第206話 到着 首都ヴェスタニア

 その翌朝、ミナトはグドーバル達にケイヴォンの頼みを受けることを伝えた。飛び上がらんばかりに喜んだケイヴォン。


 当然のことだがアイリスという職人がケイヴォンの提案を受け入れるかは分からない。ミナトはアイリスが自分たちに素材採取の依頼を出さない場合もあることをに言及したが、


「それが仕方のないことぐらいはおれも分かっている!」


 と真剣な表情でそう断言した。その様子に漢気を感じ、できることならケイヴォンの心意気には応えたいと改めて思うミナトであった。


 そうして、その後の行程は特に問題などが起こることも無く……、


「おお!」


 小高い丘から大きな街を見下ろしつつミナトが感嘆の声を上げる。眼下に広がるのはかなり広大な平原と、そこに造られた堅牢な城壁に囲まれた巨大な街である。


「どうじゃな?これがグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタアじゃよ」


 グドーバルが言ってくる。ケイヴォンもリーファンも心なしか胸を張っていようだ。故郷が誇らしいようだ。


『どうやら彼らにとって住みよい街のようだね……』


 傍らにいるシャーロット、デボラ、ミオにそんな念話を送るミナト。すると……、


『この辺りも平和になったのね……』


『うむ!素晴らしい……』


『ん!よいこと……』


 ホッとしたような安堵の感覚と共に三人のそんな念話が伝わってきた。どうやら昔にこの辺りで何かあったらしいが、この手の過去の話をシャーロットは話したがらない。いつか話してくれるだろうと思っているミナトは特に話題に触れないことにした。


 そうしてミナトはその視線をヴェスタニアへと向ける。中央にルガリア王国の王城の王城を思わせる巨大な建造物があり、それを中心にどうやら東西南北で区画を大きく分けているらしい。


 グドーバルにそのことを聞いてみると、


「中央の建物はグランヴェスタ共和国の象徴であり、現在はグランヴェスタ共和国評議会の議事堂として使われておるこの国の中心じゃよ。先ほどミナト殿がルガリア王国の王城に似ていると言っておったが、それはなかなかに鋭い指摘じゃ。専門家でも意見が分かれているところなのじゃが、一説によるとルガリア王国の王城とあの議事堂は設計者が同じと言われておる」


「そんなことがあるのですか?」


「儂は武具が専門じゃから詳しいことまでは分からん。じゃが、そういったことを研究しておる者が歴史的な資料を探すため遺跡探索などのため冒険者に依頼を出すことは珍しいことではないのじゃよ」


 それを聞いて面白そうな依頼だとミナトは思う。冒険で歴史のロマンを追い求める。なかなかに魅力的なのフレーズだと思ったのだ。合衆国独立の影に隠された財宝を求める映画を思い出したことは秘密である。


「東が一番大きい。おれ達のような職人たちが多く住む区画さ!武具や魔道具を扱う店もこの地区に集中しているし冒険者ギルドもある。その反対側の西が二番目に大きいけどこっちは主に食料品を扱う地区なんだ。毎日のように市場が出て様々な食材が取引されている」


「南は居住地区と呼ばれています。主に西の区画で働く方々の住居がある地区ですね。街の娯楽施設や歓楽街もこの南に集中しています。その反対にある北は行政を司る地区ですね。規模は一番小さいですが国の運営に関わる様々な建物があります。評議員の住居もこの北地区ですね」


 歴史ロマンに浸っているミナトにケイヴォンとリーファンがグドーバルの回答に補足をしてくれた。


「さてと……、先ずは冒険者ギルドに行こうかの?依頼達成の報告と報酬の支払いをせねばなるまい」


 そう言うグドーバルに頷きつつミナトたちもその歩みを進めた。


 程なくして一行はヴェスタニアへと到着し、街の東側にある検問から入ろうとする。検問はグドーバルの身分証明書とミナトが持つ依頼書と冒険者証を見ると何のトラブルも起こることはなくすんなりと通ることができた。


「凄い活気だ……」


 ミナトが思わず呟く。東の地区は職人たちが多く住む地区というケイヴォンの説明はあったが、街を入ってすぐのところから様々な工房がずらっと軒を連ねているとは思わなかった。どの建物も大きく取り付けられた大きな煙突からは煙が黙々と噴き出している。そしてどの工房からも威勢のよい声が聞こえてくる。それはグトラの街を大幅にスケールアップさせたような光景であった。


 ルガリア王国にある王都のように様々な要素が混在する坩堝のような雰囲気が性に合っていると思うミナトだが、こういったプロが集まる所謂、職人の街といった雰囲気もまたよいものだと感じる。居心地は良さそうだとミナトは思う。


『よい雰囲気ね……。住民たちの情熱を感じるわ』


『うむ。街に活気があふれている。よいことだ!』


『ん!いい街!』


 楽しそうな気持ちと共にそんな念話が飛んでくる。美女三人もこの雰囲気に好意的なようであった。


 街の熱気や活気を感じつつ、歩みを進め、とりあえず一行は冒険者ギルドを目指す。特に大きな工房が軒をつられる大通りを進むと、四階建てくらいの一際高さがある大きな建物が視界に飛び込んできた。掲げられたその看板には気取った文字で『冒険者ギルド』との表記があった。

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