第215話 もし何かを画策するのなら……

 ミナトはゴウバルというドワーフの職人と対峙する。まだ若さが見て取れるががっしりとした体つきと盛り上がった肩。既に髭も貯えているところはドワーフの特徴をよく表している。


「ミナト……、聞かない名ですね。この街で活動されている冒険者の方ではない……、ということでしょうか?」


 先ほどまでミナトに向けていた不快と怒りの感情を押し殺し、顔に笑顔を貼り付かせてそう声をかけてきた。


『これで会ってきたアルカンさん、バルカンさん、グラン親方やその弟子の皆さん、グドーバルさん、そしてケイヴォン。出会ってきた男のドワーフは全員が絵に描いたような職人気質だった。リーファンちゃんやアイリスさんも口調は彼等よりも丁寧で優しい感じだけど職人としての矜持が感じられた気がする。でも目の前にいるこいつからはその気質も矜持も感じない……。ホントにドワーフの職人なのか?』


 そんなことを考えていたミナトだが無視するのも悪いと思い、


「ええ。普段はルガリア王国で活動しているのですが、ちょっとこちらまで遠征してきたんですよ。今回は紹介を頂きましてね。アイリスさんの依頼を受けることになりました」


 淡々とそう返答する。まるでゴウバルの思惑や真意などその一切に興味がないといった風な受け答えであった。


「まだ依頼内容の確認中なのでここで失礼します。アイリスさん、行きましょうか?」


 そう言ってミナトはアイリスを促す。ゴウバル達もここでそこまで付きまとう気はないらしい。アイリスが先導する形でこの場を後にすることになった。


『ミナト?この連中どうするの?ことりあえず放っておくの?』


 シャーロットが念話で聞いてきた。


『ここは退却!逃げるが勝ち!ってね。ここがルガリア王国の王都ならまた違うけどここヴェスタニアでおれ達はよそ者だ。ああいった連中は大体において住民からの信用があったりするからさ』


 ミナトが念話でそう答えた。


『うむ。人族や亜人の社会ではそういったことも考慮する必要があるのだろうな……。我はマスターに従うぞ』


『ん。ボクはマスターの指示に従うだけ!』


 デボラとミオがミナトを肯定する念話を返してきた。


「ただし!」


 振り向いたミナトがシャーロットたちに話しかけた。いきなり声を出したので、アイリス、ゴウバル、オレオンも驚いた表情をする。


『おっと、声が出ちゃった……』


 念話で笑ってみせる。


『ミナト!なに?なに?』


『何か考えがあるのか?』


『ん。興味深い!』


 そんな念話を返す三人にミナトはニヤリと笑ってみせる。あまり見せたことのないミナトの黒い笑みだ。


『二日後の素材採取の時だね。そこで妨害でもしようものなら……、メニモノミセテヤル!』


 いつになく気迫のこもった念話でそう宣言するミナト。ミナトの言葉に何かを感じたのか、シャーロット、デボラ、ミオの三人にも黒い笑いが浮かんだ。


「行きましょうか。ミナト!二日後も楽しみね?」


「うむ!我も楽しみにするとしよう!」


「ん!ボクも楽しみ!」


 三人が目深に被っていたフードを脱ぎつつ嬉しそうな声で口々にそう言ってきた。


 均整のとれた美しいスレンダーな肢体と絶世の傾城のと呼ばれるほどの美貌を誇るエルフであるシャーロット。抜群のスタイルに真紅のロングヘアーに切れ長の目、きりっとした表情がよく似合うきつめの美人といった表現がぴったりと合うデボラ。少女のようなあどけなさを残した透き通るような青い瞳と青い髪、透明感と可愛らしさを極限まで高めたかのような容姿をしているミオ。


 三人ともどこの誰が見ても振り返らずにはいられない程の美女たちだ。


 周囲の冒険者達の視線を集めるのは当然なのだが、ゴウバル、オレオンの口元に下品な笑みを浮かべたことをミナトは決して見逃さない。


 ミナトが特別に指示をしたわけではないのだが、三人によって餌は撒かれた。これがテンプレ的展開であれば愚か者は必ず餌に喰いつくだろう。思わぬ展開ではあるのだがそれに期待してしまうミナトなのであった。

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