第205話 今宵の宿屋で話し合い
ここは小さな宿場町。グランヴェスタ共和国にあるグトラの街から首都ヴェスタニアへと至る街道沿いにあり、旅の商人や冒険者を相手にする宿屋や商店が集まる形で形成されていた。
そんな宿の一つにグドーバルが常宿にしているという宿屋があった。それほど大きな宿ではないがその造りは決して簡素なものではない。木造二階建てのその宿屋には十の部屋が用意され、どの部屋にも家具が供えられており、特にベッドは高級品だという。さらに各部屋に浴室までもが設置されていた。
グドーバルによると水を扱う魔道具が他国よりも発達しているこの国では国民の風呂へのこだわりは強いとのことである。今回の最終的な旅の目的地は地のダンジョンがある古都グレートピット。その近くに温泉街があることを思い出すミナトだった。
ちなみにこの宿屋は四人部屋が基本のため、グドーバル、ケイヴォン、ミナトで一部屋、リーファン、シャーロット、デボラ、ミオで一部屋である。
そうして浴室で汗を流しさっぱりした面々が食堂で出会ったのが今日の朝に捕れたという分厚く切った
グランヴェスタ共和国もルガリア王国と同様に豊かでよい国であると認識するミナト。
そして夜も更け皆が寝静まる少し前、ミナト、シャーロット、デボラ、ミオの四人が食堂へと現れた。宿屋の主人にお願いしちょっとした金額を渡して使わせてもらうことにしたのである。
パーティ会議だ。シャーロットが周囲に結界を貼ったため声が周囲に聞こえることはない。
話し合う内容はケイヴォンの頼みを聞くかどうかである。
「おれとしてはケイヴォンの頼みを聞きたいと思っている。そのアイリスさんって職人がおれ達を雇うかどうかは分からないけどね」
ミナトがそう切り出した。
「ミナトがそう決めたのなら私に異存はないけれど、どうしてあの子の頼みを聞く気になったの?」
「うむ。我はマスターの決断に従うが、理由は教えて頂きたいな?」
「ん!ボクも同じ!」
三人の美女がそんなことを言ってきた。
「うーん。そんな大層な理由があるわけじゃないんだけど……、おれはこの世界でバーテンダーとして働きながら冒険者として世界を見て回りたいと思ったからね……。この国の大きなイベントに参加できるのはいい経験だと思ったんだ。それと……」
「「「それと?」」」
美女三人がそろって首を傾げながら聞いてくる。とても美しくとても可愛いと思うミナト。とりあえず心の邪念を振り払いみんなの問いに答えることにする。
「惚れた女に何かしてやりたいって思うケイヴォン君の心意気に応えたいと思ってね?」
そう言って笑みを浮かべるミナト。これはこの町に到着する少し前、休憩をとった際にグドーバルからこっそり教えて貰ったことだ。どうやらアイリスさんとは職人としての才能に加えてかなり美人のドワーフらしくケイヴォン君はそのアイリスという女性職人に惚れているらしい。
だがそれはケイヴォンに限った話ではなく、若い職人の半分は彼女に惚れているなんて話もあるくらいだとか。金持ちの若い職人による嫌がらせめいた行為も『助けてほしければ俺の女になれ』的な行動の結果ではないかというのがグドーバルら先輩職人の見解らしい。
「ま、ケイヴォン君の思いが届くかも分からないけど……」
そう言ってミナトは肩を竦めてみせた。
「あの子のことを思ってね……。いいんじゃない?」
「マスターがあの若者を応援するのであれば我はそれに従うだけだ!」
「ん!応援!」
ミナトの理由は彼女たちに好意的に受け入れられたらしい。
「あ!もちろんもうちょっと冒険者らしい思惑もある!」
ミナトが思い出したかのようにポンと手を叩く。
「冒険者らしい思惑?」
「うむ?」
「ん?」
三人が再び首を傾げてきた。
「そのアイリスさんという職人が本当に才能に溢れる優秀な職人なら、この依頼を通して仲良くなっておれの普段使いの装備を作ってもらえないかなって考えたんだ。アースドラゴンに造ってもらう装備はヤバいことになりそうだから普段使いの装備も必要かなってね?」
笑顔でそう答えるミナトであった。
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