第329話 久しぶりの開店!(旅路の結果)
ここはルガリア王国の王都。今日も見事な晴天だったが季節はまさに晩秋。日中はまだ太陽の温かさを感じるが、夜半から早朝の空気は随分と冷たく冬の到来まではあと少しといったところだ。大陸中から様々な物資が集まるルガリア王国の王都も冬場は流通が滞るらしい。王都周辺では雪が普通に降るらしく陸路での移動は難しくなる。王都の近くを流れる大河ナブールからの運河は冬場も機能するので、こちらが寒い時期の主要な流通ルートになるとのことだ。
それでも食料不足の懸念があるのか冒険者ギルドでは魔物の肉や食材の依頼が多く出されるらしい。冬になると王都の冒険者達は大森林で食料になる魔物を狩るか、食料がドロップするダンジョンに潜ることが多くなる。この時期に比較的暖かい地方へ遠征するパーティもいるらしい。
しかしそんな晩秋であっても王都の歓楽街から賑わいがなくなることはない。そんな歓楽街のほど近く、繁華街の端の路地に位置し、工房が連なる職人街、大店として店を構える商会が多く集まる商業地区、各種の研究所や教育施設が集中する学生街などから等しく近い立地であるのがミナトのBarである。
「バックバーが充実してきたのは本当に嬉しいね」
そう呟くのはミナト。グランヴェスタ共和国への旅を終えたミナトは久しぶりにBarを開店することを決めた。これまでのお酒に加えて、この旅で入手したお酒もしっかりとラインナップに組み込んだ。
先ずは専用の冷蔵庫で適温に冷やし小瓶に保存したエール。Barにおける最初の一杯がビールでも問題ないとミナトは考えている。銀座で働いていた頃もビールは小瓶で数種類を用意していた。生ビールサーバーを設置してしまうとそればかりのオーダーが続く可能性がありそこまではしなかったのだが……。ビールも好きなミナトであった。
ジンはこれまで通りルガリア王国産のみ、グランヴェスタ共和国で飲んだジンは王都のものと大差がなかったのでジンは増やしていない。いつかは別の国のジンを仕入れてみたいと思うミナトである。
ここにグランヴェスタ共和国の古都グレートピット産のトニック・ウォーターが加わったのでジン・トニックが造れるようなった。これが一番大きな出来事だとミナトは位置づけている。
ウッドヴィル公爵家からはクレーム・ド・カシスとオレンジ・ビターズを仕入れさせて貰っている。さらにウッドヴィル公爵家が治める領都アクアパレスで入手したオレンジリキュール。
ブルードラゴンの里からは甘めと辛めの二種類のベルモットと、赤と白のワイン。ワインはどれも極上ものの味わいだ。
ウォッカもこれまで通り北方から持ち込まれたものが三種類。
ウイスキーはその種類を大きく増やした。これまで使っていたガルガンディアと呼ばれている燻し酒はピート香強めということで依然として採用。そしてアースドラゴンの里産のスコッチ、バーボン、ライ・ウイスキー、コーン・ウイスキーがラインナップに加わった。アースドラゴンの里では各種で仕込んだ樽ごとに様々な味わいがあったが、ラインナップに加えるにあたってミナトはお客に分かってもらうため、とりあえずスコッチ、バーボン、ライ・ウイスキー、コーン・ウイスキーの四種類それぞれに『強め』『弱め』の二種類、計八種類を選んだ。
テキーラはレッドドラゴンの里産のものが一種類だったが、こちらは熟成期間で分けて貰いブランコ、レポサド、アネホの三種類を用意した。熟成期間が六十日未満のテキーラがブランコ、ニヶ月以上から一年がレポサド、一年以上がアネホとなる。前の世界ではこの区別にブランドの別が加わるのだがこの世界ではメーカーはレッドドラゴンの里のみだ。これまでのテキーラはブランコと呼んでよい透明なものだった。テキーラにするならそれで十分だし、透明なテキーラをショットでクイッと飲むのも美味しい。だが濃厚なレポサドやアネホをショットグラスで飲むのも好きなミナトはレッドドラゴンたちに頼んで三種類を用意してもらった。レッドドラゴンにテキーラを長期熟成する習慣は無いとのことだったが、一年以上熟成した樽が倉庫の奥から発見されたので今はそれを使っているが、今後はアネホもレポサドも造ってくれることになっている。
