第226話 面倒そうな相手と再会
「皆さんのおかげで素晴らしい素材を入手することができました。本当にありがとうございました。二日後のブルー・フロッグ狩りの件も宜しくお願いします」
そう言ってアイリスは頭を下げる。グランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアを照らしている太陽は夕日というにはまだ少し高い位置にあった。
捕えていた男を射出した後、ミナトとシャーロットは無事に
帰りの道中では何も起きることはなくミナトたちは無事ヴェスタニアへ帰還した。アイリスの実家でもある工房に到着してこの日の依頼を完了したことを確認してアイリスが冒頭の言葉を述べたのである。
「では。また二日後に……」
「またね……」
「うむ。それでは……」
「ん。また明後日!」
そうしてミナトたちが踵を返したところ……、
「な、なぜお前たちが……」
そんな言葉が聞こえたような気がしたミナトは声がした方向へその視線を向けた。そこにいたのは一人のドワーフと一人の人族。ドワーフは一瞬だけ驚愕の表情になったのだが必死にそれを抑え込み、無理やり作ったことがバレバレの笑顔で話しかけてきた。人族は無表情のままである。
「し、失礼……。アイリスさんが依頼を出された冒険者の方々でしたね?」
そう言われたミナトは考え込むような仕草をする。
「えっと……」
少しだけ考えるふり……、そして、
「…………あ、確かアイリスさんのお知り合いである職人の……、すいませんお名前を存じ上げないもので……」
もちろん名前は知っているのだがそんな返しにするミナト。言外に『私はあなたの名前すら知らない』ということを強調する。
「ミナトさん……、こちら私と同じ職人見習いのゴウバルさんとその友人のオレオンさんです」
まだ工房の建物からこちらを見ていたアイリスが戻ってきてそう教えくれた。
「おお。そうだゴウバルさんとオレオンさんでしたか……。先日、冒険者ギルドでお会いしたんでしたっけ?」
前回に会った時とは異なり今度はミナトの方が妙に芝居がかった様子でそう返す。
「え、ええ……。その通りです。それで……、本日は……?こ、これから依頼の採取に出発ですか……?」
ゴウバルがそんなことを聞いてきた。
「まっさか~。こんな時間帯から素材集めに出る冒険者なんていませんよ?特に西の森は遠いですからね~。面白いことを言う人ですね~。あはは~」
笑いながらそう答えるミナト。だが目の奥が笑っていないことにシャーロット、デボラ、ミオは気付いている。オレオンの表情が一瞬だけ不快そうに歪んだのをミナトは見逃さない。そんな周囲に気付いていないゴウバルは、
「そ、そうなのですね……。では依頼を終えられて……?」
そう問いかけてきた。
「申し訳ありません。私からは依頼の詳細についてお話することはできないのです。アイリスさんが話すのであれば問題とは思いますが……」
そう言ってミナトはアイリスに視線を向ける。
「ええ。本日の依頼分は無事に終了しました。良い素材が入手できたと思っています。まだ集める素材はありますがこの調子なら大会にもきちんとした作品を出品できそうです」
そこまで話す必要はなかったのかもしれないが、これまでの経緯があったからかアイリスはゴウバルとオレオンにしっかりとそう答えた。
それを聞いて怒りなのか戸惑いなのかゴウバルのそのドワーフ特有とされる小柄ながらも筋肉質な体が小刻みに震え始める。顔色も真っ赤に染まってしまう。オレオンは商人だからなのか無表情だ。そうして、
「そ、それは……、それはそれは素晴らしい。今度の大会でアイリスさんと正々堂々と腕を競えるとは……、す、素晴らしいことです。そ、それでは私はこれで……」
何とかそう言い残したゴウバルは逃げるようにミナトたちの下から離れる。オレオンは最後まで無言で一礼すると踵を返した。
「何だったのでしょう?」
アイリスが首を傾げる。その様子に、
『アイリスさんにおれの予想を伝えていいものやら……』
そんな念話を飛ばすミナト。
『ミナト?あいつらどうしたのかしら?』
シャーロットが念話で聞いてきた。
『うむ。マスターも何やら不機嫌になっていたようだ。あの者達は何をしたかったのだ?』
『ん。何をしたかったの?』
デボラとミオも気になったらしい。
『おれの勝手な予想に過ぎないけど……、あいつらアイリスさんの両親に娘さんが攫われたって言いに来たんじゃないかな?』
『そういうこと?』
『うむ……』
『ん……』
ミナトの言葉に三人がそんな念話を返してくる。
『おれ達を襲ってきた冒険者崩れはおれを殺して、愚かにもシャーロット、デボラ、ミオの三人を慰みものにしようとした……。じゃあ、アイリスさんは?』
『あのドワーフと人族はアイリスだけでなく工房そのものも欲していたわよね?』
そう言ってくるのはシャーロット。
『もしあの二人が裏で糸を引いていたら……、娘が誘拐されたことを両親に報告する。そしてそれを解決する方法が二人にはあるとかって言う気だったんじゃないかな?ゴウバルは見習いのはずだけど、あのオレオンってやつは商会で結構な地位にいるのかもしれないね。工房の権利とかを売ってくれたお金を使ってなんとかするみたいな……』
自分の推理を披露するミナト。
『でもこの街には衛兵も冒険者もいるわ。そんな簡単にいくかしら?』
これはシャーロット。
『短絡的だとは思うけどね。大会期間中の今は若手の職人が将来のためということで自由に動くことを許容しているようだからその間隙を狙ったってとこかな?実際におれ達は襲われたしね』
そう答えるミナト。
『ミナト。これはアイリスに現状をきちんと説明するべきだと私は思うわ。彼女だけじゃない。彼女の両親にも話しておくべきよ』
シャーロットの言葉にミナトは頷くのであった。
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