第331話 設計士さんとの打ち合わせは大事です
ミナトがピエールを肩に乗せ冒険者ギルドへ向かって歩いている頃……。
ここは王都の東にある大森林の最深部に建てられた作業小屋。この建物に
「シャ、シャーロットちゃん……、素材と金に糸目は付けないと言っておったから、シャーロットちゃん達の要望を全部詰め込んで設計はしてみたのじゃが……、ほ、本当にこいつを建てるのかい?」
冷や汗を流しながらグラン親方がそう言ってくる。グラン親方にも自身が優秀な職人であることの自負はあったが今回の注文は想像の遥か斜め上を行くとんでもないものだった。そんな困難を極める無茶な注文に職人の意地でその全てに応え設計図に起こしたものを本日シャーロットたちに見せたのである。
「グランさん!設計図をありがとう。流石は親方ね。私たちの要望がきちんと反映されているわ!」
とびっきりの笑顔でシャーロットがそう言ってきた。ドワーフであるグラン親方の美的感覚ではエルフの容姿は特に美しいわけではないのだが、そんな親方でも魅力的に感じてしまうほどの笑顔である。
「うむ。浴室と寝室と……、Barの部分も……、もう少し詰めたい箇所はあるが第一案としては素晴らしい出来だ!」
「ん。スゴい職人さん。尊敬する……」
「うふふ~。作業が楽しみですね~」
「これであればあと少しの修正で建設作業に入れるようですね。既に職人の皆さんをおもてなしする用意はできています」
デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアからもよい反応が返ってきてホッと胸を撫で下ろすグラン親方。
「この前話したように設計図の詰めの作業は後にして、今日は使ってもらいたい素材とお金の話を先にしたかったの。先ずは外に出て素材を確認してほしいわ」
シャーロットにそう言われ促されるままに小屋の外に出るグラン親方。現在の王都は晩秋のはずなのに小屋の外はぽかぽかと暖かく柔らかい日差しが降り注いでいる。そのことについて考えてはいけないことを理解しているグラン親方は無言でシャーロットに促されるまま小屋の裏手にある……、前回ここに来た時には絶対になかったはずの大きな倉庫へと案内された。
「こ、こりゃあ……」
その倉庫に置かれていた素材の山にグラン親方は言葉を失う。意識も少し飛んでしまったかもしれない。そこにあったのはまだ切り出されていない巨大な木材、まだ精錬されていない鉄鉱石と思われる石材が二種類、もう一つはグラン親方も見たことがある有名な金属の結晶……。
「この二種類の鉱石を精錬してブロック状にしたものを外壁や主な建材にしようと思うの。でもそれだと冷たい感じがするでしょ?だから内装はこの木材をいっぱい使って温かい感じにしたいと思ったの。こっちのミスリル結晶の説明はいらないわね。魔道具や細かい場所に使用してほしいのよ」
こともなげに説明するシャーロット。しかしグラン親方はとてもそんな心穏やかにはしていられない状態だ。
「シャ、シャーロットちゃん……、この木材はエンシェントトレントの……?」
「Barの建設で使ってもらったけどまだまだたくさん残っているのよね。全部使ってもらって構わないのだけど……、もしかして足らないかしら?」
シャーロットが心配そうに聞いてくる。
「いや……、これで十分だとは思うが……」
目の前の巨大な木の塊を前にそう呟くグラン親方だが、
「もし足らないときは遠慮なく言ってほしいわ。すぐに獲ってくるから!」
「うむ。この辺りならば簡単に遭遇できるであろう」
「ん。あっという間に氷漬け!」
「ミオさん~。それでは解凍が必要になってしまいます~。ここは
「エンシェントトレントであれば私も五枚下ろしで持ってこれますが……」
エンシェントトレントなど雑魚に等しいような口ぶりでそう言ってくる女性たち。グラン親方の認識ではエンシェントトレントの素材は確かに極上の木材である。そして建築関係の職人であれば人生で一度は扱ってみたい素材だ。だが、人族や亜人では絶対に斃すことができないとされる極めて恐ろしい魔物とされている……、その筈だ……、それをすぐに獲ってくるとは……?
「お、おう……。足りなくなったときは頼む……」
自身のこれまでの常識をあっさりと放棄し女性たちにそう答えるグラン親方。任せろと言わんばかりに笑顔で頷く美女たちを前に……、
『エンシェントトレントを苦も無く獲ってくると断言するこの娘たちと一緒にいるミナトって……』
という疑問が浮かぼうとするがそのことについて考えることも放棄する。それよりも大事なことは、
「はあ……、シャーロットちゃん……、ミスリルの結晶は分かった……。あんなに純度が高いものにお目にかかったことはないがな……。それよりもあの二つの鉄鉱石のような石材はなんじゃろう?精錬して使うと言うておったが儂は見たことがない種類のものじゃ」
その言葉を聞いたシャーロットがニヤリと笑う。背後に控えるデボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアの笑顔も何やら凄みが掛かっていた。
「よくぞ聞いてくれました!こっちがアダマンタイトの原石でそっちがオリハルコンの原石よ。大丈夫!精錬はナタリアを中心に専門の
笑顔でそう説明するシャーロットだったがグラン親方からの反応がない。
「あれ?グランさん?」
「シャーロット様!グラン親方が!」
デボラの言葉にシャーロットがグラン親方を見ると立ったまま気絶していた。
「あちゃ……。やっぱりアダマンタイトとオリハルコンは刺激が強すぎたかしら?」
シャーロットがそう呟く。
「うむ。ドワーフの職人であるからな。ここ二千年における『地のダンジョン』の攻略状況を考えると、アダマンタイトとオリハルコンの価値は二千年前から変わっていないのであろうな」
とデボラも言ってくる。
「ん。もっと価値が上がっている気もする」
ミオの予想も尤もだ。意識が回復したらアダマンタイトとオリハルコンの価値について確認しようと思うシャーロット。
「たしかに『地のダンジョン』でアダマンタイトやオリハルコンを採るにはかなり深く潜る必要がありますからね~」
ナタリアの言葉の通り、アダマンタイトとオリハルコンを採るのであれば最下層付近まで潜る必要があるのだ。ちなみに今回用意したのは最下層で採取した最高品質の原石である。
「シャーロット様!ミオ様!グラン親方の呼吸が止まっています。このままで親方が帰ってこれません。回復魔法をお願いします」
オリヴィアに促されて回復魔法をかけるシャーロットとミオ。
「これだと『報酬はディルス貨幣でもいいけど、
回復魔法をかけつつイタズラっぽい笑みを浮かべるシャーロットであった。
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