第221話 シャーロットは対峙する

 シャーロット、デボラ、ミオの三人がその背後にいるアイリスを庇いつつ冒険者崩れらしい連中に対峙する。今は目深に被っていたフードを取っている訳で……、


「おいおいおい!上玉とは聞いていたがここまでとは思わなかったぞ!?」


「こいつはたまらんな!あのエルフはまず俺が味見をさせてもらう!エルフの女なんてレアだぜ!レア!」


「あの気の強そうなのは俺が貰う!ああいうのを泣かせるのがたまらないぜ!」


「あのガキは俺にやらせろ。大人の味ってやつを教え込んでやるぜ!」


「F級冒険者の女を自由にできて金まで貰えるとはな!この仕事を受けて正解だったぜ!」


 間違いなく超絶美形であるシャーロット、デボラ、ミオの三人の容姿を前に下衆な台詞と共に盛り上がる悪党たち。もしここにミナトがいたら、破滅願望か自殺願望があるとしか思えないこの愚か者たちに憐みの視線を向けていたことだろう。


 そんな盛り上がりを見せる連中に生ゴミを見るような視線を送る美女三人。


「デボラ、ミオ。こいつらどうする?」


 男共を無視するかのようにデボラとミオに話しかけるシャーロット。その口調に緊張感といったものは皆無でありいつも通りのシャーロットである。そしてシャーロットは既にとある魔法を行使しているのだが悪党連中は何も気づいていないらしい。


「うむ。所詮、奴らは末端。恐らく依頼した者までは辿れぬと思う。であれば消し炭にしてしまっても問題ないかと……」


「ん。ボクとしては氷漬けにして手を出してきた者の末路をきちんと提示する方が実力を示せると思う」


 全く緊張感のない様子で二人がシャーロットにそう答える。内容はとても物騒なものだ。


「どちらでもいいけどお願いがあるの。デボラでもミオでもいいからアイリスちゃんを森の奥へと遠ざけてくれないかしら?ここから先の光景をわざわざ見せる必要はないわ!」


「うむ。確かにな……」


「ん。尤もな言葉。その方がよい……」


 シャーロットの言葉に納得する二人は向かい合うと何やら準備を始める。どうやらどちらがアイリスを連れていくのかをコインで決めることにしたらしい。


 不意に始まったそんなやり取りを目の当りにして冒険者崩れと思われる連中は気色ばむ。


「おい!姉ちゃんたち!何を根拠にそんなに自信満々の態度なのかは知らないが……」


 怒りを露わにしながら先頭にいた男がさらに一歩を踏み出そうとして、


「待ちなさい!」


 シャーロットの凛とした声が西の森に響く。そのあまりの迫力に思わず動きを止めてしまう男。その間隙を縫ってコインで負けたミオがアイリスを連れて後方……、森の奥へと移動する。既にその姿はこちらからは見えない。それを確認したシャーロットが、


「それ以上私たちに近づいたら死ぬわよ?私たちはうちのリーダーほど甘くはないわ。あなた達を殺すことに一切の躊躇などしない。とはいえあなた達のようなゴミを相手にするのは只々面倒なのよね。だから一回だけ言うわ。消えなさい。今この場から立ち去るのであれば見逃してあげる!」


 多分に挑発の言葉が含まれているような気もするが男達はこれがシャーロットによる慈悲の言葉であることに気付くことはできなかった。


 シャーロットに静止の言葉を放たれた男がニヤリと嗤う。


「何を言ってるんだい?エルフの姉ちゃんよ?なんだ?ここに見えない壁でもあるってのか?」


 ふざけた口調で壁を触るような仕草をするため男が両手を前方へと伸ばした瞬間、


「!?」


 男は自分の身に何が起きたのか分からなかった。ただ驚き立ち竦む。その背後でニヤニヤしていた仲間たちもその光景を目の当たりにして凍りついた。


 男は彼の両腕……、その肘から先の全てを細切れに切り裂かれる形で失っていた。肉片が飛び散り大量の血が切断面から噴き出す。


「お、お、お……、お、俺の……、俺の腕がーーーーー!!」


 一瞬の静寂の後に襲ってきたその衝撃に絶叫しつつ地面をのた打ち回る男。そしてそんな男に冷徹な視線を向けるシャーロット。


「だから近づくなって言ったじゃない……。バカなのかしら……」


「この連中がシャーロット様の言葉に従うとも思えぬが……」


「やっぱりこの容姿って侮られやすいのかしら?」


「シャーロット様を侮る……?その文章を聞くだけで我は恐怖に身が竦むのだが……。それはと同義語ではあろうな……」


 呆れたようにそんな会話をするシャーロットとデボラ。


「て、てめえ!!い、いったい何をした!?」


 固まっていた連中の一人が我に返ってそう叫ぶ。


「何って魔法よ?風刃斬ウインドカッターって知らないかしら?せっかくだからあなた達にも見えるように魔力量を増やしてあげるわ。特別よ?風刃斬ウインドカッターなんて不可視の攻撃で使うから意味がある魔法だもの」


 そう言ってシャーロットが指を鳴らす。すると男達の周囲に翠玉色エメラルドグリーンに光り輝く魔力の刃が現れ始めた。一つや二つではない。千を超える手のひらサイズの輝く刃が連中の周囲全てを囲むかのように展開されるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る