第264話 ミナトとシャーロットは迎え撃つ
古都グレートピットの路地裏を移動するミナトとシャーロット。背後から追ってくる五つの気配は把握済みだ。するとテンプレ展開が続行中なのかお誂え向きに人気のない広場にでた。
「ここでいいかな?」
「ま、あの連中の墓場には相応しいわね」
「シャーロットさん……?」
シャーロットが辛辣である。ミナトにとっては優しくて頼もしい美人エルフであるが他の人族への当たりは基本的に厳しめだ。
待つことしばし……、ミナトたちが待ち構えている広場に『まるで絵に描いたよう』という表現がぴったりくるガラの悪い五人の男が登場した。真ん中が先ほど声をかけてきたオッサン冒険者である。顔を真っ赤にした怒りの表情を浮かべていた。他には髭面の剣士、スキンヘッドの大盾持ち、長髪の弓使い、影の薄い男は斥候だろうか。武器主体の冒険者パーティのようだ。それにしても全員に清潔感がない。
『温泉街があんな近くにあるんだから風呂ぐらい入ったらいいのに……』
そんなことを思っていると怒りの感情で埋め尽くされていたオッサン冒険者の表情がニヤケ面へと変わり舌なめずりを始めた。正直言ってかなり気持ち悪い。他の冒険者達もニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ始める。
『どうしたんだ?あ!シャーロット?』
男共の視線の先にいるのはシャーロット。今はフードを被っていない。そこにいるのは絶世の美女エルフ。
「なんだぁ?そんな極上の土産を用意してくれていたのか?」
ニヤニヤと笑うオッサン冒険者。
「おいおい!エルフだぜ!エルフ!」
「ああ。それにこんな上玉は見たことがないぜ!?」
「兄ちゃん!悪いなぁ?運がなかったってことだ!」
「そんな兄ちゃんじゃ満足できないだろ?俺達がたっぷりと可愛がってやるぜ?」
口々に聞くに堪えない雑言を言ってくる。ミナトはちらりとシャーロットに目を向けると、
『シャーロット?』
念話で声をかけてみた。
『ミナト……。ミナトが殺すなっていうから一応は我慢するわ。一応よ?い・ち・お・う?』
そんな念話が返ってきた。我慢できそうじゃなさそうである。ここにミナトがいなかったら冒険者達の全ての首は秒もかからずに胴体からオサラバしていただろう。命の恩人として感謝してほしいくらいのミナトである。
「えっと……、何を考えているのか大体分かりますが、襲い掛かるのであれば彼女はお勧めしません。私との戦闘であれば再起不能ぐらいで勘弁してあげますが、彼女の場合は命の保証はできませんよ?」
穏やかにそして諭すようにそう伝えてみるミナト。挑発ではないこれはれっきとした事実である。今日も【保有スキル】である泰然自若はいい仕事をしているらしい。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
しかし挑発されたと思ったのか冒険者達の顔面が再び怒りに染まる。冒険者達が武器を構えた。それを見たシャーロットがミナトから少し離れた位置へと移動する。戦闘準備のようだ。
「いや挑発じゃなくて事実だから!」
落ち着き払って言うミナト。目の前の冒険者達からすればミナトたちは武器すらも携帯していない若い男女のF級冒険者で一人は絶世の美女エルフ。そう見えるのであれば、
『襲いたくなる気持ちは分からないではないけど、その認識は事実との差がありまくりなんだよね……』
そんなことを思っていると、
「舐めるなよ!兄ちゃん!」
斥候らしき男がナイフを手にミナトとの距離を一気に詰めようと動きを開始する。長髪の弓使いが援護のためかミナト目掛けて弓を構えた。
「
ミナトがそう呟く。
「がっ?」
斥候らしき男がナイフを取り落としその場に倒れ込む。
「なっ?」
同じタイミングで弓使いも膝から崩れ落ちた。
その様子を目の当りにしてオッサン冒険者と髭面の剣士それにスキンヘッドの大盾持ちが狼狽える。
「て、てめぇ!こいつらに何をした!?」
そんなことに答える義理をミナトは持ち合わせていない。【闇魔法】
【闇魔法】
至高のデバフ魔法。対象の能力を一時的に低下させます。低下の度合いは発動者任意。追加効果として【リラックス極大】【アルコール志向】付き。お客様に究極のリラックス空間を提供できます。
ミナトは無言で三人へと視線を向ける。その全身からふわりと魔力が湧き上がる。魔力による威圧を放ったのだ。その威圧は魔力を持たない者にも作用する。どう考えてもF級冒険者が発する威圧ではない。
「や、やべぇ!!お、おい!!女だ!あのエルフを人質にするんだ!!」
オッサン冒険者の言葉に剣士と大盾持ちが慌ててシャーロットへと駆け寄ろうとするが、
「あ……、だからそっちはダメだって……」
ミナトが声をかけるも手遅れだった。剣士と大盾持ちの腰から下と両手首から先が一瞬の内に消えたのである。駆け寄る勢いそのままに地面へと倒れ込む二人の男。叫び声を上げないのは意識を刈り取られているからだろう。切断面からは一滴の血も流れていないのが不気味である。
「命は助けてあげるわ。残念ね?もう誰かを可愛がることは出来そうにないわよ?」
生ごみを見るような視線とは今のシャーロットの視線のことだとミナトは実感するのであった。
『シャーロット?何をしたの?』
『
てへぺろ……、そんな感情を乗せた念話が返ってくる。
「な、なんだ!?なんだよ!?なんなんだよ、お前たちは!?なんだ?何をした!?あいつらに何をしたんだよ!!!」
涙目になって唾を飛ばしながら喚き散らすオッサン冒険者。足に力が入らず逃げることができない。これも
「おれ達がF級の冒険者ってことは知っているだろう?」
「頭、悪いのかしら……」
互いを見つめ合ってそんなことを話すミナトとシャーロット。
「お、俺は……、俺達は……、俺達は『大穴の
ちなみに声を張り上げてはいるが周囲には一切聞こえていないしこの光景も見えてすらいない。こちらはシャーロットが張った結界の効果である。
「下部組織のメンバーって……」
「つまりザコね!」
シャーロットが言下に断定する。ミナトがオッサン冒険者へ近づいた。
「お前は心配しなくてもいい。それからお前も下半身と手を無くした二人も、おれに向かってきた斥候と弓使いのような状態にしてやるよ。確か街の神殿で受けられる回復魔法は空腹にも効くって話だから金さえあれば生き続けることができるさ。ゆっくりと何もできない生活を楽しんでくれ」
その言葉と共にオッサン冒険者は意識を失うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます