第271話 ミナトは周囲の声を聴く

 世界最難関ダンジョンの一つと言われる『地のダンジョン』。その第一層にミナトは足を踏み入れた。


「おおっ!」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 第一層は岩場によって構成されるドーム状の広大なフィールドであった。非常に高い天井に当然のごとく太陽はないが天井を構成している鉱石の一部が発光しているらしくそれが夜空に浮かぶカラフルな星のように光り輝き幻想的とも言える雰囲気を醸し出している。


「ミナト!ようこそ『地のダンジョン』へ。第一層はこの美しい空間が特徴ね。ま、言ってしまえばそれだけなのだけれど……」


 そう言ってくるのはシャーロット。


「うむ。この層は魔物も弱く、採れる鉱石にめぼしい物はなかったはずだ。ダンジョンを創造した存在はどのような目的でこの層を造ったのか……」


「ん。奇麗なだけ!」


「相変わらず不思議な空間ですよね~」


 シャーロットに同調するミナト以外の四人の美女。


 今回のレイドに参加している冒険者達も彼女たちと同じ認識を持っているようで、第一層に関心を持つことなく第二層を目指して移動を開始する。


 その道中も単体のゴブリンやコボルトが出現するくらいで戦闘役を担う冒険者が簡単に倒してしまう。小さな魔石と小石ほどの何かの鉱石をドロップしていたがそれを回収しようとする冒険者はいなかった。


 移動の最中、ミナトは『地のダンジョン』の入り口付近できつい視線と共に装備に難癖をつけてきた前衛職と思われる女性とそのパーティメンバーである魔導士風の女性にちらりと視線を送る。


 先ほどは『ここで揉めても他の皆さんに迷惑が掛かるから!』という台詞と共にシャーロットクラスの魔導士でなければ気付けないくらい微量の魔力を乗せた威圧でもって引き下がってもらったのだが……。ミナトの視線に気付いたのか再度こちらにきつい視線を送ってくる。


 その横にいる魔導士風の女性が『もう……、やめなさいよ……』と言いつつ服の裾を引っ張っているのがちらりと見えた。


『ミナト?あの子が気になるの?睨んでくるだけで私たちに何か仕掛けてきそうな様子はないわよ?』


 シャーロットがそう念話を飛ばしてくる。


『ああ。シャーロットの言う通りだとおれも思う。おれが気になっているのはってことだね』


『誰かに襲われるとか?』


『うーん。端的に言ってしまえばそうなんだけど……。あの二人って冒険者証を見せていないけどF級とかE級ではなさそうなんだよね』


 ミナトを捉まえて堂々と装備を指摘する姿は少なくとも駆け出しの冒険者とは思えなかった。


『あれだけ目立った上に二人とも美人と言える容姿を持っている。レイドの最中にあわよくば……、なんて思った連中は少なからずいるんじゃないかと……、だけど二人ともちょっと手強そうだから……、どこかのタイミングで隙をついてってところかな……、全部おれの想像上の話だけどね?』


『それってミナトがよく言うふらぐってやつかしら?』


『うーん……、レイド中に何かで周囲の目を引いた容姿端麗の女性冒険者が何者かに襲われる……(そして主人公が助ける……)、ちょっと弱いかな?』


『??』


 ミナトの返答に表情に疑問符を浮かべて認識阻害インヒビションの効果からいつもよりかは少なめの美しさで首を傾げるシャーロット。


 二人組の女性冒険者から視線を外したミナトは周囲を確認する。


「俺このレイドで稼いで彼女に結婚を申し込むんだ!」

「孤児院の借金と改築費用はこの俺がレイドで……」

「(あんな脅しには屈しないの表情で)このレイドの稼ぎは俺のものだ。稼ぎは誰にも渡さない……」

「レイドが終わったら一緒になろうって娼館のドロシーちゃんが言ってくれたんだ!ゼッタイ一山当ててやるぜ!」

「病気の妹の薬代をこのレイドで……」

「幼馴染を借金のカタになんてゼッタイにさせない!」

「これで一発当てて嫁に戻ってきてもらうのさ!」

「義姉さんの借金をこのレイドの稼ぎで……」

 えとせとらえとせとらえとせとら……。


『はい……?』


 次々と大量に漏れ聞こえてくる内容にミナトは一瞬言葉を失う。


『何なんだ?このレイド、あっちこっちでベタな死亡フラグが立ちまくりじゃないか??』


 ここが現実に存在する異世界とはいえこれは縁起が悪すぎる。


『みんな!気を引き締めていこう!この状況はとてもゲンというか、縁起が悪い……、とても悪い……、というか悪すぎだ!この状況……、運搬役の全員が全滅するような事態が発生してもおれは驚かない自信がある!』


 気合を新たに運搬役としてミナトたち一行は『地のダンジョン』の第五層を目指すのであった。

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