第328話 ミナトは温泉を楽しむが……
ゆったりと湯船に浸かりながらミナトは今回の旅路を思い出す。
ルガリア王国にあるグランヴェスタ共和国との国境の街であるオルフォーレの街ではフェンリルであるオリヴィアとの出会いがあった。そして
残念ながらアマレット・ディ・サローノは手に入っていないのでゴッド・ファーザーは造れていない。ラスティ・ネイルとゴッド・ファーザーは(決まっているわけではないが……、というか作り手の自由ではあるのだが)スコッチを使った甘口のカクテルとして二つとも用意しておきたいというのがミナトの強い思いである。
グランヴェスタ共和国側の国境の街であるグトラの街ではエールと出会った。そして生牡蠣のカクテルソースやオイスターズロックフェラーといった素晴らしい牡蠣料理と共にエールとワインを堪能したのは素晴らしい出会いだったとミナトは思う。
たまたま訪れたホビットの薬草店でホワイトミントリキュールを手に入れたことでハリケーンを造ることができるようになったことも運がよかった。ハリケーンを造ることができたのでミナトが作るアメリカ南部風のブランチの完成度を挙げることができたのである。
グランヴェスタ王国の首都ヴェスタニアへと至る道中では首都のヴェスタニアで武具工房を営んでいるグドーバルからの護衛依頼を引き受ける形でグドーバルと見習いのケイヴォンとリーファンに出会った。
首都ヴェスタニアではヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会が開かれる時期であり、活気あふれるその街でミナトはケイヴォンからの頼みを聞き入れ若手職人であるアイリスを手伝うことになる。若手職人であるアイリスの願い、グランヴェスタ共和国評議員を務めるこの国の重鎮であるギュスターヴ卿とヴェスタニアの冒険者ギルドマスターであるラーモンドの思惑、アイリスを自身の工房に引き抜きたい若手職人であるゴウバルとゴウバルを支援する商人のオレオンと彼が率いてこの街で暗躍しているミーム商会。全ての思惑が交錯する中、ミナトたちはアイリスの護衛を完遂し、降りかかる全ての火の粉と思惑をその力でねじ伏せた。
その過程でウンダーベルグとカンパリに出会いミナトが造ることができるカクテルの幅は大きく広がった。
古都グレートピットでは温泉を楽しみ、お土産屋さんに木刀が売っているのにペナントが売っていないことに疑問を抱きつつ、三百年前の転生者であるヒロシの様々な偉業に触れることになる。アメリカ由来の食事も美味かったがトニックウォーターに関してはヒロシの偉業だとミナトは思っている。遂にジン・トニックを造ることができたミナト。あの時の喜びを忘れることはできそうもない。
そして『地のダンジョン』へ潜るためレイドに参加したミナトたち。それはパーティ名『竜を饗する者』が誕生した瞬間でもあった。テンプレ的展開なのか主導するクランと対峙することになり、ミナトたちはクランの主力であるA級冒険者達を圧倒、冒険者ギルドの査察官や暗部とも一部共闘する形でクランの暴走を治めることとなった。東方魔聖教会連合の関与も疑われるがそれはギルドで調査中である。シャーロットは期待できないと言っていたがはてさて……。
レイドで問題が発生したため『地のダンジョン』は一時封鎖されたが、そんなことなど気にしないミナトたちは『地のダンジョン』の最下層を再び目指し、辿り着いた最下層でエンシェントスライムのピエールとアースドラゴンのナタリアたちと出会うことになった。
