第255話 宿で美味しい朝食を!
グランヴェスタ共和国の古都グレートピット周辺に造られた温泉街の一つであるバーデンに朝が訪れる。街のあちこちから沸き立つ湯気が朝日に照らされて幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そんな朝日に照らされる温泉街バーデンでも屈指の温泉施設を誇る高級宿『戯れる妖精は泡沫の夢を見る亭』の最も豪華な一室に備え付けられた露天風呂。
そんな部屋付きの豪華な露天風呂を使おうと部屋の中から一つの影が姿を現す。それはふらふらと揺れながら最低限のマナーとしてかけ湯を行うと滑り込むようにしてその体を湯船へ放り出した。
「はあぁぁぁぁぁぁ~~~」
そんな言葉と共に湯船の中で仰向けに浮くと共に大の字を描くミナト。温泉の温かさと空気に触れる肌に感じる涼しさ、その温度差が妙に心地よい。
『温泉で浴衣と布団ってこんなことになるんだ……。なんという破壊力……、もう……、ウゴケナイ……』
目を閉じると大の字のまま湯船へと沈んでゆくミナトであった。
その一方で……、
「朝食に出るっていう温泉街の名物って何かしら……?」
「うむ。楽しみではあるな!」
「ん。マスターには悪いけど楽しみ!」
そんな会話をしながら宿の食堂を目指して歩いているのはシャーロット、デボラ、ミオの三人。三人とも浴衣姿だ。浴衣は宿からのサービスとのことである。
シャーロットはいつもと違って輝く美しい金髪を低い位置でポニーテールにしてから根本に巻き付けてピンで留めただけの簡単なアップスタイル。普段は見ることのできにない後れ毛とうなじ、そしてエルフの耳とのコラボがたまらない。デボラはその紅い髪をシンプルに片方のサイドに寄せたスタイル。だがそれが長身でスタイル抜群のデボラの浴衣姿にはとても映えている。ミオは青い髪を可愛らしいポニーテールで纏めている。だが浴衣とポニーテールとその後れ髪がいつも以上に大人っぽい色気を感じさせた。
そして全員の肌は温泉のためかそれ以外の効果かいつも以上にぷるっぷるの艶々でその佇まいには確かな充実感が溢れている。
「ミオよ!マスターが動けないのはシャーロット様が悪いのだ。この姿で誘惑したのだからな」
そう言ったデボラがアップスタイルで浴衣姿のシャーロットを指し示す。
「ん。耐えられる
大きく頷くミオ。
「な、なにを言っているのよ!?あなた達だって同じことをしていたじゃない!?」
エルフ独特の耳まで真っ赤になってシャーロットが言い返す。
「確かにこの浴衣という装いはマスターの好みとのことだったが、我はあそこまでは……」
「ボクもそこまでするとは……」
二人からのジト目から視線を外して、
「だ、だってミナトが奇麗って言ってくれたから……」
そう応えてみるが語尾がどんどん小さくなる。
「でもデボラだって……」
反撃に出るシャーロット。
「い、いや……、シャーロット様……、そ、それは……、ミ、ミオだって……」
「それはズルい……、ボクは……」
そしてさらにきゃいきゃいと盛り上がる美女たち。周りに他の客の姿がないことがミナトにとってせめてもの救いだっただろうか。そうして美女たちは食堂へとたどり着く。
「美味しい!このパンは美味しいわ!このバターも新鮮ね」
「うむ。これほどのパンはなかなか……。そしてこのベーコンという干し肉のようなものを美味い」
「ん。そしてこのオムレツも腸詰も美味しい!」
シャーロットたちを待っていたのはトーストにオムレツ、そして焼いたベーコンにソーセージ。いわゆるアメリカンブレックファスト。同じような料理はルガリア王国の王都でもミナトが作ってくれたことがあったがどうやら食材そのものの味が上らしい。
「ありがとうございます。この朝食はグランヴェスタ共和国で初代評議員を務められたヒロシという方が広めたものと伝わっております。ここに温泉街を造るのを主導した人物として知られている方ですね」
その抜群の外見を無視する形でむしゃむしゃと盛んな食欲を見せる絶世の美女たちを前に圧倒され引き攣ったような笑顔を見せる従業員さんがそう説明する。
「ヒロシ?」
そう聞き返すシャーロット。
「はい。ヒロシという人物は温泉街の朝食を重要視していたと伝わっています。ですがあの方の故郷の朝食は再現するのがとても難しく、他国の朝食で妥協したとか……。それでもその妥協が許せなかったらしく味にはこだわったらしいのです。そのためこの食パンと呼ばれるパン、さらにこちらのベーコンと呼ばれる干し肉やソーセージと呼ばれる腸詰の開発に心血を注がれたと伺っております。あ!あともう少ししたら温泉の熱源を使った蒸し野菜と卵料理もできますのでお楽しみください」
そう言って一礼し従業員さんは奥へと消えていった。
『ヒロシって確か三百年前にミナトと同じ世界から来たっていう異世界人よね?』
『うむ。三百年前では今ほど食材が流通してはいないと思われる。今のマスターのように元の世界の料理が作れなかったのかもしれぬな……』
『ん?だからできる範囲で頑張った……?』
『そんなところかしらね。でもこのパンは本当に美味しいわ。王都でも再現できないのかしら?』
『うむ。マスターなら知っているかもしれぬな……』
『ん。シャーロット様が行動不能にしたけど……』
『私だけが原因じゃないでしょうが……、まあ、それはいいとして後でミナトに聞いてみましょう』
念話でもわちゃわちゃと楽しむ美女たち。それをじっと見つめる視線があったのだがそんなことを気に掛ける美女たちではなかった。
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