第273話 第四層で脱落する冒険者

「素晴らしい!私は諸君らの健闘に心からの賞賛を贈る!次の休息ポイントまでの移動を開始することにしよう!!」


 そう大音量で声を張り上げるのは『大穴のカラス』でリーダーを務めているレバンドン。だが周囲に設置された魔道具の効果でその声が外へと漏れることはない。レバンドンの言葉に従い冒険者達が出発の準備を整える。


 ここは『地のダンジョン』の第四層、その最初の休息ポイント。


 今回のレイドではこの第四層は最良かつ最短のルートで通過することが決断され、その途中に二回の休息が設けられるということになった。


 そして二つ設けられる休息ポイントでそれ以上進めなくなった者は『大穴のカラス』の戦闘員の協力の下、第四層での鉱石採取を行うということだったのだが、この最初の休息ポイントにおいて脱落する冒険者は何とゼロ。


 ちなみに移動速度は軽く身体強化の魔法を使ったミナトにとっても中々と思えるほどの速度であった。


 そのため『大穴のカラス』に連なる者達の中にはその事実に怪訝な表情を浮かべる者もいるが、そんなことには気づくこともなく結果のみを聞かされたレバンドンから発せられたのが冒頭の台詞である。


『上手くいったみたいだね……。さすがシャーロットとミオ!ありがとう!』


『ふふん!これだけ魔導士がいる中で誰一人私の魔法の行使に気付かない。この技術!もっと褒めてくれていいのよ?』


 そう念話を返してシャーロットがその美しい胸を張ってみせる。認識阻害インヒビションの効果で美しさが極小になっているのが勿体ないと思うミナト。


『ん!マスターの要望通り!カンペキだった!褒めて褒めて!!』


 ミオも可愛らしい胸を張ってふんすっと息を吐いてみせる。こちらも認識阻害インヒビションのせいで可愛らしさを感じない。


『よ!最強の魔導士たち!!美しい!そして可愛いらしい!』


 そんな念話を飛ばしつつ本来ならフードを被りっていてもその魅力が隠し切れない筈なのに実に惜しいことをしている……、などと思ってしまうミナト。


 もちろんのことだが最初の休息ポイントでの脱落者がゼロだったのには、当然ながら理由がある。それこそがシャーロットとミオであった。ミナトはシャーロットとミオに集団から遅れそうな冒険者の体力を僅かに回復してもらうことで、彼らがついて来れるように仕向けたのだ。


 ミナトのお願いによると二番目の休息ポイントで脱落者が少し出てほしいらしい。そうして誰一人欠けることなく出発した一行は無事に二番目の休息ポイントに到着する。


 シャーロットとミオの絶妙な魔法の効果によって何人かの冒険者が青ざめた表情のまま肩で息をしている。本当であれば最初の休息ポイントまでですら辿り着けなかったかもしれない者達だ。


「よし!確認させてもらおうか?ここで集団から外れて第四層で採取を行う冒険者は集まってほしい。もちろんパーティを割ってもらっても構わない。それぞれの安全は我等『大穴のカラス』が保証しよう!」


『大穴のカラス』のメンバーの一人と思われる男がそう言ってくる。ミナトからその容貌はとても善人には見えないのだが運搬役としてレイドに参加したパーティの中からちらほらと名乗り出る者達が現れた。流石に限界を迎えた者達がいるらしい。


 ミナトはちらりと最初に絡んできた女性とその相棒からなる女性二人組のパーティへと視線を送る。どうやら魔導士風の装いの相棒がここで脱落するようだ。その整った容姿を見てここに残るらしい戦闘役の冒険者から歓声が上がる。


 ミナトは首を傾げた。それほど疲れた様子は見せてはいなかった筈なのだが……。ま、それは置いておくとして……、


『お願いするね?』


『うむ!任されたぞマスター!』


『ん!ボクたちに仇なす者はミナゴロシ!』


 ミナトの念話にそう応え、デボラとミオが名乗りを上げる。ミオの念話に乾いた笑顔を浮かべるミナト。


「我はパーティ『竜を饗する者』のデボラ。第四層での採取を行いたい」


「同じくパーティ『竜を饗する者』のミオ。ボクも第四層で採取をする」


 そんな二人はフードを被ってはいない……、認識阻害インヒビションの魔法効果も消えている。


 つまり……、


 そこには美しい紅い髪を靡かせる長身かつ迫力のある見事な肢体を持つ絶世の美女と、青い髪を靡かせた見目麗しいという言葉をそのまま体現したかのような整った顔立ちに透明感と可愛らしさを極限まで追求した容姿の美少女がいた。


「「「「!?」」」」


 ここに残る戦闘役の冒険者達が驚いた表情で息を呑む。


『何かあったら残る冒険者を守ってほしい。そしてそのときの対応は二人に任せる』


 ……、実は二人共にこんな危険極まりない大雑把な指示をミナトから受けていた。だがそんなことなど露程も知らない戦闘役の冒険者達は裏でこっそりと下品な笑みを浮かべているのだった。

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