第235話 その名はカンパリ

 黙々とアイリスが魔石の山の鑑定を進めるその傍ら……、ミナト、シャーロット、ミオにデボラが合流する。


「マスター。あのゴウバルとかいうドワーフが連れていた冒険者が矢を射ってきたのでな。蹴散らしておいた」


「デボラ……。ありがとう」


 ミナトは素直に感謝の言葉をかける。


「うむ。もっと褒めてよいのだぞ?」


 その見事な胸をドヤっと張ってみせるデボラ。その姿はとても美しい。


「ああ。ありがとな!」


 改めてそう言うと、


「ふにゃっ!」


 デボラから聞いたことがない声が出る。ミナトがデボラの頭を撫でていた。


「イヤだった?」


「ま、まさかそんなわけがなかろう……。マ、マスターの好きにして構わんのだ!」


 少し顔を赤らめ口をとがらせながらそう言ってくるデボラ。


「……そんな顔をするデボラも好きだけどね?」


「!!!」


 二人がそんなやり取りをしていると、


「ん!デボラだけはずるい!ボクも!!」


「わ、私だってそうされるのは嫌いじゃないわよ!」


 そんな台詞と共に皆でひとしきり、一応は健全なスキンシップを楽しむ四人。


 少し経って……、未だにアイリスは魔石の鑑定中である。


「ミナト!とりあえずはあの小瓶に入っていたお酒のことよ!」


「ん。かんぱり……、と言っていた!」


 通常運転に戻ったシャーロットとミオがカンパリに興味を持ったのかそう言ってくる。


「マスター?かんぱり……?とは何のことなのだ?」


 ミナトが小瓶を飲み干した直後にここ重水の部屋へと現れたデボラが不思議そうに聞いてきた。とりあえずデボラには経緯を知ってもらおうと説明を始めるミナト。


「この部屋に入った時、周囲がブルー・フロッグだらけでね。そいつらを一掃したのだけど魔石の他に一つだけ小瓶がドロップしたんだ」


「確かブルー・フロッグは稀に小瓶を落とすのだったな?ウンダーベルグという酒であろう?」


 デボラがそう言ってくる。ミナトの手には小瓶が一つ。


「それがこの小瓶に入っていたのは赤い液体だったんだ。ウンダーベルグの色は琥珀色。ちがう液体が入っていたんだよ」


「それが二人の言っている……、か、かんぱり……?というものなのか?」


 ミナトが笑顔で頷く。そうして三人に向き直る。


「そう!これはおれの元いた世界にあったカンパリというお酒と同じもの……。イタリアって国で造られていたお酒だけどあの世界のBarでこの酒を置いていないBarなんて存在しないんじゃないかな?ってくらいポピュラーなお酒だね」


『ま、ウイスキーとかシェリーだけを扱うような例外もあるのだけど』などと付けたしながらミナトはそう説明する。


「ほろ苦さと薬草系の香りが特徴的なリキュールって分類になるかな。ウンダーベルグに比べると苦みはマイルドだし酒精も弱めになっている」


 そんなミナトの説明に、


「さっきカクテルの名前を言っていたわよね?」


「ほう……、どんなカクテルが造れるのか興味があるな」


「ん!興味深い!」


 三人の美女がそう言ってくる。


「ネグローニとかスプモーニ……、それにアメリカーノってカクテルもあるね。それからこれにソーダで割ったカンパリ・ソーダとか柑橘を入れたカンパリ・オレンジもある。あ、ソーダと柑橘を一緒でも問題ないよ?それに好きな人はこれをロックで飲むよね。ネグローニはジンとベルモットを使っているからちょっと強めだけど、大体どれもさっぱりとして飲みやすいカクテルになるって感じかな?」


 そう聞いて美女たちの目が輝く。


「いいわね!いろいろと飲んでみたいわ!」


「うむ。ウンダーベルグのソーダ割りも食後によい酒であったがカンパリのカクテルも合いそうではないか?」


「ん?ウンダーベルグと似てる味……?パスタ料理の食後に最適?」


 三人の言葉を笑顔で肯定し、


「おれの世界ではパスタ料理の本場はイタリア。カンパリはイタリアのお酒。だから相性はいいと思うよ」


 そんな回答と『ナポリタンは日本料理だけどね』と一応は念話で補足するミナト。


 それを聞いていた三人からゆったりと不遜な魔力が湧き上がる。三人ともこの世界屈指の存在なだけあり魔力がアイリスに影響が出ないようにしているのは流石であるが……、


「今夜はミナトのパスタ料理とカンパリのカクテルってことでいいわね!?狩りに行くわよ!?」


「うむ。特殊個体の魔石も必要なのであろう?魔石と小瓶の荒稼ぎと行こうではないか!!」


「ん!魔石!!パスタ!!久しぶりに血がたぎる!」


 そう言ってくる三人の気迫が凄い。背後に見てはいけない存在の影を感じてしまいそうだ。


「え、えっと……、オテヤワラカニオネガイシマス?」


 自身もこれから狩りを行うはずなのに思わずそんなことを口走ってしまうミナトであった。

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