第334話 公爵家からの書状
「ええっとですね……」
ミナトの問いかけにカレンさんの目が泳ぐ。それでも肩に乗っているスライムのピエールを撫でつつ視線を離そうとしないミナト。そんなミナトの態度に溜め息をついたカレンさんは観念したかのように話し始めた。
「可能であれば内密に……、そうでなければ全てを話して構わないということでしたのでお話しします。実は王城からの通達に書状が添えられていたのです」
「書状ですか?」
ふよんふよん。そう問い返すミナトの肩の上でピエールが気持ちよさそうに揺れている。
「ええ。それもウッドヴィル家とタルボット家というルガリア王国の二大公爵家からの連名による書状でした。その内容は……、ご覧になりますか?」
「問題なければ是非……」
やはり知っている……、というか当主や前当主がBarの常連でもある公爵家の名前が出てきた。それにしても冒険者ギルドに書状を送ってミナトに指名依頼をするというのは随分と回りくどい方法を取ったものだと思うミナト。指名依頼はC級以上の冒険者でなければ受けることができないが公爵家であれば問答無用でF級冒険者のミナトを指名することも可能な筈である。Barに来て直接頼むことも出来ないわけではない。
そんな疑問は書状を読めば解決するのか……、とカレンさんから書状を受け取ったミナトだが……、
「よ、読みにくい……」
これがルガリア王国に属する貴族の作法に従っているのか、この書状を書いた者の個人的な好みの問題なのか、書状の内容は季節の挨拶やら美辞麗句やらを驚くほどにたっぷりと取り入れて意味不明、なかなか本題に入らない。頑張って読み進めた結果、分かったことは……、
「なるほど……」
納得したように呟くミナト。
書状の内容を要約すると、
ミナトたちに第一王女、第二王女が王家の墓を訪れる今回の儀式に護衛として参加してほしい。だがこれは指名依頼ではなく、貴族の命令でもなく、唯々ふつうのお願いである。ミナトたちの予定を最優先し本当にスケジュールに問題がない場合にのみ頼みたい。居丈高であったり高圧的であったりしてはならず、謙虚な態度で依頼を行うべし。絶対に絶対に絶対にミナトたちの機嫌を損ねてはならない……。この書状は内密にしてほしいがミナトたちが読みたいと言ったら全てを公開して構わない……。
といったことを貴族の威厳を保ったままに冒険者ギルドに指示する内容だった。まるでモザイク模様のジグソーパズルかのごとき難解な文章である。これはつまり……、
「私たちも驚きました。このように冒険者に気を使った貴族様からの書状など見たことがありません」
カレンさんの言葉が的確に書状の内容を捉えていた。どうやらウッドヴィル家もタルボット家もミナトたちにこの依頼を受けてほしいが、機嫌を損ねたくはないのだろう。二大公爵家はミナトたちの本当の実力を把握している。二大公爵家にしてみれば過剰戦力ともいえるミナトたちが王都で楽しく暮らしていること自体が既に国益なのだ。
「みんなと確認はするけどこの依頼は受けようかな。前向きに検討しますよ」
そう答えるミナト。
「よかったです。ミナトさんが断った際、二大公爵家へどのようにお伝えするべきかとギルドマスターが頭を抱えていましたから」
ホッとした様子のカレンさん。そういえば王都のギルドマスターとまだ会ったことがないような気がする。
『ま、いつか会う機会もあるでしょ……。それよりも二大公爵家か……』
王家や二大公爵家には世話になっている。ラノベにありがちな貴族に絡まれるような展開に遭遇することなく王都で普通に暮らしていけるのは王家や二大公爵家が裏で手を回してくれていることが大きい。そのことをミナトたちも分かっており感謝もしている。なにより彼らはBarの常連さんなのだ。ミナトの力が必要であるのなら助けたいと思うし、何より王家の墓というダンジョンに興味もある。
「その『王家の墓への祈り』……、でしたっけ?その儀式が行われるのはいつですか?」
「具体的な日程は王城にいる星詠みと呼ばれる方達が決めることになっているのです。あと一週間もすれば初雪が降ってくるでしょうし、数年前と同じような日程だとしたらひと月以内といったところでしょうか」
『星詠みとはまたファンタジーな職業があるんだね……』
なんてことを心の中で呟くミナトだが、
「分かりました。明日また来ます」
そう言って冒険者ギルドを後にするのであった。
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