第四章 バーテンダーと冬の王都
王家の儀式と指名依頼
第330話 バーテンダーと新しい家
ここはルガリア王国の王都。晩秋の冷たい風が吹き抜ける王都だがマルシェと呼ばれる市場はいつものように活気に包まれている。王都のマルシェは朝、昼、夜と店舗を変えながら一日中開かれている。そんなマルシェがあちこちで開かれている風景はここ王都の名物の一つだ。
そんなマルシェを眺めながらミナトは冒険者ギルドを目指していた。今日は無の日でBarはお休みである。
この世界の曜日は基本的に前の世界と変わらない。火、水、風、土、光、闇、無の七日で一週間となる。この世界を構築する属性が曜日として割り当てられていた。この世界では無の日が日曜に該当し、一般的な職業の者達は休息日に当てていた。
『ふぅ……、それにしてもおれが住む家の筈なんだけど……』
歩みを進めながらため息と共に心の中でそう呟くミナト。
ふよふよ。
ミナトの肩の上で野球ボールくらいの青い球体が揺れている。普通のスライムに擬態してもらったピエールである。今日はピエールと二人。いつもであればシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアのうち二、三人は同行するはずだが、ここ最近はミナト一人かピエールのみ同行しての外出が多い。その理由とは……、
『大森林の深部に建てる我が家……。シャーロットたちは任せなさい!って言っていたけど……、何だろう……、考えるとちょっと寒気がする……』
その呟きが全てだった。現在のBarに造った居住空間ではオリヴィアやナタリアと一緒に暮らすことはできない。そこでミナトは新しく家を造ることを決めた。王都の物件を探す方法もあったかと今となっては思うのだが、その場の勢いとシャーロットたちの賛成があったことからミナトは王都の東に広がる大森林の最深部に家を造ることにしてしまった。
ミナトは王都の東に広がる大森林の奥地を貯蔵庫として利用していた。かつて斃したエンシェントトレントの残りや狩り過ぎた魔物をシャーロットの
そのさらに奥地にある最深部はダンジョンに似ている特殊な空間で、気候は一定した過ごしやすい環境なのである。
そんな大森林の最深部に家の建設予定地を定め、シャーロットが超強力な結界を張った。奥地で貯蔵していた素材は既にその最深部へと移管させている。ちなみに最深部に移動させた
建設にあたってはBarを建ててくれたグラン親方に頼むことにした。グラン親方は王都で建築業や内装業を請け負う工房の工房長でBarの常連でもある。Barを建てるにあたって伝説級の木材とされるエンシェントトレントの素材を惜しみなく提供したことでミナトたちの真の実力には気が付いているようだが、
『出所なんぞは聞かぬから気にするな!』
で済ましてくれた豪快な職人気質のドワーフである。今回も仕事の少ない冬場に大仕事を任せて貰ってありがたいとのことで引き受けてくれた。ミナトが【転移魔法】の
『何も言わなくていい!儂らは仕事があれば満足じゃ!』
と眉間を抑えながら呻くように言っていたが……。
『おれが知っているのはそこまでなんだよね……』
ミナトが秋の空を見上げて心の中でそう呟く。せっかくの我が家だというのにミナトの関与はグラン親方と職人達を移動させるために使う
「うふふ……、とーーーっても素敵な家にしてあげるから楽しみに待ってて!」
「うむ。マスターに相応しい拠点となる建物にするからな!マスターはゆっくりしててくれ!」
「ん。最高のおうちにする!マスターには完成まで秘密!」
「
「職人の皆様のお世話はお任せください!」
シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアの四人からそう言われ建設作業からは隔離されてしまったのだ。隔離は徹底していて結界によりミナトは最深部への侵入ができないようにされてしまった。
「ま、きっと大きな貴族の屋敷みたいなのが出来上がると思うけど……」
ふよふよ。
肩の上でピエールが揺れている。大丈夫だと言ってくれているのか……。
『ワタシは現場を見ていませんがマスターが驚愕するほどのスゴイ建物ができると思われまス……』
ちょっと……、いやだいぶ想像と違う答えが返ってきた。
『もしかして魔王城?いや……、ドラゴンを探す四作目の魔物の城?まさか空を飛ぶ方じゃないよね?』
急に不安になるミナト。しかし今できることはないもない。そうしてミナトは考えることを止めた……。そして遠い目で秋晴れの青空を眺めながら冒険者ギルドを目指すのだった。
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