第263話 私たちに護衛は不要ですから
オッサン系冒険者に絡まれたミナト。むさ苦しくて不潔な外見そのままにきつい体臭が鼻をつく。温泉街が近いのだから清潔にすればいいのにと思ってしまうが、
「なんでしょう?」
とりあえず丁寧な応対で臨むミナト。丁寧語は冒険者では舐められる原因となるから……、的なラノベの展開は気にしない。他の冒険者が列を作っている受付カウンターから少し離れたところに移動して話をすることにした。
「お前も今回のレイドに参加するのか?」
他人に話しかけるときはもう少し友好的な態度をとったほうがよいとミナトは思うがとりあえず表情には出さない。
ここがルガリア王国の王都であればミナト相手にこのような態度をとる冒険者など存在しない。はじめて冒険者ギルドを訪れた際、ちょっかいをかけてきたB級冒険者のダミアンを【闇魔法】の
現在、王都の冒険者ギルドで他の冒険者に絡むような態度の悪い冒険者はほぼ存在しないといってよい。なんなら『冒険者は家族!助け合いと愛情こそが明日への道を切り開く』なんてことを唱えながら初心者や若手を手助けする冒険者をちらほらと見かけてしまうほどだ。
残念ながらここ古都グレートピットの冒険者ギルドではそんな風潮はないらしい。そしてどうやらミナトの顔は知られてはいないようだ。王都の冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんやオルフォーレの街でギルドマスターをしているリコ、ヴェスタニアのギルドマスターであるラーモンドなどが連絡を入れてそうなものだと思ったが、どうやらこの冒険者ギルドには届いていないようである。
「ええ。受付で稼ぎ時と言われたものですから……」
なんで始めた会った奴にこんな話をしなくてはいけないのか、と思わなくもないミナト。だがまだ言葉遣いは丁寧である。
「そうか。その冒険者証だとF級、ってことは一人当たりディルス白金貨一枚だ。早く出しな!」
「?」
表情に疑問符を浮かべて首を傾げるミナトとフードの下で不快な表情を浮かべる美人のエルフ。
「ディルス白金貨?それは何故ですか?」
問いかけるミナト。まだその口調は穏やかである。傍らの美人エルフから『こんなゴミは消し炭にして早く行きましょう』的な雰囲気をビシビシと感じるが念話で宥めておく。ミナトは少し興味を持った。ここは冒険者ギルドの建物内である。普通に考えてこんな恐喝じみた行為がまかり通るわけはないのだ。しかし周囲の冒険者達は意に介していない。当たり前の風景とされているようだ。
ちなみにディルス貨幣はこの大陸でもっとも信頼のおける貨幣の一つであり、日本の通貨に換算すると次のような価値である。
ディルス鉄貨一枚:十円
ディルス銅貨一枚:百円
ディルス銀貨一枚:千円
ディルス金貨一枚:一万円
ディルス白金貨一枚:十万円
一般的な話ではF級冒険者とは稼げる冒険者とはいえない。そんな冒険者から白金貨を一人一枚とはどういうことなのか……。
「あん?知らねえのか?護衛だよ!ごえい!今回のレイドは『大穴の
護衛とベテランの部分を強調してそう話す得意顔のオッサン冒険者。
「あ、白金貨一枚ってのは前金だぜ?お前らが持ち帰った鉱石を換金した金からも報酬を頂くからな?」
そんなことまで言ってきた。
『これってタカリじゃない?レイドでもクランの活動と同様で戦闘役と運搬役に分かれるって話じゃなかった?』
『レイドでは戦闘役として参加し報酬を貰う。そして運搬を請け負う冒険者からさらに護衛代として金をせしめるってところかしら?こんなのだと運搬を請け負う下級の冒険者達は大した額を稼ぐことができない。腐っているわね』
『こんなことが罷り通るってことはレイドを主催しているクラン自体も怪しいな……』
『前言を撤回するわ。たぶん上級の冒険者から搾取される仕組みがありそうよ?』
ミナトとシャーロットはそんな念話でそんな会話を交わして、
「お断りします。私たちに護衛は不要ですから」
平然と、あくまでも平然とそう返した。鳩が豆鉄砲を食らったという表現がぴったりの表情になるオッサン冒険者。
その間隙を縫ってさっさと建物の外に出るミナトとシャーロット。小さな路地を見つけて飛び込むが、気配を探るとテンプレ宜しく五人が後を追ってきたのが分かった。
「追ってこなかったら見逃したのに……」
「それが慈悲だと気付ける心はあの連中になかったようね」
少しだけ腹が立ったミナト。クランの仕組みも今回のレイドもきちんと運用すれば皆の懐を潤わせることができるよい仕組みである。それなのにあのような真似をする冒険者やそれを容認している『大穴の
「命までは獲らないけど……」
「そうね。あんな連中のために同族を殺す必要はないわ。私が瞬殺してあげる!」
ミナトの怒りが伝わったのか被っていたフードを上げて獰猛な笑みを浮かべるシャーロット。
「えっと……、殺さない程度に……、ね?」
そうは言いつつ、獰猛な笑みを浮かべたシャーロットも美しいと思ってしまうミナトであった。
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