第219話 いざ西の森へ

 アイリスの依頼により素材採取のため街の外へ行く当日。グランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアは見事なまでに晴れ渡った。雲一つない秋晴れである。そんな青空の下、約束通りミナトはシャーロット、デボラ、ミオと共にアイリスの実家でもある工房を訪れた。


「おはようございます!本日は宜しくお願いします!」


 ミナトたち四人を前にそう言って頭を下げたアイリスが顔を上げる。


「ミ、ミナトさん?あ、あの……、大丈夫ですか……?」


 アイリスは思わずそう問いかけてしまった。心配そうなその顔には大きな疑問符が一緒になって浮かんでいる。


「あ、あはは……、だ、大丈夫ですよ。な、なにも問題ありません。今日は宜しくお願いしますね……」


 そう答えるミナト。だがいつもの余裕がある落ち着いたたたずまいはどこへやら、今日のミナトは明らかに憔悴している。何故か頬がこけ、腰がふらついており、足元もどこか覚束ない。


「宜しくお願いね!」


「アイリス殿。宜しくお願いする。」


「ん。よろしく!」


 シャーロット、デボラ、ミオもきちんとアイリスと挨拶を交わす。この素晴らしい秋晴れの下に全くそぐわないようなヨレヨレのミナトに比べこちらの三人の表情には満足感と充実感が溢れていた。気のせいか肌や髪も普段以上に艶やかになっている。


『デボラ!ミオ!ちょっとやり過ぎたんじゃない?』


 ヘロヘロになっているミナトの背後でシャーロットがそんな念話をデボラとミオに飛ばす。


『我らにその責任があるというのは納得がいかないのですが……』


『ん!シャーロット様が楽しみ過ぎ!』


『そ、そんなことはないわよ!?そもそも……』


『そうは言いますが……』


『ん!それは……』


 三人の美女が念話でわちゃわちゃと話し合いをしているがそれを気にする余裕は今日にミナトにはないようだ。睡眠不足と体力の低下が著しい。


『あんなにするとは思っていなかった……、できることなら早く依頼を終わらせて今日は休みたい……』


 そんなことを考えているミナトはアイリスに声をかける。


「こちらの準備は出来ています。早速出発しましょうか?」


「はい!それで問題ありません。今日採取したい素材は大烏オオガラスの尾羽は普通に三枚です。それでは西の森へと向かいましょう」


 アイリスのその言葉でミナトたち一行は出発した。


 ヴェスタニアの西にある森までは徒歩で二時間程度だという。ここヴェスタニアを東西に貫く形で街道が整備されており、東へ五日ほど移動すればミナトたちの最終目的地である古都グレートピットや温泉郷がある。西側には穀倉地帯が広がっており農業を中心として栄えた街がこの街道で結ばれているそうだ。


 西の森へはそんな穀物を運搬する馬車が通れるように道幅が広めにとられた上、よく整備された街道を使って行くことができる。この街道は見晴らしもよく人の通りも多く比較的安全と言えた。片道徒歩二時間は少し難があるが、西の森は安全に安定して狩りができる森として初心者には人気だという。


 そんな西の森を目指し街道を進むミナトたち。アイリスを中心にして、前方にミナトとシャーロット、後方にデボラとミオといった隊列を組んだ。


『シャーロット、デボラ、ミオ』


 うんざりしたような感情と共にミナトが念話を飛ばしてきた。


『ええ。気づいているわ。こんな開けた場所に気配だけがするから隠蔽の魔道具のたぐいね……。でもこんなに気配が駄々洩れだと安物じゃないかしら?ざっと十人ってとこね……』


『うむ。尾行とはオルフォーレの街と同じだな……。あの時より人数は多いが……』


『ん。ブレスはいつでも大丈夫!』


 三人も念話を返してきた。


『この街の冒険者は大会にも職人にも好意的なはずだからこんな妨害まがいの依頼を受けるとは思えない……。そんなことをすればこの街で冒険者としてやっていけなくなるだろうし……。ならず者でも雇ったかな……?』


『どうするの?』


 シャーロットが聞いてくる。


『この前も言ったけど何もしないなら放っておこう。妨害してきたら……、今日のおれは手加減ができないかもしれないな……』


『その時は私たちに任せなさい!魂までも消し飛ばしてあげるわ!』


『うむ!消し炭にしてやろう!』


『ん!死んだほうがましと思える体験を!』


「そ、そこまではしなくてもいいんだけどね……」


 思わず声に出してしまいアイリスに首を傾げられるミナトなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る