第207話 貼られていた依頼
ヴェスタニアの冒険者ギルドに到着したミナト。時刻は夕方というには少し早い。そのため建物内は閑散としていた。あと一、二時間もすれば依頼を終わらせた冒険者達が詰めかけてくるだろう。
建物に入ってみると中心に大きなホールがあった。ここまで大きなホールはルガリア王国の冒険者ギルドにもなかったと思うミナト。
「王都の冒険者ギルドは最初から冒険者ギルドの業務効率を考えて建造されている気がするけどここは何か雰囲気が違くない?」
「流石はミナト殿!鋭いな?確かにこの建物はかつて劇場として造られたものを改築し冒険者ギルドとして使用しておる。何と言ったかな……?なかなかに著名な建築家の設計であったと聞いたことがあるの」
ミナトの独り言を聞いたグドーバルがそんな解説をしてくれる。グドーバルはケイヴォンとリーファンを、ミナトはシャーロット、デボラ、ミオをそれぞれ伴って受付へと移動する。シャーロット、デボラ、ミオの三人はフードを目深に被っている。ま、一応の措置というやつだ。
依頼達成と報酬支払の手続きは案外と簡単に終了した。ここで依頼者とはお別れになるのだが、
「アニキ!掲示板を見に行こうぜ!きっとアイリスさんの依頼があるはずだからさ!」
ケイヴォンがそんなことを言ってきた。ミナトとしてはその提案は受けてかまわいのだが、念のためにグドーバルに視線を送ってみる。
「ミナト殿。儂から貴殿への依頼は終了しておる。この後は貴殿の自由にしてもらって構わぬよ」
そこでグドーバルの目の光が変わる。非常に鋭い眼差しだ。『これが職人の眼差しって感じかな?』などとミナトは思ったりする。
「ケイヴォン、儂らは先に帰っておる。お前も職人であるならきちんと対応してみせるのじゃな?」
「もちろんさ!」
グドーバルの視線に怯むことなく声に力を込めてケイヴォンがそう応えた。その姿を確認したグドーバルの目から光が消える。これまでの調子に戻ったグドーバルは若いながらリーファンを連れて冒険者ギルドを後にした。
今度の大会において依頼できる冒険者がいないときに知り合いの職人から冒険者を紹介してもらうことは問題がないとのことだ。だからケイヴォンはミナトたちF級冒険者パーティをアイリスという職人に紹介しようとしている。
グドーバルの言葉は『職人を目指すならこういった紹介ごともしっかり対応しろ』という彼なりの指導なのだろう。
ミナトはケイヴォンの提案に従い依頼が張られている掲示板へと移動することにした。
「あった!これだよ!」
ケイヴォンが指し示すそこには……、
依頼内容:大会用素材採取依頼
達成条件:近郊のダンジョン『カエルの大穴』から水属性の魔石(極小よりは大きい物)五個、
依頼者:武具職人アイリス
報酬:ディルス金貨十枚、魔石の種類による報酬の変動は無し
という内容で依頼が張り出されていた。金貨十枚とは日本円で約十万円である。
「この大会でアイリスさんやおれ達の資格だとE級とF級の冒険者にしか依頼はできないし、その報酬の上限はディルス金貨十枚までって決められているんだ。それに扱えるからって自分たちの資格から大幅に逸脱した高級な素材を使うのは減点の対象になる。どんな素材を使っても職人がきちんと取り組めば良い物ができるから、だってさ」
ケイヴォンがそう説明してくれる。
『ミナト!水属性の魔石は水のダンジョンでジャイアント・フロッグを斃した際に落としたのと同じものよ。ダンジョン名から考えてもう少し小さい魔石を落とすカエル型の魔物と戦うことになりそうね?』
シャーロットがそんな念話を飛ばしてくる。どうやら大会規定によるとミナトたちが大量に所有しているジャイアント・フロッグの魔石は使えそうもない。
『ああ、そして
シャーロットに念話を返すミナト。同じく素早さが付与できそうな素材としてオリヴィアの毛を思いついたが、流石に大会には使用できそうになかった。
『これくらいなら新人のF級冒険者には難しいかもしれないけど、E級なら余裕を持って対応できると思う。この依頼で金貨十枚は多いと思うけど、多分受ける 冒険者がいなくて制限一杯まで引き上げたんだろうな……』
そう心の中で呟きつつ、ミナトは依頼書を掲示板から引き剝がした。
「そ、その依頼を受けてくれるのですか?」
背後からそんな言葉をかけられ思わず振り向くミナトたち。そこにはドワーフにしては高身長で細身と思える色が白くて若い女性のドワーフが立っていた。
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