第227話 アイリスの決意

 シャーロットから助言をもらったミナトはアイリスに先日は会うことができなかったアイリスの父へ現状の状況を聞いてもらいたいと頼んだ。すると先日よりも体調が回復したとのことでミナトたちはすんなりとアイリスの父親に会うことができた。アイリスの依頼を受けてくれる冒険者がいないという状況をある程度把握していたアイリスの父は彼女の依頼を受けたミナトたちを歓迎してくれたのである。


 そこでミナトはアイリスと同じドワーフの職人見習いであるケイヴォンからの頼みでアイリスの依頼を受けたことをアイリスの解説も加えつつ説明し、そして本日、冒険者崩れの連中が襲ってきたこと、先ほどゴウバルとオレオンに遭遇したこと、それらの出来事から考えられるミナトの推測までを話した。


「なるほど……。儂が寝込んでいる間にそんなことがあったのか……。それにしてもゴウバルとオレオンか……。オレオンということはミーム商会がいるということじゃな……。冒険者崩れを雇ってまで妨害をしてくるとは……」


 ミナトの話を聞いてそう呟くのはアイリスの父であるツェーザル。いかにも壮年のドワーフといった容姿と熟練の職人という雰囲気を纏っている彼はミナトにヴェスタニアまでの道中で一緒だった職人のグドーバルを思い出せた。確かグドーバルはツェーザルのことを古い馴染みと言っていた……。


「ミナト殿じゃったか……。そなたの推測は恐らくは間違っておらんだろう。たとえ背後関係が違ったとしても何者かを雇って大会参加者や依頼を受けている冒険者を襲撃するなど許されることではない。たしかにこの大会は職人として独立したとき現実に遭遇するようなある程度の妨害は見逃されるようになっておる。だがそれにも限度というものがあるのじゃ」


 その言葉に頷くミナト。


「ツェーザルさん。私たちは階級こそF級ですが今日の襲撃も退けましたし、今回の依頼でアイリスさんを危ない目には絶対に遭わせない自信があります。だから私たちとしてはこの依頼を続行することに異存はありません。ブルー・フロッグが落とす小瓶は私たちも個人的に集めたいと思っていることもありますので……。ですがツェーザルさんがどう思うかが気になったのでこうしてお話させて頂きました」


 そう言うミナトに、


「ふふ……、あのケイヴォンがどうやってそなた達に頼んだのかは分からぬがな……。四人全員が魔法を使えるそなた達のような冒険者がその辺におるF級と同じな訳がなかろう……。そなた達の実力に関して疑ってはおらぬよ」


 そう返すツェーザル。グドーバルもそうだったが熟練のドワーフは魔法が使える者を判別することができるらしい。


「もしミナト殿達のパーティが依頼を続行して頂けるというのであれば、儂から言えることは一つだけじゃ。アイリスよ!」


 ツェーザルがアイリスと向き合う。投げかけられる視線は師匠が弟子へと送るものだ。


「はい!」


「今日のことはお前にとって大きな衝撃じゃろう。じゃがそれは職人であれば皆が超えて来た道じゃ。お前もこの大会を機に一人前となって一歩を踏み出すのじゃろう?じゃったら今のお前に師匠である儂から言えることは、、ただこれだけじゃ」


 その言葉にアイリスが息を呑む。


「儂もあと少しで現場に復帰できる。資金繰りに関してはなんとかなるからそんなことは気にするな。ゴウバルのガキが率いる工房の傘下に入ってミーム商会から援助を受ける?この儂の前でそんな口上を垂れる度胸もないくせに笑わせるなと言ってやりたいわい!これが儂の考えじゃ!そしてミナト殿達は助力してくれる。それらを踏まえて改めてお前に問おう。お前はどうしたいのじゃ?」


 厳しい視線と共にそんな言葉を投げかけるツェーザル。真正面からその視線を受けとめるアイリスの目には強い光が宿っていた。


「襲撃には驚きましたし足が竦みました。そして冒険者の方々がそういった荒事に対処した上で私たちに素材を届けてくれているという事実に体が震えました……。でも私は職人でありたい。冒険者の方々が命を懸けて採取してきてくれた素材を最高の武具に仕上げる本当の職人になりたいです!だから私はどんな妨害にも屈することなく全力でこの大会に取り組みます!そして今できる私の全てを表現し必ず勝ちます!」


 堂々とそう言い切るアイリス。その表情は今日の朝に会ったアイリスのものとは別物であるとミナトは感じる。今日の襲撃がアイリスの何かを変えたのかもしれないと思った。


「よく言った。儂からはこれ以上言うことは何もない」


 そう言って頷くツェーザルの目はこの成長を嬉しく思う親の目になっていた。そんなツェーザルがミナトたちへと向き直る。


「ミナト殿!今しばらくの間、アイリスのことを宜しくお願いしますじゃ」


 そう言って傍らにいたアイリスの母と共に頭を下げた。


「委細承知しました。アイリスさんの護衛に全力を尽くします!」


 力強いミナトの言葉にツェーザルさんと奥さんが笑顔になる。


「すいません。あともう少しだけ私からいろいろとお聞きしたいことがあるのですが?」


 ミナトのそんなお願いに、


「儂に答えられることならなんでも答えよう」


 ツェーザルは快く応じてくれるようであった。

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