第251話 真実の鏡とは?

 それから三日……。今日もヴェスタニアの空は快晴である。


 本日は『ヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会』の審査が行われる。この大会では冒険者ギルドが全面的に協力しており、職人から依頼を受けた冒険者が入手した大会に用いられる素材は冒険者ギルドで全て大会参加者ごとにリスト化される。そして審査当日には雇った冒険者が同席し、嘘を看破する特殊な魔道具を使用して素材入手の経路が冒険者自身で入手したものかを確かめることになっていた。


 そのため再びミナトはシャーロット、デボラ、ミオの美女たちを伴い大会会場にあるアイリスのブースを訪れる。


 今日までの間、ミーム商会に起こった異変についてミナトは国や街の対応を注視していたのだが、これに関しては事故による魔道具の暴走であったという発表が行われた。


 その発表では事件に駆け付けた衛兵と冒険者の活躍で被害は最小限で済んだと報告され、その際、建物から商会の不正な取引の証拠が、そして倉庫からは禁制の魔道具が見つかったとのことだ。結果としてミーム商会は廃業となり不正に関与したとされる従業員は捕らえられた。ちなみに不正に関与しなかった従業員はグランヴェスタ評議会の紹介でこれまでと同じくらいの収入を得られる仕事を斡旋されたそうだ。


 事実と随分と異なる内容にミナトは何らかの力が働いていることに気付いたがそれ以上の詮索はしていない。おそらくはこの街の冒険者ギルドマスターをしているラーモンドや大会を取り仕切っているこの国の重鎮であるギュスターヴ卿の狙いがミーム商会の排除であったということなのだろう。彼らの思惑通りにミナトたちがミーム商会を潰したということだ。


 利用されたような気がしないわけでもないが、ミナトはアイリスの護衛と素材採取が上手く行ったためそれ以上は気にしないとした。シャーロット、デボラ、ミオからもそれでよいと言ってもらっている。


 そんなミナトたちはアイリスのブースで大会職員と共に何やら様々な部品の付いた一枚の石板に対峙している。石板は移動できる大仰な台座に取り付けられており板の中央部にはてのひらの形に窪んでいた。


「これはと呼ばれる魔道具です。ここに手を置いて質問に答えた場合、その内容に嘘が含まれていると石板が赤く発光します」


 笑顔の可愛い女性の職員さんがそう説明してくれる。何でも出場者の作品への評価は既に終わっており、各ブースを回って行われるこのによる不正なしの証明でその評価結果を確定することになるとのことだ。


 そんな説明を受けたミナトは指示に従って右のてのひらへと置く。


『石板なんだから真実のでいいんじゃないの?』


 なんてことは思っていない……、きっと……。


「あなたは依頼に応じてこの作品の素材を採取しましたか?」


「ああ。西の森とダンジョン『カエルの大穴』で素材を採取した」


 堂々とそう答えるミナト。と呼ばれた石板は発光しない。


「不正はありません。アイリスさんの評価を確定します」


 そう宣言した職員さんは笑顔で次のブースへと移っていった。これでケイヴォン君からの依頼は完了となる。


「今日はありがとうございます。これで依頼完了です。ミナトさんたちには本当にお世話になりました」


 アイリスがそう言ってミナトたちに頭を下げる。


「ケイヴォン君からの依頼だったからね。無事に達成できてよかった。後は結果発表だけかな?」


「楽しみね?アイリスちゃんのこの作品ならいいとこまでいけるんじゃないかしら……」


 ミナトの言葉にアイリスの作品である深い青を湛えた長剣を眺めながらシャーロットもそう言ってくる。


「うむ!あとは天命を待つのみ!」


「ん!きっと大丈夫!」


 デボラもミオも笑顔でそうアイリスへと声をかける。


 様々な人々の様々な思惑を抱えた状態での開催を迎えた『ヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会』、遂にそこへ出品された作品への評価結果の発表が始まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る