第225話 収納魔法の攻撃力?

 特殊な方法を用いて大烏オオガラスの尾羽を採取するというアイリスの護衛をデボラとミオに任せ、ミナトとシャーロットは襲ってきた連中の一人を追跡する。護衛依頼を受けている状況で護衛対象から離れたミナトだがそこは心配していない。デボラとミオが周囲を見張っているのだ。


 デボラとミオをなんとかしてアイリスに危害を加えることのできる存在など、


「ミナトや私だったら一人でも可能よ。オリヴィア一人では難しいわ。だってあの二人でしょ?かつていた魔王でも二人が相手では無理ね」


 というシャーロットの言葉が示す通りこの大陸に数えるほども存在しないだろう。


 ちなみに追跡の道中、ミナトとシャーロットは手を繋いでいる。【闇魔法】である絶対霊体化インビジブルレイスが絶賛発動中なのだ。ミナトの絶対霊体化インビジブルレイスもシャーロットが使う隠蔽の魔法も各自が発動した場合、互いを感知できなくなる。しかしミナトがシャーロットに触れた状態で絶対霊体化インビジブルレイスを発動し、ミナトが魔法の効果範囲にシャーロットを加えれば隠蔽の効果が発揮されても二人で会話することが可能であった。


「これって便利ね。それぞれが隠蔽の魔法を使うとこういった会話ができないから……」


「こういう機能って隠蔽の魔法にはないの?」


「私は聞いたことがないわ。さすが究極の隠蔽魔法ってところね」


 そんな話をしながら追跡を続行する二人。男は西の森から出ると街道とは向かわず森に沿って移動を開始した。しばらくすると……、


「馬車か……」


「馬車ね……」


 ミナトとシャーロットが同時に呟く。そこには四頭立ての大型の馬車が森の入り口に停められていた。御者台に御者が一人でのんびりとしている。そんな馬車に駆け寄り扉を叩く男。そうして馬車から降りてきたのは銀髪で壮年の男であった。隠蔽が完全に機能しているので五メートルほどまで近づいて様子を観察するミナトとシャーロット。


「乗っているのは一人かな?やっぱりそう上手くは行かない……」


「こればっかりは仕方がないわね」


 少しがっかりしたようでミナトがそう呟くのを聞き、シャーロットがミナトの手をぎゅっと握って慰めるようにそう言う。アイリスに絡んできたドワーフのゴウバルか人族のオレオンであれば話は簡単だったのだがそうそう上手くは行かないものだ。


 そうこうしているうちにミナトが捕まえていた痩せぎすの男と壮年の男が何やら揉め始めた。『他の連中はもう帰ってきて女の味見でもしているのか?』から始まり『何を言っている。戻ってきたのは貴様一人だ!』と返される。そこからは、『話が違う』だの、『男の冒険者は痛めつけたのか』だの、『それどころじゃなかったこんな割に合わない依頼とは聞いていない』だの……。うんざりした表情になるミナトとシャーロット。


「シャーロット。もういいや。情報として役にも立たないこんな不毛なやり取りなんて聞いていられないよ……」


「そうね。私も同じ気持ちよ。でもこれからどうするの?」


「戻る前にちょっとメニモノミセテヤル!来て!」


 ミナトはシャーロットを連れて西の森へと入った。男達から百メートルほど離れると森の樹々で男達からこちらは見ることができない。そうして絶対霊体化インビジブルレイスを解除するミナト。次に【収納魔法】である収納レポノを発動する。すると地面に意識を失っている男が出現した。ミナトが拘束していたもう一人である。痩せぎすの男をビビらせるため森の大木に漆黒の鎖で巻き付け磔にしていたが、男が逃げ出した後で収納レポノの亜空間に放り込んでおいたのだ。


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


「シャーロット。こいつにかなりの衝撃を受けても死なない程度には重症になるくらいの結界って張れる?」


 いつになく黒い笑顔でそう聞いてくるミナト。


「できるけど……?」


 その様子に首を傾げながらそう返す美人のエルフ。


悪夢の監獄ナイトメアジェイルの鎖だと結界が解除されると思うけど収納レポノの射出はできると思うんだよね」


 ミナトのその言葉で何を企んでいるのかを察したらしいシャーロット。ミナトと同じように黒笑みを浮かべると、


「そういうことなら任せて頂戴!」


 そう答えると同時に意識を失っている男へと右手を翳した。うっすらと青い魔力が奔流となって男の周囲に纏わりつく。


「これで大丈夫。どんな衝撃でも死ぬことだけはないわ。そしてこの塊男と覆った結界がぶつかった生命体にも死なない程度の衝撃のみが加わる安心設計の特別な結界よ。ちなみに物体への影響はそのままね」


 そう言って片目を瞑ってみせるシャーロット。


「凄い。さすがはシャーロット!」


「ふふん。もっと褒めてもいいのよ?」


 美しい胸を張ってドヤっとポーズを決める美人のエルフであった。


「よし!じゃあこれを……」


 そう言ってミナトが結界で覆われた男を収納レポノで亜空間に収納する。そうして来た道をシャーロットと共に戻るミナト。五十メートルほど移動すると視界に未だに言い合いをしている二人の男と馬車を捉えることができた。それに向かって右手を翳す。そうしてこう呟く、


「射出……」


 ミナトの言葉と同時に亜空間から結界に覆われた一人の男が飛び出し地面と平行に馬車へと向かって飛翔する。凄まじい勢いだ。投げナイフを使ってこの収納レポノによる射出の威力がかなりのものであることは確認していたが、質量が変わっても射出される速度に影響はないらしい。意識を失っている男が地面と平行に空を飛ぶ光景はどう表現してよいか分からないくらいシュールである。


 二人の男達がそれに気付くがもう遅い。飛行物体は衝突した二人の男を巻き込む形で勢いを弱めることなく馬車へと直撃する。轟音と共に馬車が爆散し御者と三人の男が高々と宙を舞った。


「あれなら死ぬことはないかな?」


「大丈夫だと思うわ」


 そう言って笑顔で頷き合う二人。


「さてと……、みんなのところに戻ろうか?」


「ええ。あんまり遅いと心配させちゃうしね」


「カエル狩りの時は何事もないといいのだけれど……」


「ミナト!それってミナトの世界でいうところのってやつじゃないの?」


「あ……」


 馬車が爆散した影響でもうもうと舞い上がる土煙を背景にいつもの調子でそんな会話を交わす二人であった。

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