第229話 そこにどんな思惑があったとしても……

 首都ヴェスタニアの街並みが夕日に照らされる。ミナトが言った『ちょっとやられたかもしれない……』とは一体どういうことなのか……。


『ミナト?何かされたってことかしら?』


『うむ?』


『ん?』


 三人からミナトの下へと疑問形の念話が届く。


『まず大前提としておれ達はアイリスさんの依頼と冒険者ギルドからの依頼を受けている』


 ミナトが三人を見ながら念話を飛ばす。


『ええ。アイリスちゃんからの素材採取の依頼と……』


 これはシャーロット。


『冒険者ギルドからのアイリス殿の護衛と大会の運営への助力であったな?』


 こちらはデボラ。


『そう!あのラーモンドってギルドマスターは偶然おれ達に会えたと言っていた。そしてそれを僥倖と感じギルドはアイリスさんの護衛と大会の運営への助力という依頼をおれ達に出したってことになっている』


『確かそんな話だったわね?』


『うむ』


『ん。そうだった』


 シャーロット、デボラ、ミオがミナトの話を肯定する。


『だけどこれは偶然じゃない。おれの推測に過ぎないけど、ギュスターヴ卿と冒険者ギルドがアイリスさんの成長を望んでいるのは本当だと思う。だけどそれと同時にアイリスさんを妨害する連中がこの街に悪影響を及ぼしている者達だということを知って大会を通して連中の排除を計画したんじゃないのかな。ラーモンドはおれ達にその連中を排除させたいんだよ。当然ギュスターヴ卿という人物も全てを把握しているってところかな?』


『今回、ギルドからの依頼はアイリスさんの護衛と大会の運営への助力よね?そこまではっきりと妨害者の排除を依頼されてはいないわよ?』


 シャーロットの疑問にミナトは笑顔で頷いて見せる。


『ラーモンドはって言っていたけど、本当のところはってところだと思う。そしてケイヴォン君の存在を利用したんだ』


『あの子がどうして関係してくるの?』


『ラーモンドは王都のカレンさん、オルフォーレの街のリコさん、グトラの街のフルールさんからの情報を貰って初めからおれ達がここヴェスタニアに来ることが分かっていた。おれ達がパーティメンバーだけでこの街に到着していたなら、ギルドからの接触があったんじゃないかな。そして冒険者ギルドが仲介者となってアイリスさんの依頼を受けることになったと思う。そうしてもっと秘密裏にアイリスさんを護衛しつつ裏で暗躍する者達の排除とかって依頼が出されることになっていたんじゃないかな?』


『ん?でもアイリスさんの依頼への仲介はあの子ケイヴォン君がしたのでは?』


 ミオがこてんと首を傾げて念話を飛ばしてくる。


『その通り。ラーモンドはそれを利用することにしたとおれは思っている。ケイヴォン君の仲介でおれ達はアイリスさんの依頼を受けた。そしてラーモンドからこの大会で何か不審な出来事が起こるかもしれないという情報とアイリスの護衛と運営の補助というギルドからの依頼を受けた』


『ケイヴォンが依頼を仲介することはラーモンドにとってなんらかのメリットがあったとマスターは考えたのだな?』


 そうデボラが行ってくる。


『ああ。この形であればおれ達が誰を排除してもそれはアイリスさんを護るためという冒険者の仕事として扱われる。冒険者ギルドがわざわざ仲介してアイリスさんに紹介した見知らぬF級の冒険者がそんなことをすれば変な勘繰りをする者がきっと現れるはずなんだ。だけどこれならギュスターヴ卿や冒険者ギルドが意図的に誰かを排除したと考える者はいない』


『それはあり得る話ね……』


 そんな念話を飛ばしてくるシャーロット。デボラとミオを頷いている。


『そして何かあった時の責任は全ておれ達に押し付けることができるというメリットがある。これが一番じゃないかな?自分達が何も知らないところで他国からの冒険者が依頼を受けて暴走したとかって話にすれば簡単だ。現に今日ならず者共を排除したけど冒険者の対応の範疇だから調べられることも何もない。街の厄介者が消えて為政者としてはラッキーというところだろう?』


 ミナトの推測を聞いてシャーロットがため息を吐く。


「やはり人族や亜人には小利口な輩が多いわね。これは感心するところかしら?」


「うむ。我のような魔物は力で解決する方が簡単だからな」


「ん。面倒!」


 三人の美人たちがそんなことを言ってくる。


「ま、ちょっと利用されている気がしないわけではないけれど、おれ達はアイリスさんの依頼とギルドからの依頼をこなすだけだ。それに……」


 そう言ってミナトは少しだけ黒い笑みを浮かべる。


「それ以上に何かを仕掛けてくるならその時は力で打ち破る。それで問題ないだろう?」


「さっすがミナト!そうしましょう!」


「うむ。我はマスターについて行くだけだ!」


「ん。邪魔するものはミナゴロシ!」


 賛同を得たと思うのだがミオだけが妙に物騒なことを言っている。だけどちょっぴりそれでいいと思ってしまったのでミナトはそれをスルーした。


「というわけでたとえ誰にどんな思惑があったとしてもおれ達には関係ない。邪魔するものは排除する。この考えでいきましょう!」


「「「賛成!」」」


 そしてブルー・フロッグ狩りに行く二日後までをどう過ごすのか、そんなことを次の話題にしつつミナトたちは宿を目指すのであった。

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