第326話 ハーレム展開は加速する
『第二夫人を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします』
ナタリアから発せられたこの言葉にミナトが固まる。
「……?マスター?どうされました~?」
「あ、あの……、ナ、ナタリア……、さん……、そ、それは……」
ミナトは大量の冷や汗を流しながらも何とか声を出そうとするが、得体のしれない圧力を感じ上手く声が出せないでいた。
「あらあら~?
さも当然とばかりににこやかな表情でミナトにそう言ってくるナタリア。ミナトは冷汗が止まらない。眼前にはにこやかなナタリアがいるが視線の端には赤と青の恐ろしい魔力を纏った夜叉……、じゃなくて美女が二人……。
「ほーーーーう?」
「ん。いい度胸!」
二人の登場にミナトは完全に固まる。本来なら危険を感じて回避の行動に移るところだが、一瞬で恐怖に足がすくみ上がり一歩も動けなかった。【保有スキル】泰然自若が全く機能していない。
「うむ!名を授けられたようだから我もナタリアと呼ばせてもらおう……。そなた……、この我を差し置いて第二夫人を名乗るとは……、ミオに続いてよい度胸だ……」
「ん!自分がされると思った以上に腹立たしいことが分かった!」
ミナトはデボラの背後に燃え盛る炎の巨人を、ミオの背後に凍える吹雪を纏う氷の巨人を、確かに見た気がした。
「あらあら~?お二人はBarの従業員と伺ったのですけど~?」
首を傾げつつそう言ってくるナタリア。
「どうして我が従業員でそなたが第二夫人なのだ!?我とそなたは魔物の格としては完全に同格であろうが!そしてマスターのパートナーとして過ごした期間はシャーロット様の次に我が長い!我がマスターの第二夫人だ!」
「ん!デボラの次がボク!だからボクが第三夫人!!」
デボラとミオが堂々とそう宣言する。
「あらあら~?そうなのすか~?」
ナタリアがミナトの方を向いて確認してくる。
「うむ!どうなのだ?マスター!?」
「ん!マスター!」
デボラとミオも迫力がスゴイ。
「……そうだね。シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリアの順デショウカ……」
狼狽えつつも何とかそう答えるミナト。
「あらあら~?オリヴィアさんはよろしいのですか~?」
ミナトの回答にオリヴィアについてナタリアが聞いてきた。
「私はマスターの執事のようなものですので……」
執事服のようないつもの装いのオリヴィアが恭しく一礼をするが、
「それに……、うふふふ……」
礼をしたところまでは完璧だったのだが、そこで顔を赤らめつつ自身の身体を抱きしめながら身悶えしないで頂きたいと思うミナト。そんなオリヴィアの様子を不思議そうに見つめるナタリア。
「オリヴィアはミナトの愛人みたいなものだから気にしなくていいわ!」
シャーロットがバッサリと説明する。両の頬を抑えて恥ずかしそうにするオリヴィア。ミナトを揶揄っているのか普段は見せない可愛げのある仕草だ。素直に奇麗で可愛いと思うミナト。しかし異世界に来て全てを受け入れて楽しむと決めたミナトだが夫人が四人いて愛人が一人は流石に男としてそれでいいのかと思ってしまうところである。
「オリヴィアさんのことは承知しました~。それではこのナタリア、マスターの第四夫人を務めさせて頂きます。何卒、宜しくお願いします~」
そうして本日、三度目の優雅なカーテシーをするナタリア。どうやらこのやり取りも無事終了したらしい。ほっと胸を撫で下ろすミナト。
「それにしても夫人が四人いて愛人が一人って……」
思わずそんな呟きが口をついて出た。
「あら?ミナト!愛人は一人じゃないわよ?」
「はい!?」
シャーロットの言葉に思わず彼女の方を振り向くミナト。
ふよんふよんふよん。
シャーロットの肩の上にいるのは虹色に輝く球体。ぴょんっとシャーロットの肩から飛び降りると白いワンピースだけを纏った虹色に輝く髪と瞳を持つ少女の姿になる。その姿を見て全てを理解するミナト。どうやら普段はこの少女の姿で過ごすことが多くなることは確定のようだ。
「ピエールちゃんを忘れちゃダメでしょ?」
「……??あいじン……、ってどんなものでしょうカ?」
こてんを首を傾げて不思議そうにミナトを見つめるピエールちゃん。ますます加速するハーレム的展開にミナトは遠い目をして地のダンジョンの最下層に広がるとても澄んだ青空を見上げるのであった。
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