線を集めつつ、ミナトはミキシンググラスに氷を投入する。バースプーンで軽く氷を回しミキシンググラスの温度を下げる。そうしておいてミキシンググラスにストレーナーを取り付けると氷が溶けた分の水を切った。次にストレーナーを取り外し、そこにオレンジ・ビターズをふた振りほど振り入れる。
このカクテルはジンを四十五mLとベルモットを十五mL、それらをミキシンググラスへと注ぎ入れるのがレシピとされてはいるが……、
『ジンとベルモットの量はちょっと調整して……、っと』
心の中でそう呟きつつ、ミキシンググラスにジンとベルモットをジガーとも呼ばれるメジャーカップを使って注ぐ。バースプーンで静かにステア。味を薄めないため氷を必要以上に溶かさないよう慎重にステアする。
しっかりと温度が下がったことを確認し、よく冷やしてあったショートグラスに静かに注ぐ。
「これって……」
「うむ。我にはあのカクテルに見えるのだが……」
「ん?」
「あらあら~?これは先日頂いたカクテルでしょうか……?」
「私にもそのように見えますね……」
ふよんふよん。
ミナトはシャーロットたちの会話を嬉しそうに聞いている。彼女たちの反応はまさにミナトが予想した反応そのままだ。ミナトは次の手順に取り掛かる。用意しておいたのは銀製のカクテルピンに刺した白い球体の野菜……、小さなタマネギの酢漬けである。これを本日のマルシェで手に入れたのだ。このタマネギの酢漬けは人呼んでパール・オニオン。このカクテルはオリーブではなくパール・オニオンを使うのだ。ピンに刺したパール・オニオンをゆったりとショートグラスに沈めるミナト。そして最後の仕上げとしてレモンピールを指先で絞り皮の油分をショートグラスへと飛ばした。
それを六杯作成する。ミナトの口元に会心の笑みが浮かぶ。
「どうぞ、ギブソンです。マティーニと並んで造りたかったカクテルだったんだ。パール・オニオンは取り出して好きなタイミングで食べてね」
そう言ってシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエールの前にグラスを差し出す。
「ギブソンというのね……。マティーニと造り方が似ていたようだけど……。ミナト!頂くわ!」
「うむ。マティーニではないのだな……。これもマスターがどうしても造りたかったというカクテルか…。頂こう!」
「ん。これにもボクたちの里のベルモットが使われている!頂きます!」
「頂きますね~」
「マティーニとは違うのですね……。頂きます」
ふよふよ。
笑顔の五人がそれぞれショートグラスを持ってギブソンをその魅力的な唇へと運ぶ。ピエールは少し小さいサイズに形状を変えてショートグラスに乗ってゆっくりとカクテルのみを吸収し始める。
ミナトがカウンター席の六人をみているとギブソンを飲んだ美女たちが目を見開く。
「これも美味しい!マティーニとはちょっと違うのね。ミナトの造るマティーニは辛口だったけどこのギブソンのほうが辛口じゃない?パール・オニオンの酸味もよくマッチしているわ」
「うむ。マティーニの重厚感のある味わいに比べて切れ味の良い味と言えばいいのか……?マティーニが飲む者を選ぶかもしれぬカクテルの王道と思っていたが、これはより辛口であるためさらに飲む者を選ぶかもしれないが美味いカクテルだ」
「ん!これも美味しい……」
「これは随分と辛口ですね~。そしてパール・オニオンが素敵です~」
「マティーニとは異なる味わいですね……。これも美味しいカクテルです。ジンの特徴がよく出ていて美味しいですね」
ふよ~、ふよ~。
ピエールが気持ちよさそうに揺れている。
『美味しいでス』
そんな念話が聞こえてきた。
「ギブソンはマティーニによく似た……、というかレシピとしてはほとんど同じカクテルなんだけど、おれの造り方としてはマティーニより少し辛口にすることにしている。ドライ・マティーニって意図的に辛口に造るマティーニには当てはまらないのだけど、ギブソンはマティーニより辛口。これがおれの個人的な方針かな。ま、カクテルはみんなの好きな味わいで楽しめばそれでいいのだけどね?」
『ギブソンはシェイクって説もある……。カクテルの楽しみ方は人それぞれでいいんだ……。おれがおススメする飲み方ってのはあるかもしれないけどね……』
そんなことを思いながらギブソンを楽しんでいる美女たちに二杯目についてどうするかを尋ねるのであった。
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