アースドラゴンたちが造っていたスコッチ、バーボン、ライ・ウイスキー、コーン・ウイスキーは素晴らしい味わいだった。結果としてマティーニに続いてマンハッタンも造ることができたことは本当に嬉しいミナトである。アースドラゴンたちの話によると首都ヴェスタニアの西に広がる大穀倉地帯を越えたところにある街々ではバーボン、ライ・ウイスキー、コーン・ウイスキーが燻り酒として造られているらしい。それら全て現地のドワーフ達に飲まれてしまい首都までも流れてこないそうだ。品質はアースドラゴン産の方が上だというが、どんなバーボンが地上で造られているのか少し興味があるミナトであった。
『そうして今は温泉に浸かっていると……。色々あったけど……、いい出会いもあったし、本当に楽しい旅だった……』
結果として最高の旅であったと振り返るミナト。
ふよんふよん。
肩の上でピエールが揺れる。
「あ!ピエールちゃん!どこに行ったかと思ったらミナトと一緒にいたのね!?」
「うむ。まさか我らを出し抜こうとは……、なかなかにやるものよ……」
「ん?先を越された?」
「これがアースドラゴン様の温泉ですか……、素晴らしい施設ですね」
「あらあら~?ピエールちゃんはもうマスターと仲良しなんですね~」
ミナトがよく知っている声が聞こえてきた。恐る恐るミナトが声の方へと視線を向ける。
「!?」
温泉の湯気に隠されてはいるのだがそこには、手に手拭いのみを持った一糸纏わぬ美女たちの姿があった。シャーロットの完成された美しさを誇る肢体、デボラの見事なダイナマイトボディ、ミオの可愛らしい姿、オリヴィアのスレンダーなスタイル、それにナタリアの均整が取れつつも圧倒的な質感を感じさせるスタイルが加わっている。
ミナトはそそくさと広大な湯船の端っこへと移動を開始する。
「逃がさないわよ?大丈夫!かけ湯はしてきたわ。みんなで一緒に楽しみましょう」
とびっきりの笑顔をしたシャーロットが一瞬にしてミナトの眼前へと移動してきた。あっという間に周囲を囲まれるミナト。有無を言わさず全員で湯船に浸かる。
「み、みんな……、女同士の話し合いは終わったの?」
どこを見てよいか分からないミナトが何とかそんなことを口に出す。
「アースドラゴンたちもミナトと一緒に温泉に入りたいって言ってたから順番を決めてきただけよ?」
「うむ。軽い手合わせだ」
「ん。ボクたちに勝てる存在なんていない」
「私たち魔物の基準ではかなり平和的に解決したと思いますよ?」
「うふふ~。マスターのスキルで強化されたと言ってもあの子たちではシャーロット様たちの相手にはなりませんからね~」
そう答える全員が最高の笑顔を浮かべているのだが、どこか黒いものを感じる。ミナトの直感が告げている……、それ以上触れてはいけないと……。
「ソ、ソウデスカ……」
呆然とそう返すことができたのみ。
「後からアースドラゴンたちも入ってくるわ。それまでは私たちで楽しみましょう!」
シャーロットの言葉に観念するミナト。だがそれだけでは終わらなかった。
「マスター?こっちの姿のほうがイイですカ?」
「!?」
固まってしまうミナト。言葉と共に細い腕がミナトの背後から回ってきたのだ。先ほどまで肩の上にいた筈なのだが……。そして背中にピトッとくっついているその姿は……。
「ピエールちゃん!あなたにはちょっと早いんじゃない?っていうかあなたのことだからどんな姿にもなれるんでしょ?なんでその姿なの!?あなたがそうするなら私だって……」
「うむ。ならば我もその年代の姿に……」
「ん。ボクも変身!」
「マスターのスキルで私も進化しましたからね。それくらいの変化は可能です!」
「あらあら~。人化だけは出来ますから
シャーロットたちがとんでもないことを言い出したような気がするミナト。
「待って!大丈夫!大丈夫だから!みんなその姿のままでお願い!お願いだから!オネガイシマス!……そしてピエールはスライムの姿に戻ってくれないかな!?」
ミナトの声が温泉に響き渡る。わちゃわちゃと楽しい温泉でのひと時はまだ始まったばかりであった。
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