第210話 冒険者ギルドからの依頼
ミナトはヴェスタニアの冒険者ギルドマスターであるラーモンドをじっと見据えている。
「アイリスは才能豊かで若手の中では将来有望とされる職人だ。そんな人物と関係悪化を望む冒険者などこの町には存在しない。つまりこの冒険者ギルドもアイリスの依頼を受けることができるE級とF級……、いやこの街を拠点に活動する全ての冒険者にアイリスを不利に扱う意図は存在しない。先ずはそのことを分かってほしかったのだ」
「ということはやはり……?」
「このヴェスタニアにグドーバルの護衛として来たのであれば今のアイリスの状況を運営や職人たちがどう考えているかは聞いたのだろう?」
その問いにミナトが頷く。職人の側は静観の姿勢だ。
「冒険者ギルドも同様だ。通常であればE級とF級の冒険者全員を対象にしたような依頼が出されても他の依頼者を考慮して冒険者全員に依頼を出すことなどありえない。だが今回のケースは大会が絡んでいる。アイリスがこの事態に陥った時、俺は大会の運営へ問い合わせた。アイリスに冒険者を融通しなくてよいのか、とな。運営からの回答は『この状況にアイリスがどう向き合うのかを見てみたい』とのことだった。どうしても採取の依頼を出したいのに信頼できる冒険者が捉まらない、という状況は職人であれば一度は経験する緊急事態なのだそうだ。俺達もこれが成長の奇貨となるならと、冒険者ギルドでも静観を決め込むことにしたのだ。アイリスの依頼を受けたいという冒険者達を説得するのには骨が折れたがな。あ、もちろんお前のような冒険者が現れなかった時は運営が何を言ってもこちらでうまい具合に冒険者を用意する準備はあったぞ?」
そう言ってスキンヘッドの頭を撫でつつニヤリと笑ってみせるラーモンド。この街の冒険者はアイリスを一人の職人として応援しており、仲間外れといった粗雑な扱いをしようとしているわけでは決してない。そのことを理解し安堵するミナト。
「アイリスさんは皆から期待されているのですね。このことをアイリスさんは知らないということですか?」
「ま、一応はそういうことになる。だがおかしいとは感じていたはずだぞ?依頼を受ける冒険者がいないか確認のため最近は毎日ギルドに顔を出していたからな。その度に高位の冒険者から激励され、断ったE級、F級の冒険者からは謝罪と応援をされていたからな。教えてやってもいいと俺は思ったのだが、この大会を仕切るギュスターヴ卿から今後のアイリスのためを思うなら大会の期間中はダメだと止められてな。大会が終わったらきっと冒険者の誰かが伝えるだろうさ」
「ではおれ達がアイリスさんの依頼を受けることに関して冒険者ギルドとしては?」
ミナトの問いにラーモンドが笑顔になる。
「大歓迎だ!それも形としてはケイヴォンからの紹介。職人が信頼を置いている冒険者を他の職人へ紹介する。これは相手の職人への高い信頼がないとできないことだ。ケイヴォンは駆け出しといわれる若い職人だし、ことは大会の範疇ではあるが、これはなかなかにできることではないだろう。ケイヴォンはアイリスを信頼できる職人仲間としてお前たちのパーティを紹介したということになる。これはアイリスの信頼度の証でもあるし、ケイヴォンの職人としての心意気を示すものとして双方の評価を上げるだろう」
ラーモンドの言葉に同意の姿勢を見せるミナト。その後、『ま、ケイヴォンの場合はそれだけではないようだがな?』とも言われそのことに関してはノーコメントを貫くミナトである。
「さてと……、俺からの話は次で最後なのだが……」
そう言ってラーモンドは席から立ち上がると唐突に頭を下げた。
「ミナト!冒険者ギルドからの頼みだ。お前たちがケイヴォンの紹介でアイリスの依頼を受けるのは完全な偶然だ。だが俺はこの偶然を単なる偶然として終わらせたくはない。あのカレンがその実力を保証するほどのお前達だ。どうかアイリスの力になってくれないか?そしてアイリスを助けつつもこの大会が
別口で冒険者ギルドから依頼だった。アイリスを助けつつ……、その言葉に少しだけ引っかかるものを感じるミナト。
「何かよくないことが起きるとかって考えています?アイリスさんの邪魔をしようとしたその資金力に長けたという職人たちがよからぬことを計画しているとか?」
問いかけるミナトにラーモンドは首を振って、
「いや……、現時点では何も掴めてはいない。だが若さというものは時に暴走を招くこともある。俺が危惧したのはそこだ。俺も長い間この大会に関わってきた。職人同士のちょっとした妨害行為などはそれこそ毎年みられるものだが、冒険者を雇えなくするといった今回のは少し規模が大きすぎると俺は感じている。何かが起きればこのギルドも運営側も厳格な対応をとることができるが、その何かを未然に防ぐにはお前たちのような腕利きが必要だと思ったまでだ」
そう応えた。その言葉にミナトは力強く頷いた。そして自然と笑みが零れる。ミナトはシャーロットたちに視線を向けた。
『シャーロット!デボラ!ミオ!妨害をした若い職人ってのは分からないけど、この街の人たち……、職人も冒険者も良い人達が多いのかな?おれとしてはなんかこの街が好きになってきたよ』
『そうね。職人も冒険者も互いの重要性をきちんと理解している。そしてアイリスという才能のある子を大切に育てたいと思っていることは分かるわ。最後のところを私たちに任すっていう手法についてはちょっと荒っぽいと思うところもあるけれど……。でも私はこの大会をいい大会にしてあげたい!そう思う!』
そう返してくるシャーロット。いい笑顔が素敵である。
『うむ!手口が荒っぽいのは職人と冒険者だから仕方なかろう、だがマスターよ!我はこの街に暮らす職人と冒険者を気に入ったぞ?アイリスというあの職人のこともそうだが、この大会、我らにできることをやってやろうではないか?』
凄みのある笑みを見せてデボラが言う。
『ん!大会を実り多いものに!』
胸を張ってドヤっとポーズをとるミオ。いつも以上に可愛らしい。
全員が念話なので無言でのやり取りとなり、第三者からは少し不気味に映るが気にしないミナト。どうやらみんなアイリスの依頼と冒険者ギルドからの依頼に乗り気のようだ。
「その依頼受けさせて頂きます!」
ミナトはそう言うと立ち上がりラーモンドに自身の右手を差し出した。
「依頼を受けてくれることに心から感謝する!」
ギルドマスターのラーモンドも右手を差し出し、両者は固い握手を交わすのであった。
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