アブサンはこれまで通りウイスキーを仕入れさせてもらっている商会から仕入れているものが一種類。
さらにルガリア王国にあるグランヴェスタ共和国との国境の街であるオルフォーレの街で入手した
グランヴェスタ共和国側の国境の街であるグトラの街でホビットの薬草店から仕入れたホワイトミントリキュール。
グランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアで手に入れたウンダーベルグとカンパリ。
バックバーのラインナップは随分と充実してきたが、ミナトが求める酒はまだまだある。
まずラムが見つかっていない。バーボンが手に入ったためミント・ジュレップは造ることができるようになったが、ラムがないためモヒートが造れない。そして何よりダイキリが造れない。さらにオレンジリキュールを入手できたのにラムがないために
そしてブランデーもまだ未入手だ。
シャンパンにも出会えていない。どこか辺境にある修道院のようなところで造られているのではとミナトは考えている。修道院と言えばシャルトリューズも未入手だ。ミナトにとってシャルトリューズのヴェールを使ったグリーン・アラスカは是非とも造りたいカクテルの一つである。
さらにブランデーに比較的に近いところではグラッパもマールもない。リンゴを使ったカルヴァドスも入手したいお酒だ。
カイピリーニャが好きなミナトとしては何とかしてカシャーサも手に入れたい。さらにシェリーにポートワイン等もある……。
『そう考えるときりがないけど……』
そんなことを心の中で呟くが開店した頃よりもラインナップが充実してきたことは間違いない。造ることができるカクテルも格段に増えた。
そしてミナトの首には小さな石をあしらったネックレスがある。アースドラゴンに造ってもらった精神耐性と状態異常無効が付与された防御用の魔道具だ。
ネックレスを確認してミナトは手伝ってくれる五人に向き直る。
「シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール。これからも宜しくね!」
そう言って皆に頭を下げた。
「もちろんよ!ミナト!今回の旅も面白かったわ!次の冒険も楽しみね!」
「うむ。我はマスターに忠誠を誓った身、これからもマスターにお仕えさせて頂く!」
「ん!ボクはいつもマスターと一緒!」
「改めまして宜しくお願いします」
「お屋敷が完成された暁には管理は任せて頂きます!」
「よろしク!」
美女たちと美少女がそう応える。店の従業員はミナトを入れて三人が基本。最初はミナト、シャーロット、デボラのシフトである。ナタリアには見習いとして仕事を覚えて貰っているところだ。オリヴィアには王都の大森林最深部に建設中である家の現場を管理してもらっている。ピエールは完全にマスコット的存在だ。
「さあ!開店だ!!」
ミナトがそう言うや否や直ぐにドアが開けられる。
「「「いらっしゃいませ!」」」
その言葉で迎えられたのはドワーフ達。
「ミナト殿!さすがに待ちくたびれたぞ!?まずはカクテルを貰おうか?」
「新しい燻り酒が入ったと聞いたぞ!?ウォッカもよいがまずはそちらを飲ませて貰おうかの」
本日開店するとの連絡をしたドワーフの職人であり兄弟のアルカンとバルカンが来店する。このBarを建ててくれた同じくドワーフのグラン親方は本日は大森林深部で屋敷の建設に注力してくれているはずだ。
続いてA級冒険者のティーニュが来店する。今日は二大公爵家やお忍びのもっと偉い人とその娘さんも来るとの予約の連絡を受けている。
ミナトは久しぶりの開店だが常連のお客の来店に嬉しくなるミナト。この店を気に入ってくれていることが嬉しい。穏やかな笑みを浮かべつつミナトはアルカンにジン・トニックをバルカンにバーボンからのマンハッタンを提案するのだった。
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