第253話 出立!古都グレートピットへ
『ヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会』は盛況のうちに幕を閉じた。
さらに数日が経過して……、ヴェスタニアの街はいつもの朝を迎えていた。今日も見事な秋晴れだが流石にこの時期になると朝の気温はなかなかに低い。もう少しすると職人たちの威勢のいい声が聞こえ始めるだろう。
そんなヴェスタニアの街における東側の玄関口となっている東門にある広場。ここから東へと延びる街道沿いに進めば古都グレートピットへと到着することができる。広場では東へと向かう乗合馬車や商隊があちらこちらで出立の準備を行っていた。そんな広場にミナト、シャーロット、デボラ、ミオの姿がある。
「ありがとうございました」
そう言って頭を下げるのはアイリス。
「娘が世話になった」
「ありがとうございました」
アイリスの父であるツェーザルさんと……、『改めましてアイリスの母のパロマです』と挨拶をしてくれたパロマさんも同じく頭を下げる。
「アニキ!本当にありがとう!」
と言ってくるのは笑顔のケイヴォン。ミナトたちがアイリスを手伝うきっかけを作ったのがケイヴォンであることはここにいる全員が知っている。アイリスの父であるツェーザルさんと『感謝はするが娘が欲しくば、この儂と娘を超える職人となって出直してこい』的なやり取りがあったとかなかったとか……。頑張ってほしいと思うミナトである。
「またこの街に来たときは声をかけてくださいね」
こちらはリーファン。
「達者でな」
そう言ってくるのはケイヴォンとリーファンの師匠であるグドーバルさん。グドーバルさんとツェーザルさんは古い馴染みということで仲が良いらしい。
ミナトたちが古都グレートピットへ出立する日が本日であること知った彼らが見送りに来てくれたのだ。
「アニキ!アニキはやっぱり凄腕の冒険者だったんだな!」
そんなことをケイヴォンが言ってくる。
「え?」
すっとぼけてスルーしようとしたミナトだが何故か驚きの声を上げてしまう。今は【保有スキル】の泰然自若はその効果を発揮していないらしい。
「いろんな噂になっているぜ!アイリスさんを襲撃から護ったとか、あの商会を……」
「ペラペラしゃべるなと言っただろうが!」
師匠であるグドーバルのアイアン・クローがケイヴォンの頭を鷲掴みにする。
「イタい!イタい!イタいって師匠!ヤメテ!ヤメテ!アタマ!オイラのアタマが!」
「そんなものは知らん!」
さらにギリギリと頭を締め上げるグドーバル。
呆気にとられながらそんな光景を眺めるミナト。
『噂か……』
そう心の中で呟く。確かグドーバルやツェーザルは職人達のなかでもかなり立場が上の職人の筈である。職人ギルドや冒険者ギルドともつながりがあるのだろう。ミナトたちがこの街を訪れて以降、何が起こっていたのかとミナトたちがどう関与したのかについてある程度は把握しているのかもしれない。
『……その場合は……』
「おれ達が何をしたかについては冒険者の秘密ということで一つ宜しく」
笑顔でそう言ってみるミナト。本人はニッコリ笑ったつもりだが、傍から見ると目があまり笑っていない上に少しだけ魔力が漏れ出している。この場でこの微量の魔力を感じることができるのはミナトたち一行を除けばツェーザルさんとグドーバルさんのみなわけで……。
そんなツェーザルさんと絶賛アイアン・クロー中のグドーバルさんがミナトに視線を向け驚愕の表情と共に凍りつく。その顔色は青を一気に通り越し、あっという間に土色だ。
「も、もちろんじゃ。ミ、ミナト殿がこの街で……、な、何を成したかなど儂は知らん。儂は知らんぞ!」
「わ、わ、儂も同じく……、ミ、ミナト殿達はこの街で観光を楽しまれて行った……、ただ……、ただそれだけの話じゃ……」
ポカンとしてるアイリス、パロマ、ケイヴォン、リーファンをよそに土色の顔にダラダラと冷や汗を流しながら人形のようにそう呟く二人。
『でたわ……。ヘタな契約魔法より拘束力がありそうなのよね。あれって何かのスキルかしら……』
『うむ。誰だって命は惜しい。二度と口にはするまい……』
『ん。魔王様との契約はゼッタイ!』
そんな念話が聞こえてくるが心の中で『しくしく……、魔王じゃないって』などと反論しつつ無視するミナト。
「よかった……。じゃ、そろそろ出発します!」
そう宣言するミナト。そうするとツェーザルさんとグドーバルさんも元に戻る。
「「「「ありがとうございました」」」」
そんな言葉を背中に受けて、
「アイリスさん!今度来るときにいろいろと注文させてもらうよ。ケイヴォン、リーファンも頑張って!」
「頑張ってね!」
「うむ。よい職人として大成することを願っているぞ!」
「ん。ばいばい!」
最後は真の笑顔で別れを言うミナトたち。アイリス達も手を振って見送る。古都グレートピットまでは徒歩で五日ほど。
澄み切った秋晴れの下、ミナトたちの足取りは軽いのであった。
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