第327話 満天の星空の下で……

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……、異世界に転生しても日本人のこの習性だけは変えられない。これこそが真の極楽だ♪」


 頭に折り畳んだ手拭いを乗せたミナトは満足気にそう呟く。空を仰げば満天の星空。頬に感じる風がとても心地よい。ミナトは源泉かけ流しの露天風呂で極上の気分を味わっている。きれいに磨き上げられた鉱石をふんだんに使った湯船は見事の一言である。


 ここはグランヴェスタ共和国の古都グレートピットにある世界最難関ダンジョンの一つとされる『地のダンジョン』の最下層。そこにあるアースドラゴンの里に造られた温泉施設である。


 聞けばこの世界ではちょうどいい温度で湧いている温泉というのはここグランヴェスタ共和国の古都グレートピット周辺にある温泉街以外では滅多になく、ミナトたちが滞在した『バーデン』のような高級な宿が立ち並ぶ温泉街はこの地方意外には存在しないということだ。


 ふよ~♪、ふよふよ~♪


 手拭いを頭に載せているミナトの傍らでは虹色に輝く球形がふよふよと形を変えつつ浮いている。ミナトの眷属となったエンシェントスライムのピエールだ。今の大きさはソフトボールほどである。


『温泉ハジメテでス~』


 そんな言葉と共に嬉しそうな感情が念話を通して伝わってくる。


 聖水を独占しつつ、世界の属性を司る地の大樹にまで影響を与えていたエンシェントスライムをピエールとして無害化し、さらにアースドラゴンをテイムしカクテルを振るまったミナトとその一行はアースドラゴンたちに熱烈に歓迎された。


 そして『今夜は疲れを癒して頂きたい』ということで夕食と温泉を勧められたのである。アースドラゴンたちは大麦や小麦の他に様々な野菜、香草、スパイスなどを栽培していたので、野菜と様々な香草とスパイスを使った料理は優しい味わいでミナトたちは料理をとても楽しんだ。レッドドラゴンの里では極上の果物を、ブルードラゴンの里では極上の魚介類を入手してきたミナトは今回の旅で極上の野菜や香草を入手できたことになる。


『この冬は美味しいポトフを作ることができそう……』


 そんなことを考えると自然に笑みが零れてくる。さらに明日は里を挙げての歓迎会をしてくれるということだ。


 ふよふよ。


 ミナトは目の前で気持ちよさそうに浮いているピエールを撫でてみる。つるつるぷるんとした触感がとても心地よい。


『気持ちイイですネ~』


 どうやらピエールも温泉で寛いでくれているようだ。


 ちなみにどうしてミナトとピエールの二人で温泉を楽しんでいるかというと……、


「ミナトは温泉に入ってて!私たちは女同士で話し合いをしてくるわ!」


 という部分を強調したシャーロットにそう言われ、夕食の場を追い出されるように温泉へとやってきたということになる。そして何故かピエールもこっちについてきたのだ。


『それにしても今回の旅はなかなかにいろいろなことがあった……。そしていろんなお酒を見つけることができた……』


 今回の旅の一番大きな目的はアースドラゴンの造っているお酒。そして防御力に関しては人族そのままであるミナトの身を守るため彼女たちが造る防具とアクセサリーを得ることだった。


 彼女たちが造っていたのはスコッチ、バーボン、ライ・ウイスキー、コーン・ウイスキーといった様々なウイスキー。これらのお酒に出会えたことが文句なしに嬉しいミナト。防御に関してはピエールという相棒を得て直接的な攻撃への守りは問題がなくなったが精神攻撃や状態異常への耐性は依然として人族と同じためそれらを無効化する魔道具をアースドラゴンたちが造ってくれるとのことだ。


『大きな目的は達成できたと思う……。でもそれだけじゃなかったよね……』


 ミナトは湯船に浸かったまま満天の星空を見上げる。


 ふよん。


 ピエールがミナトの肩の上に乗ってくる。そんなピエールのつるつるとした球体を撫でつつミナトは今回の旅路を思い出すのであった。

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