第212話 その小瓶に入っているものとは……
「先ず依頼票にも記載しましたが、ミナトさん達にお願いするのは水属性の魔石と
アイリスのその言葉にミナトたちは頷く。会議室にはアイリス、ミナト、シャーロット、デボラ、ミオしかいない。
「そこまでは承知しているよ。アイリスさんがそれに同行するってのは?」
そうミナトが問いかける。
ちなみに先ほどまでいたケイヴォンは席を辞した。ここから先はアイリスがその手の内を明かすことになる。同じ大会に出場する者として正々堂々と戦いたいからこれ以上は聞けないと言い残して。アイリスのためを思ってここまで行動したケイヴォン。ミナトはケイヴォンにも大会で頑張ってほしいと思う。そしてできることなら彼のアイリスへの想いに関しても……。
ミナトの問いにアイリスはバッグから一冊の本を取り出した。その装丁を見ると随分と古いものらしい。
「これを見てください」
そう言ってアイリスは本の中の一ページを指し示した。
ミナト、シャーロット、デボラ、ミオの四人は示されたページを覗き込む。そこにはカエルの魔物の絵と文章が書かれているが、
「読めない?」
ミナトには書かれている文字が読めなかった。この世界で一般的に使われている文字は転生した直後から読み書きができていたのだが、どうやらこの文字はダメらしい。
「これは古代ドワーフ文字ね。ドワーフの職人達がその技術を伝えるために使用した文字よ。一般的にはドワーフ以外では読めないとされているわ。えっと……、このカエルの魔物はブルー・フロッグ。ダンジョン『カエルの大穴』にのみ出現する魔物で……、その魔石には水の属性があり、武具に水の属性を付与するのに役立つって書いてあるわね……。なになに……、この本によると秋には一万匹に一匹の割合で特殊個体が出現し、その魔石は抜群の魔力伝導性を持ち使用したその武具の性能をより引き上げることができる……、かしら?」
シャーロットはこういった文字も簡単に読めるらしい。
『これを簡単に読めるってシャーロットは流石だね』
『ふふん。そうでしょ?もっと褒めてくれていいのよ?』
念話による会話なので何のリアクションもしていないがミナトにはドヤっと可愛らしい胸を張っているシャーロットのオーラが見えた気がした。その一方でシャーロットの説明を聞かせられたアイリスは驚き過ぎたのか完全に固まっている。
「あ!どうしよ……。あの……、アイリスさん?」
それに気づいたミナトがおそるおそる問いかけると、
「は!ここは誰!?私はどこ!?」
そんなことを言ってくる。
「気が付きましたか?まだ少し混乱しているようですが……」
ミナトにそう言われてきょろきょろと周囲を見回したアイリスは驚愕の表情で改めてシャーロットを見る。
「ドワーフ以外でこの文字が読める方に初めてお会いしました。職人以外のドワーフでは読めない人も少なくないのに……」
「うふふ……。冒険者にはいろいろな秘密があるのよ」
そう言って笑顔で片目をつむってみせるシャーロット。その姿は相変わらず美しい。
「アイリスさん!おれ達にこの本を見せたってことはここに書かれている特殊個体ってやつを狙うってことなのかな?」
ミナトが復活したアイリスに聞く。
「いいえ。そこまでお願いするわけにはいきません。それにその依頼ではとてもディルス金貨十枚ではお願いできない内容でしょう。ただブルー・フロッグは数が多く、大きさによって落とす魔石のサイズが変わります。できるだけ大きい個体の魔石を採って頂きたいのですが、もしそこに万が一の確率で特殊個体が紛れ込んでいた場合、私は大きさに関わらず特殊個体の魔石を採取したいのです。特殊個体からの魔石の判別のために私が同行したいと考えたのです……」
そう答えるアイリス。シャーロットは再び本へと視線を落とすと、
「えっと……、この本によると特殊個体は少しだけ色が濃いが簡単には判別できない……。だが魔石の方は水の魔力への特殊な反応で判別できるって書いてあるわね」
そう教えてくれた。
「なるほどアイリスさんはその判別ができるんだね?」
「はい。そのための魔道具を作成しました。なので私も同行させて頂きたいです」
ミナトの言葉に頷いて答えるアイリス。そして、
「も、もちろん特殊個体に出会うまで延々と戦って頂くことをお願いしようとは思いません。報酬に見合った期間と時間帯を取り決めせて頂きその範囲内でお願いしたいと考えています」
そう付け加えた。
「そうだね……」
そう呟いて思案するミナト。この条件であれば問題ないと考える。ブルー・フロッグは水のダンジョンにいたジャイアント・フロッグよりは弱いだろう。数が多くてもそれほど苦にならない筈だ。
「あ!すいません。もう一点説明事項がありました。ブルー・フロッグは魔石の他に稀にこの小瓶をドロップします。こちらも採取して頂ければ私がディルス銅貨四枚で買い取りますし、冒険者ギルドでも同額で買い取ってもらえます」
そう言ってアイリスはバッグの中から一つの小瓶を取り出した。かなり小さいボトルである。容量は二十mLくらいか。
「これは?」
とのミナトの問いに、
「フロッグの小瓶と呼ばれています。お酒なのですがポーションの一種らしくドワーフはお酒の前に飲む二日酔い対策や胃薬として使っています」
お酒、そう言われてミナトはその小さなボトルに興味が湧いた。
「これを頂くことは可能ですか?あ、ディルス銀貨一枚で!」
その言葉と同時にミナトはディルス銀貨をテーブルへとおいた。
「え、えっと……、構いませんがもっと安くても……」
そう言うアイリスに銀貨を差し出し、ミナトはボトルを手に取る。
ちなみにこの世界の貨幣価値は、
ディルス鉄貨一枚:十円
ディルス銅貨一枚:百円
ディルス銀貨一枚:千円
ディルス金貨一枚:一万円
ディルス白金貨一枚:十万円
である。
小さなコルク栓を開け香りを確かめる。ミナトの知っている香りがした。躊躇することなく小瓶の中の液体を一息に煽る。
「すごい……。ドワーフでも初めて飲むときはその味に戸惑うのに……」
アイリスがそんなことを言っているが、ミナトの耳に届いたかどうか……。
「見つけた!これは間違いなくウンダーベルグ!!こんなところで出会えるなんて!ブルー・フロッグ!お前たちには悪いが今回は狩らせてもらう!」
輝かんばかりの笑顔になったミナトの言葉が会議室に響くのだった。
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