第209話 ヴェスタニアにおける冒険者と職人
ここはグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアにある冒険者ギルドの会議室。ミナトたち一行が座っているテーブルを挟む形でアイリスとケイヴォンが座っている。アイリスもケイヴォンもこのような会議室に来るのが初めてなのかカチコチに緊張していた。そして議長席のような位置取りにギルドマスターのラーモンドが座っており、その傍らに職員の一人が立っている。
『なし崩し的にここまで来ちゃったけど大丈夫かな?』
ミナトは平静を保った表情のままそんな念話を飛ばしてみる。
『大丈夫じゃない?依頼を受けるつもりだったのだから、いろいろと手っ取り早くていいと思うわ!』
『うむ。ここはギルドマスターであるラーモンドとやらの話を聞いてみようではないか?』
『ん!こういう展開もまたよい!』
シャーロット、デボラ、ミオからは肯定的な念話が飛んでくる。皆がそう思っているなら問題ないと判断したミナトは視線をラーモンドへと移す。
先ず口を開いたのはラーモンドだった。
「さっそくだがアイリスよ。お前は今日まであの依頼書を貼り続けていた。そして先ほどここにいるミナトたちのパーティがお前の依頼を受けると言った。お前の考えはどうだ?」
直球である。
「は、はい。条件等の確認は必要ですが、ま、前向きに考えたいと……、お、思います……」
緊張しながらもそう答えるアイリス。その言葉にケイヴォンが安堵の表情を浮かべる。
「分かった。俺としてはそれだけ聞ければ十分だ。アイリス、それにケイヴォン。すまないが少しだけ席を外してほしい。俺はこれから大会に参加する冒険者のルールをミナトたちに伝えなくてはならん。この内容はヴェスタニアにいる冒険者は全員知っていることだが参加者する職人には秘匿することになっている。彼女の案内に従ってくれ。何それほど時間は取らせない。その後、冒険者との打ち合わせをしてほしい」
ラーモンドは背後に控えていた職員を促し、アイリスとケイヴォンを会議室から出した。それと同時に何らかの魔道具を作動させる。魔力をみるに防音の魔道具のようだ。
「ほう……、魔力が……、魔法を使える者がF級とは珍しい……」
そんなことをラーモンドが言ってきた。
「えっと、ラーモンドさん?我々、大会の話はケイヴォンさんから聞いていたけど、先ほど仰っていた我々に伝えるルールというのは?」
呟きをスルーしてとりあえず先ほどラーモンドが言っていたことから問うことにするミナト。この街や大会に纏わる何か新しい情報が得られるのだろうか……。
「はっはっは!流石はあのカレンが推す冒険者だけのことはある。普通のF級冒険者ではあの展開でこの部屋まで連れてこられてこの展開。普通なら先ほどのアイリスやケイヴォンと同じになるはずだからな!」
「カレンさん!?王都の冒険者ギルドで受付をしている!?」
「無論!」
「カレンさんは何て!?い、いや……、そもそもカレンさんって……?」
「はっはっは。カレンだけではないぞ?オルフォーレの街でギルドマスターをしているリコからもお前さんたちのことについて容姿の情報込みで連絡があったのだ。F級冒険者という階級が冗談に聞こえるほど凄腕の冒険者だとな。あのカレンがそう言いリコもそれを否定していないのだ。一応、職員たちには情報を共有しておいたのだが、まさかケイヴォンがアイリスに紹介する冒険者とは考えていなかったがな。あの場に居合わせた職員がお前さん達の容姿に気が付いて俺に知らせたのた。それとカレンが何者かという質問について俺からは答えられない。俺だってもう少し生きていたいからな?」
そう言ってニヤリと笑ってみせる。
ここでもルガリア王国の王都にある冒険者ギルドで受付をしているカレンさんの名前が出た。Barの常連さんではあるのだが、彼女の腕は想像以上に長いらしい。そしてラーモンドのような巨漢を怯えさせる何かを持っている……。まだまだミナトたちの知らない一面があるようだ。
戸惑ったような表情をしているミナトにラーモンドが、
「すまぬ。話が逸れてしまったな。先ほどの問いに答えるとしよう」
そう言って居住まいを正し真剣な表情と眼差しをミナトたちへと向けた。
「ケイヴォンからの紹介であればアイリスが冒険者を雇えていなかった大体の事情は知っているのだろう?」
「ええ。病に罹ったお父上の看病のため初動が遅れたと……。その間に大口の依頼主が現れ残されていた全てのE級、F級の冒険者達に大会関係の依頼を出した。冒険者はソロでもパーティでも大会に関連する依頼は参加者一人分の依頼しか受けることができない。そのためアイリスさんの参加資格で依頼できる冒険者がいなくなってしまった……、だったかな?」
ミナトの答えに満足そうに頷くラーモンド。
「その通りだ。そこでお前たちに知っておいてもらいたいのはここの冒険者と職人たちの関係性だ」
「関係性?」
ミナトは首を傾げる。冒険者とは基本的に自由な者達だ。各自が目的のために好き勝手に行動している。そのことで一部の冒険者が問題行動を起こしたりもするのだが……。冒険者が何らかの者達との関係性を重視するというのは、高位の冒険者と彼らを専任のように依頼する貴族ぐらいしか関係性が思いつかなかった。
「ああ。この国の冒険者は職人との関係を大切にする。ここグランヴェスタ共和国は職人の国でありその首都ヴェスタニアは職人の街だ。冒険者に出される依頼のほぼ全てが何らかの職人をしている者からの素材採取依頼となる。この街の冒険者と職人は持ちつ持たれつの関係にあると言ってよいだろう。冒険者にとって職人は大切な顧客ということだな」
そう言われるとミナトの心には疑問符が浮かぶ。
『だったらこのアイリスって子に依頼できる冒険者がいないってこととの辻褄が……』
そんなミナトの心の内を見透かしたのかラーモンドが、
「先ほどのホールで他の冒険者たちがアイリスやお前達に好意的だっただろう?」
そう言われてミナトはケイヴォンの師匠であるグドーバルの言葉を思い出す。あれは職人の側からの見解だったが……、
「冒険者との諍い、商売敵となる工房との諍い、どれも独立した職人が避けては通れぬ道じゃ。現時点で運営は動いておらんな。もちろん違法行為や暴力に訴えるようなことがあれば厳粛に対処するじゃろうがの。この大会を取り仕切っているギュスターヴ卿はグランヴェスタ共和国評議会の重鎮で温厚な性格じゃが相当に切れる御仁じゃ。冒険者ギルドから既にこの状況の報告は上がっているじゃろう。それでも運営が動かないのはこの状況にアイリスがどう向き合うのかを見ている可能性が高いと儂は思っておるのじゃ」
そう言っていたグドーバル。職人の側は静観……、であれば……、
「冒険者達もアイリスさんの状況は十分に分かっている……?だが将来のことを考えてあえてこの状況を静観していた?」
ミナトの言葉にラーモンドが会心の笑みを浮かべるのであった。
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