第228話 ミナトは職人から話を聞く
ミナトがこの街で古くから職人をしているツェーザルに聞きたかったことはいくつかあって……
「ゴウバルか……。ゴウバルの父親……、これは腕が良い職人でかつ商才もあってな、多くの工房と職人を率いて手広くやっておったのじゃが、少し前に亡くなってしまっての。本来であればゴウバルはどこかの工房で見習いとして修行を続けるはずなのじゃが、奴は父親の後を継ぐと言い出したらしいのじゃ……」
最初にそんな話をしてくれたツェーザル。
「見習いが工房を継ぐことができるのですか?」
不思議に思いそう問いかけるミナト。
「もちろん師匠である親が死んだ後、見習いであった子供が工房を継ぐことはままあるのじゃが、それは後を継ぐ者に確かな腕があってこそ認められることになる。この国にある様々な工房はグランヴェスタ共和国評議会の管轄下にあってな……。一つ一つ登録がされておるのじゃ。工房の継承は推薦人や大会での成績などが考慮され最終的にグランヴェスタ共和国評議会での認可が必要となる。今のゴウバルの腕では推薦人になる者はおらんかもしれん。だからこの大会でどうしても勝ちたいのかもしれぬな……」
「それではオレオンとミーム商会というのは?」
「ミーム商会はゴウバルの父親が懇意にしていた商会じゃ。昔はまっとうな商いを行う商会として評判じゃった。じゃが最近、商会長の息子であるオレオンが多くを仕切るようになってからというものどうも評判が好ましくないの……。何やらあくどいことをしているという噂もあって取引を止めた工房もあるという話を聞いておるわい」
「なるほど……、ありがとうございます」
そう答えるミナトは少し考え込むような仕草を見せる。
『ミナト?どうしたの?』
シャーロットが念話を飛ばしてきた。
『ちょっといろいろと思うところが出てきたよ……』
『?』
ミナトの答えに首を傾げるような感情が飛んできた。シャーロットに一瞬だけ笑顔を見せたミナトはツェーザルに、
「もう少し教えてください。今回の大会を取り仕切っているのはこの国の重鎮でもあるギュスターヴ卿という方だと伺っています。ツェーザルさんから見たギュスターヴ卿ってどんな方ですか?」
ミナトの問いに少しだけ驚くツェーザル。
「ギュスターヴ卿か?儂の個人的な印象ということでよいのかな?」
「お願いします」
ミナトにそう返されてツェーザルは思案顔になる。
「まあ、儂も懇意にしているわけではないのじゃが……。あの御方は一見すると好々爺のように温厚な御仁なのじゃが、実は相当な切れ者じゃと儂は思っておる。ミナト殿もご存じのことだと思うが職人には気の短い者や口より先に手が出る者も少なくない。基本的に仕事以外は粗っぽいところが多いのが職人じゃ。じゃから職人同士や、職人と冒険者などの間で諍いごとは日常茶飯事で起こる。じゃがな……、ギュスターヴ卿がグランヴェスタ共和国評議会内で台頭してからというもの致命的な諍いといったものは発生しておらんのじゃ」
「本来であればもっと大きな問題に発展するかもしれなかったのにそういったことがないということですか?」
「儂はそう思っとる。儂の知る限り怪我人が出てもおかしくないような深刻な問題が起こったことが何件かあるが全て丸く収まっておるのじゃ。グランヴェスタ共和国評議会が規則で職人たちを締め付けているという訳ではない。ギュスターヴ卿が上手くやっておるというのが儂の個人的な見解じゃな」
ミナトはツェーザルに頷いて見せた。
『なるほど……』
ミナトは心の中でそう呟く。ギュスターヴ卿の印象はこのヴェスタニアへの道すがらグドーバルから聞いた内容とそう変わらないものだ。
「あと一つだけ教えて頂きたいことがあります。冒険者ギルドマスターであるラーモンドさんのことはどう思っていますか?」
ミナトはそう問いかける。このことがどうも気になってきていた。
「うん?ラーモンドのことか?そうか……、ミナト殿たちはまだこの街に来て日が浅かったなのじゃな?ふふ……、ミナト殿、あのラーモンドだけは一筋縄ではいかぬと思った方がよい!」
「やっぱり?」
ツェーザルの言葉にそんな反応が出てしまうミナト。
「ほう……、どうやら思い当たるところがあるようじゃな?普段の奴はそれこそ何も考えていない勢いだけの筋肉ダルマのようじゃが、あれこそ相当の策士じゃよ。あれが真面目な顔をして話すことに含まれている真実はあって半分以下じゃと儂は思っとる。もっともそれが冒険者ギルドや冒険者のためになるという奴の計算があってのことじゃがな……」
「そうですか……、本当に参考になりました。ありがとうございました」
ややテンションを落としつつもきちんと感謝を述べてミナトはシャーロットたちと共に二日後に再びアイリスと冒険に赴くことを確認してからその場を辞した。
『みんな……。今日の襲撃のことを考えてみたんだけどね……。仕方ないしこれでよいとは思うのだけど……、これはちょっとやられたかもしれない……』
宿への帰り道、ミナトはそんなことを念話で飛ばすのだった。
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