第257話 ねんがんのトニックウォーターをてにいれたぞ!

 グランヴェスタ共和国にある古都グレートピットの周辺に造られた温泉街バーデン。その食堂で思いがけなくトニックウォーターというメニューを目の当りにしたミナト。


「す、すいません!このトニックウォーターというのは?」


 慌ててミナトが笑顔の店員さんに問いかける。


「はい。トニックウォーターは他のメニューと同様にこの街が造られた当初からある古い飲み物です。伝わっている逸話でヒロシさんは『ジンがあるのにジン・トニックがないなんて天が許してもこの私が許さない』との言葉を残し血眼になってトニックウォーターの開発を行ったとか……。ジンはジーニのことだとされています。本来はなる料理に連なる飲料ではないらしいのですが、この飲み物だけは例外だそうです」


「そ、そうなんですね……」


 ミナトは引き攣った笑みを浮かべながらそう答える。


『ジン・トニック好きだったのかな……』


 そんな心の声が念話で漏れ聞こえる。


『ミナト?トニックウォーターってミナトが探していたやつよね?』


『うむ。確か炭酸水からの自家製では上手くいかぬと言っていたな……』


『ん?いいもの?』


 ミナトの念話が届いたのか三人が念話を返してきた。


『ああ。これが本当にトニックウォーターであれば遂にジン・トニックが造れることになる!だからとりあえず料理を注文しよう。飲み物はコーラとトニックウォーターでね。コーラも自家製は微妙だったから美味しいと嬉しい……。コーラも手に入るのならキューバ・リブレも……、あ……、ラムはまだ手に手に入っていなかった……』


 三人に念話を返し飲み物と料理をオーダーすることにするミナト。ハンバーガー、フライドポテト、チキンナゲットを三人前。飲み物はコーラとトニックウォーターである。


 そうして料理が運ばれてくる。


「どうぞごゆっくり~」


 その言葉と共に店員さんは去っていった。


「……兎にも角にもトニックウォーターの確認だ……」


 逸る気持ちを抑えてミナトは大きなグラスに満たされた発泡している透明な液体を口へと運ぶ。


 きちんと感じる炭酸とソーダ水では感じられないほのかな柑橘とハーブの香り、そして甘みとわずかな苦み……。これはかつての世界でよく使っていたトニックウォーターに酷似していて……、


『トニックウォーターきたぁあああああああああああ!!!』


 周囲に他のお客もいたので心の中で絶叫する。そして頭の中に某有名RPGの貴重なアイテムを入手した時の音楽が流れた。


『これは間違いなくトニックウォーターだ。これでジン・トニックができる……。これは嬉しい……』


『この国では炭酸を込める技術があるみたいね。これ美味しいわよ。ジンをこれで割るのがジン・トニック……。これは楽しみだわ!ミナト!造ってくれる?』


『うむ。ソーダ水とは異なる味と風味だ。ジン・トニック……、これは飲まなくてはいけないな』


『ん!ボクもこれは好き!今夜はジン・トニック!!』


 そんな三人にミナトは笑顔を向ける。


「よし!今夜はジン・トニックにしよう!」


 それを聞いた美女たちは目を輝かせて喜ぶのであった。


 さらにミナトはグラスに満たされた黒色の液体に手を伸ばす。コーラとのことだが、見た目は間違いなくコーラである。その黒色の液体を一口含むと、


「おお、これもきちんとコーラだ!」


 コーラはかつての世界にもいくつか種類があったが、これは赤を基調にしたコーラの味にとても近い。かなりの執念を感じてしまうミナト。


「ミナト!これもカクテルに使えるの?」


 シャーロットが聞いてくる。


「キューバ・リブレとかラム・コークってカクテルで使えるけど、どちらかというとこの飲み物はこのまま飲む方ことが基本だったよ。世界的に売れた飲み物だったんだけど、これはそれにかなり近い味になっているね」


 そう返すと、


「なるほど、これはそのまま飲むのか……、この甘みと独特の香りがクセになるな……」


 デボラはどうやら気に入ったらしい。


「ん。あまくてしゅわしゅわ……」


 ミオもまんざらではないようだ。


「コーラはこのハンバーガー、フライドポテト、チキンナゲットとの相性がいいんだ。……というかびっくりするくらいおれのいた世界のアメリカっていう国の典型的な料理だね」


 そう説明してみる。興味を持ったのか三人が紙に包まれたかなり大きなハンバーガーを手に持つが、


「ミナト……、これってどうやって食べるの?」


「うむ?」


「ん?」


 戸惑いの表情を浮かべる美女三人。ヒロシという人物はかなりの拘りをもって料理を指導したらしい。ハンバーガーは直径が二十cmに迫るほどのバンズと同じ直径の厚さ三cmはあるしっとりこんがりと焼かれたジューシーなパティ、ケチャップでの味付けはアメリカの本場仕様であり、野菜とたっぷりのチーズが入っている。手や顔への被害を無視して齧り付くしかない種類のハンバーガーであった。そのことを説明すると、


「モグモグ……、美味しいわね……、これは……、モグ……、確かに……、ゴクゴク……、うーん!コーラに合うわ!」


「うむ……、モグ……、これはたまらん……、モグモグ……、ゴクゴク……、ぷはー、コーラとの相性も最高だ!またこのフライドポテトとの相性もまた……」


「ん……、もぐもぐもぐもぐ……、ゴクゴクゴクゴク……、ナゲットも美味しい……」


 そこには艶やかな手への脂も、美しい顔へのケチャップもその一切を気に留めることもなく豪快にハンバーガーへと齧り付き、コーラを飲み干す美女たちの光景が繰り広げられていた。


『初めてシャーロットに会った時を思い出したよ……』


 ミナトの呟きは誰の耳にも届かなかった。

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