第325話 新たな従業員の話

 ミナトがナタリアの名を呼ぶとアースドラゴンの長の体が光り輝く。


「あらあら~?この湧き上がる力はなんでしょう?」


 込み上げてくる大きな力と共に身体への変化を感じている。本質は同じままに存在そのものが書き換えられるような不思議な感覚。


『汝の名は?』


 唐突に頭に声が響いた。女性のもので声質は穏やかである。


「どなたでしょうか?」


 周囲を見渡す。ここはアースドラゴンの里に造られた街。建造物が並び立つ一角にある広場のはず。周囲にはミナト、シャーロット、デボラ、ミオ、オリヴィア、ピエール、そして他のブルードラゴンも居る筈なのだが光に包まれたこの空間では何も見えず他者の気配を感じることもできない。


『汝の名は?』


 重ねて問いかけられる。


わたくしの名はナタリア……。アースドラゴンの長にしてミナト様の眷属…、地皇竜カイザーアースドラゴンのナタリアを申します~」


 輝きが収まる……。そこには先ほどと変わらないエプロンドレス姿のアースドラゴンの長、改めてナタリアが立っていた。


「もう驚かない……。きっとデボラとミオの時と同じなんだよね……?」


 シャーロットにそう問いかけるミナト。


「そうね……。進化に関しては面白いくらいデボラやミオの時と同じだと思うわ」


 シャーロットがそう断言する。


「やっぱりね……」


「今の彼女は『地皇竜カイザーアースドラゴンのナタリア』よ。やっぱり私が聞いたことがない種族ね」


「そうですか……」


「でも今回は少し違うところもあるわよ。アースドラゴンは魔力を持たないという特徴を持っているけどその特徴は変わっていないみたい。だけどその代わりに身体機能の向上がえげつないみたいよ。白兵戦の強さに関してはもうどうしようもないほどの強さと言えそうね」


「その白兵戦の強さってどれくらい……?」


 ミナトが恐る恐るシャーロットに尋ねる。


「魔法のみを得意とする魔導士では近づかれて真っ二つってところかしら?かつて存在した魔王が武器と魔法を駆使しても武器だけの彼女と一対一で勝ち切るのは難しいと思うわ。深手を負ってギリギリの辛勝か悪くて相打ちといったところってやつよ」


「デボラとミオに続いて三人目?」


「今回もミナトの眷属として相応しい存在になったって感じだからいいんじゃない?」


 にこやかにそう言ってくるシャーロット。


「ピエールに続いて……、戦力がものすごーく過剰に上乗せされてゆく……」


 心の中で頭を抱えるミナトである。


 そんな二人のやり取りを見ていたナタリアがこちらへと向き直る。


「ミナト様!地皇竜カイザーアースドラゴンのナタリアでございます。改めてミナト様への永久の服従を誓わせて頂きますわ!」


 優雅にカーテシーをしつつナタリアが言う。


「ナタリア!デボラやミオの時にも言ったのだけど、できればシャーロットのように普通に接してほしいのだけど頼めるかな?」


「はい。ミナト様にそう言って頂けるのでしたら……」


「ミナト様じゃなくて呼び方も……」


 ミナトの言葉にナタリアは、


「ではこれよりミナト様のことをマスターと呼ばせて頂きます。わたくしもルガリア王国にあるBarで働かせて頂きますね」


「やっぱりそうなるの?」


 にこやかに宣言したナタリアの言葉にミナトが聞き返す。


「はい。皆さんからいろいろとお伺いしました。それにマスターが造られるカクテルと料理にはわたくしも大変興味がございます。そしてこの里の彼女たちもレッドドラゴンさんやブルードラゴンさんたちと同じくお客としてBarに行かせて頂きたく思います。そのときにこの里のウイスキーを持ってこさせますね」


「ハイ……、オネガイシマス……」


 ぽんぽん決まってゆくいつもの展開にミナトは機械的に反応してします。


「ミナト!いいんじゃない?お客も増えて店にとってよいことなのよ」


 笑顔でシャーロットがミナトの背中を叩く。


「うむ。我はマスターの判断に従うだけだ」


「ん。仲間が増えるのは嬉しい!」


「宜しくお願いします」


 デボラはいつものようにミナトの判断を尊重してくれるようだ。ミオとオリヴィアもナタリアを歓迎するようだ。今後、Barの従業員は交代制にしようと思うミナトである。従業員の休みを増やせることはいいことだ。その点については素直に嬉しいミナトである。


「おれとシャーロット、デボラ、ミオ、オリヴィアが働くBarにナタリアが加わる……?」


 ふよん。ふよん。


 スライムの姿になったピエールが飛び跳ねてミナトの肩に乗ってきた。


「そしてそんなBarにマスコットとしてピエールがいる……?」


 ひんやりつるつるとしている肌触りを楽しみつつ優しくピエールを撫でるミナト。


「王都にあるBarの筈なのによく分からないくらいに明らかな過剰戦力だわ!」


 嬉しそうなシャーロット。とりあえず世界に覇は唱えないと改めて心に誓うミナトである。そしてミナトはふと思う。『あれ……、これで終わりだっけ……?もう一つくらいなにかあったような?』と……。すると、


「そういう訳ですので皆さま、このナタリア、マスターの第夫人を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします」


 ナタリアがそう言って再びカーテシーをした。


「ぴ!?」

「その話はしていなかったわね……」

「なんだと!?」

「ん!?」

「そうでした……」

『夫人っテ?』


 ナタリアのお約束的な発言にミナト、シャーロット、デボラ、ミオ、オリヴィア、ピエールがそれぞれの反応を見せるのであった。

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