第333話 これって指名依頼じゃない?
ミナトは普通のスライムに擬態したエンシェントスライムのピエールを肩に乗せたまま、書類を抱えた受付嬢のカレンさんに冒険者ギルドの二階へと案内された。個室のドアがいくつも並んでいる。
『こっちの方に来たのは初めてだね……、確か指名依頼とかの説明をする上級冒険者用のスペースだったような……』
指名依頼は上級の冒険者が対象となる依頼方法で、依頼主が冒険者やパーティを名指しで指名する形で行われる依頼である。旅の護衛といった依頼主との信頼関係が重要な依頼で使われることが多く、依頼金額も通常より高くなるとミナトは聞いていた。
ちなみに冒険者の階級はS級からF級までの七つの階級に分かれており、それぞれ冒険者証となるプレートの色で区別される。
S級冒険者:
A級冒険者:金、超一流…この国にほんの僅か
(以上の冒険者は滅多に遭遇することが出来ない)
B級冒険者:銀、一流…この国に数人
C級冒険者:銅、上級…この国に数十人
D級冒険者:鉄、普通…この国に数百人
E級冒険者:青、見習い…多すぎて計測不能
F級冒険者:赤、初心者…多すぎて計測不能
そのため指名依頼を受けることができるのはC級以上の冒険者ということになる。ミナトとシャーロットたちは全員F級の冒険者であり、指名依頼とは無縁であったのだが……。
カレンさんに促されてミナトとピエールは個室の一つへと案内され、さらに促されるままに椅子へと腰を下ろす。
「こちらをご覧ください」
ミナトとピエールの前に一枚の紙……、依頼票が置かれた。ミナトは依頼票を手に取りその内容を確認する。
「ルガリア王家の……、墓……?」
思わずミナトがそう呟いた。そこに書かれていた依頼とは……、
依頼内容:ルガリア王国第一、第二王女の王家の墓訪問時における護衛依頼
達成条件:第一王女、第二王女を無事に王家の墓に送り届け、無事に王家の墓から帰還する
依頼者:ルガリア王家、報酬:冒険者一人当たりディルス白金貨三枚
という内容だ。
『王家の墓……、RPGなら貴重な武器とかが眠っているファンタジーの王道だよね……』
そんなことを思ってしまうミナト。
「はい。ミナトさんたちにこの依頼を受けて頂きたくてこの部屋にお招きしました。ルガリア王国の王家では雪の降り始める頃に王家の血を引く女性が王家の墓を訪れて祈りを捧げる慣習がございます」
『そんな慣習があるんだね。なんかますますファンタジーだ』
ミナトの心の言葉が聞こえないカレンさんが説明を続ける。
「王都の住民からは『王家の墓への祈り』と呼ばれている初冬に行われる儀式です。祈りを捧げることで過去の英霊に今年一年が安寧であったことの報告を行うのだとか……。今年は第一王女様と第二王女様が王家の墓を訪れることになったとの連絡が王城よりありました。王家の墓はダンジョン化していますので儀式には護衛が必要であり多数の近衛騎士が付き添うことになります。ですが魔物を相手にするということもあり冒険者も護衛として参加することが恒例となっていまして、その冒険者メンバーの一員としてミナトさんたちにも声をかけさせて頂いたということです……」
説明してくれるカレンさんだがどこか浮かない表情をしていることが気になるミナト。
ふにふに……。
ミナトの肩の上ではピエールが静かに揺れている。
「何か気になることでもあるのですか?」
そう聞いてみるミナト。すると表情を曇らせたカレンさんがゆっくりと頷く。
「はい……。実は王家の墓への祈りはここ数年行われていませんでした。その理由は王家の墓に強い魔物が確認されたからというものでした。それなのに今年は儀式を行うという旨の通達が突然ありましたので……」
そう答えるカレンさんを前にミナトはいろいろと考える。そして、
『でも王家の墓っていう名前のダンジョンにはちょっと興味がある……』
そんなことも考えてしまうが、カレンさんに今ここで確かめたいことが一つだけあった。
「こういった依頼って……、特に今回は王家の依頼だから普通はギルドからの指名依頼ですよね?どうしてF級のおれ達にその話を?」
きっとミナトたちのことを知っている公爵家が絡んでいそうな気がするのだが、まずは最初にそこを確認したいミナトであった。
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