第224話 追跡開始
ここはグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアから西へと徒歩二時間。通称西の森と呼ばれる森の中である。太陽の位置から時刻は正午を少し過ぎたくらいといったところだろう。
ミナトは生け捕りにした
今回の目当ては
空飛ぶ魔物を生きたまま捕らえてくるという
「すいません。もう少し時間を頂けないでしょうか?」
そうして尾羽を吟味していたアイリスがそう言ってくる。
「おれ達は構わないけど、どうしました?」
ミナトが代表して問いかけた。
「実はこの文献に生きた
どうやら生きたまま捕らえた
「全く問題ないですよ。ごゆっくりどうぞ。デボラ、ミオ、アイリスさんをお願い」
そう二人に指示を出す。
「うむ。任された」
その豊かな胸を張ってデボラがそう返す。
「ん。任せて」
ミオもピースサインで応えてくれる。
「ありがとうございます!こんな貴重な機会は滅多にないので頑張ります!」
嬉しそうにそう礼を述べるアイリスは文献を読み解きつつ尾羽を採取するための作業に集中するのだった。
『シャーロット。ちょっと……』
『ええ……』
ミナトは左手に漆黒の鎖を持ち捕らえた男二人を引きずりながらシャーロットを伴って森の外を目指した。ただ引きずっているように見せているが【闇魔法】
そうしてアイリスたちからは完全に見えなくなる位置まで移動したミナトとシャーロット。
「こいつらをどうしようかって考えていたんだけど、ヴェスタニアに戻って衛兵に突き出してもおれ達を襲ったって証拠がないからあまり意味がないと思うんだよね……」
「冒険者が活動中に襲われてその防衛を行うのは自己責任の範疇ってことね?」
「たぶん……。ね、シャーロット。二日前におれが言ったこと覚えてる?」
「二日後の素材採取の時に妨害でもしようものならメニモノミセテヤル!、だったかしら?」
「そう。シャーロットたちを襲った連中はその報いを受けたみたいだけどね……。だけどおれはこの二人に何もしないほど人間は出来ていない。そこで上手く行くかは分からないけど……」
そう言ってミナトはシャーロットに耳打ちする。
「面白そうじゃない?確かにダメ元かもしれないけど何もしないよりはずっとましよ!やってみましょう!」
ミナトの提案にシャーロットは笑顔で賛同した。
しばらくして……、
「う……、うう……、う……」
西の森の外れ、ヴェスタニアに至る街道まであと少しといった場所で一人の男が意識を回復する。痩せぎすのこの男、その名をゾビエという。ミナトが捕らえた二人のうちの一人だ。F級冒険者の男を再起不能になるくらいに痛めつけ、そいつが連れている美女を頂くだけの簡単な仕事、ゾビエはそう聞いて儲け話に乗ったのだった。このゾビエはもう一人のメンバーであるガロンゾと共に別行動をとったF級冒険者の男の襲撃を指示された。ちなみにゾビエとガロンゾはこういった裏の仕事では時々は顔を合わせる裏稼業仲間といった関係である。
F級冒険者を痛めつけることなど簡単な仕事の筈だったのだが……、
「ここは……?うう……、確かあの野郎に吹っ飛ばされて……」
まだ頭がグラついているが、意識を失う前に何があったのかを必死に思い出そうとする。最後の記憶は何か固い鎖のようなもので思い切り吹っ飛ばされたものだった。
「ちっ……。何が簡単な仕事だ……。ひでえめにあったぜ……」
そう悪態を吐きつつゆっくりと立ち上がり周囲を確認すると……、
「あっちが街道か……?西の森の外れ……?なんでこんなところに……、って、お、おい!お前!ど、どうしたんだよ!?」
まだ上手く回らない頭で現在位置を確認したまではよかったがその次に飛び込んできた光景に驚愕する。自分と一緒に行動していたガロンゾの肥満体が目の前の大木に黒い鎖でがっちりと巻き付けられていた。ふらつく足で近寄っては見るが完全に意識を失っており、その鎖も完全に固定されておりとても一人で取り外せるものでもなかった。
こういった時にならず者共の行動パターンは決まっている。
「悪いな……。俺は行かせてもらう。俺達に何があったかは分からねえ……。けど残った連中が女をモノにしている頃だ。俺も報酬とおこぼれに与からねえと……。確か馬車で待ってるっつう話だったから……」
そう磔にされているガロンゾに話しかけるよう呟いたゾビエが森の外へと向かい走り始めた……。
『…………上手く行ったみたいね』
『ああ。依頼主までは到達できないと思うけど、仲介者ぐらいには会えそうだね……』
ゾビエに二人の声は届かない。二人のことを感知することは不可能だった。【闇魔法】
【闇魔法】
全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて
『さてと……、まだ終わらないぞ……』
ミナトはシャーロットを伴いゾビエの追跡を開始するのであった。
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