第272話 冒険者達は第四層へ

 クラン『大穴のカラス』が主催するレイドに参加した冒険者達は第二層、第三層を問題なく通過した。


 第二層、第三層ともに強力な魔物や群れを成して襲ってくる魔物はいなく、戦闘役の冒険者が各個撃破することができた。ドロップ品は小さい魔石と第一層よりは多少大きい鉱石だったが回収する者はいなかった。


 周囲から聞こえてきた話では普段はこの辺りで鉱石を集めている者がかなりいるらしい。だが今回は大物を狙うということでスルーした冒険者が大半だった。


 そうして一行は第四層へと降りる階段の近くにある少し広めの空間で休息をとっている。周囲には魔物除けの魔道具が設置され戦闘役の冒険者達が警戒しているので魔物からの襲撃の心配はないとのことだった。


 一般的にダンジョンの安全地帯とは階層と階層を繋ぐ階段の通路であり冒険者はそこで休息をとる。しかし今回のような大規模なレイドでは全員に情報を伝達することを効率的にするため魔道具を使う方法が取られているのだ。


『ここまでは何もなかったね……』

『何かあるとしたら魔物が強くなる第四層かしら……?』

『うむ。何が起こるか……』

『ん。マスターの予感は当たりそう!』

『何もなければそれが一番いいのですけどね……』


 そんな話をしていたミナトたち一行。彼らにとってここまでは楽な行軍だったと言えるだろう。


 休息もそろそろ終わるかとミナトが思っていると、『大穴のカラス』のリーダーであるレバンドンが座り込んで休息をとっている冒険者達の前へと姿を見せた。


「諸君!聞いてほしい!知っての通りこの第三層までは強力な魔物も群れを成して襲ってくる魔物もいないため比較的簡単に辿り着くことができる。だが第四層からはゴーレムやケイブウルフの群れが襲ってくることが知られている……。そして想定外の事態が起きた!先行していたメンバーからの情報によると第四層にいる魔物が普段よりも多いということだ!」


 ざわつく冒険者達。彼らを宥めつつレバンドンは話を続ける。


「私はこのレイドを中止する気はない!このレイドで皆と共に第五層を攻略することは私の夢だったからだ!だが第四層の情報を受け今回のレイドでは第四層での戦闘を最小限として第五層を目指すことを決定せざるを得なかった」


 少しずつ嫌な予感がしてくるミナト。


「第四層では信頼できる私の部下で剣士かつ斥候もこなせるA級冒険者のジングが最良かつ最短のルートを先導する。移動速度はこれまでより格段に速くなるだろう。ついて来れなくなる者がでるかもしれない……」


 レバンドンの言葉にあちこちから、


「どうすんだこれ……」

「第五層で稼ぐ話は……?」

「第四層で放り出されたら生きて地上まではもどれないな……」

「話が違わないか……?」


 そんな声が聞こえてくる。顔を青くしているのは護衛代とされ大金を前払いした冒険者達だろうか。彼らにしてみれば第五層での収入がなければ護衛代の巻き上げられ損である。


「だが安心してほしい!」


 圧倒的な迫力と輝く笑顔でそう言い切るレバンドン。


『さっきもジングって剣士を信頼できる部下って言いきっていたし、このも本気で言っている……。タチが悪いってこのことかな……?』


 ミナトがそんなことを思っているとは考えてもいないであろうレバンドンは、


「第四層はそれほど大きくはないことはよく知られていると思う。我々は最良かつ最短のルートを通る中で二回の休息を設ける。君たちにはその休息ポイントまでは頑張ってついてきてもらいたい。それぞれ二つの休息ポイントでそれ以上進めなくなった者は我が『大穴のカラス』の戦闘員が責任をもって第四層での鉱石採取に協力する!第五層で採取を行った場合と同額とまではいかないが、第二層、第三層で得られる収入とは雲泥の差となる収入を約束しようではないか!」


 一部の冒険者から歓声が上がる。顔を青ざめさせていた冒険者からもといった表情を浮かべている。


『そんな美味い話ってあるのかな……?懐に余裕があるならここで引き返すのも一つの決断だと思うけど……。……なんか誰もそんなことしなさそうだね……。あのクランがかなり信頼されている?前の世界の悪意が巧妙過ぎておれの警戒心が強いだけ?』


『私は警戒するミナトの方が正しいと思うけど、護衛代を払ってしまった冒険者達に選択の余地はないのでしょうね』


『それくらい今回のレイドにかけていた?』


『そんな冒険者が結構たくさんいたってことでしょうね……』


 もしかしたら古都グレートピットで活躍する下級冒険者は他の街や他国の同じ階級の冒険者と比べても稼げていないかもしれない。そんなことを考えてしまうミナト。ミナトが考えを巡らせている間に周囲の冒険者達の心は決まったらしい。この第三層で引き返すという選択をする冒険者は一人もいなかった。


『これはマズいかも……。シャーロット!ミオ!』


『ミナト?何かしら?』


『ん?マスターのご命令?』


 最悪の事態を想像したミナト。彼は慌ててシャーロットとミオにをお願いするのだった。

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