第252話 これにてギルドからの依頼も達成ということで……

「アイリスよ。そなたは『ヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会』武具部門クラスFにおいて素晴らしい作品を出品した。その技術と職人魂に敬意を表しここに武具部門クラスFの最優秀賞を贈る。これ以降も弛まぬ精進を続けその技術と心の向上を目指してもらいたい」


 そんな言葉と共に金色のメダルを壇上に立つアイリスへと渡すのはロマンスグレーという言葉がぴったりな貴族風の正装をしているダンディな白髪の男性。六十歳は越えていると思われるがその姿は威厳に満ち、目には力が宿っている。


「あれがギュスターヴ卿ね……。いかにもって感じだけど……」


 ミナトがそう呟く。グランヴェスタ共和国評議員を務めるこの国の重鎮でありこの大会を取り仕切っている人物だ。全てのきっかけはケイヴォン君の頼みだったとはいえこの大会に纏わるミナトたちの行動はおそらくあの男の掌の上であったと思われる。


「たしかに為政者って感じがするわ。ああいうのは頭が回るし権力を上手く使うのよね。同じ土俵で相手をするのは面倒よ?それに一応はこの街のことを考えての行動でしょ?その分だけまだマシよ!」


 そう言ってくるのはシャーロット。それには一理あるとミナトも納得している。ギュスターヴ卿にとって最も大切なのはこの国、この街で暮らす人々の利益や幸福なのだろう。それらを護るために他国から来た使えそうな冒険者を利用する……、例えその冒険者が危機に陥る可能性があったとしても……、何かを護るために何かを犠牲にする……、これは為政者としては当たり前の行為だ。


「うむ。為政者の思惑はさておきアイリス殿があのように笑顔なのだからそれでよいと我は思う!」


「ん。ボクも!」


 大会会場の一角に用意されたステージ。ここで優秀作品の発表と表彰式が執り行われた。アイリスは見事にクラスFの武具部門で最優秀賞を勝ち取った。ちなみにケイヴォンとリーファンの二人が次点で優秀賞である。最後のクラスであるクラスFの表彰が行われ、会場からアイリスへ温かい拍手が送られている。


 デボラとミオも笑顔で拍手を送っていた。


『ああ。それで十分だ……』


 ミナトは口の中でそう呟き、アイリスへと拍手を送る。


「ここにいたのか……」


 そう言いながらヴェスタニアの冒険者ギルドマスターであるラーモンドが近づいてきた。身長は二.二メートルでスキンヘッド……、までは以前にあった時と同じだが筋骨隆々だった以前と比べてどこか少しやつれているようで元気がない。少し頬もこけている。


「お久しぶりです。大丈夫です?体調でも崩されたのですか?」


 この男もギュスターヴ卿と共に一連のあれこれを策謀していたと思われるのだが、そこには触れないミナトは心配している風に言葉を返す。


「どの口が言うのかまったく……、依頼を出したのはこっちだが……、まあ随分と派手に暴れてくれたものだ……」


 小声でそんなことを言ってくる。


『うーん……、西の森で襲ってきた連中をボコボコにしたこと?『カエルの大穴』でちょっかいを出してきたゴウバルと冒険者をデボラが返り討ちにしたこと?特殊個体の素材を採りまくったこと?ミーム商会に落とし物の返却と素敵な贈り物をしたこと?』


 思い返すと随分いろいろとやったような気がする。全てを事故や偶然として扱うのは随分と大変だったのではないだろうか。


『結構やっているわね……』


 ミナトの後ろでシャーロットが『にゃはは……』と笑っている。そんな笑顔も当然ながら美しいと思うミナト。


『うむ。どれも正当な力の行使だ!』


 デボラはその美しい胸を張りながらそんな念話を飛ばしてくる。


『ん!ボクはもっと暴れたい!』


 ミオの念話は何故かこの話題になると物騒だ。


 そんな背後の美女たちの念話を受けつつ、


「何のことですか?」


 すっとぼけることにするミナト。その声も態度も眼球の動きに至るまでミナトの動作全てにおいて動揺などは微塵も感じられない。【保有スキル】泰然自若は今日も絶好調で発動中だ。


【保有スキル】泰然自若:

 落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。


「くっ……、まぁいい……。俺達もお前のような規格外の連中の詮索なんて御免だからな……。俺が言いたいのは、ギルドからの依頼は達成されたということだ。報酬はミナトの口座に入れてある。そのことを伝えに来たんだよ……」


 それだけ言うとさっさと会場を後にする冒険者ギルドマスターであるラーモンド。


「どうやらいろいろと終ったらしい……」


 ふぅっと息を吐いてミナトが呟く。


「後でアイリスさんにおれの通常装備を依頼しよう。そうしたら古都グレートピットを目指すとしますか?」


 ミナトの言葉にシャーロット、デボラ、ミオの三人が笑顔で頷く。


あの子たちアースドラゴンに会うのも久しぶりね……」


「うむ。我は温泉というものが興味深い!実に楽しみだ!」


「ん!ボクも温泉には興味がある!そして観光とデートは大事!それと美味しいお酒とごはん!」


 旅の最終目的地であるグランヴェスタ共和国の古都グレートピット。そこには世界最難関ダンジョンである『地の迷宮』があり周辺には温泉街があるという。どんな出会いが待っているのか、期待に胸を膨らませるミナトたちであった。

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