第201話 ヴェスタニアへと至る街道にて

「ミナトの兄ちゃんは冒険者ギルドが実力を保証するくらいの凄腕なんだろ?どうして階級がF級なんだ?」


「あ、あたしも知りたいです!」


 若いというより幼いと表現した方がいいかもしれない二人のドワーフにそう言ってくる。さて何と答えたらよいものか、ミナトはちょっと困ってしまう。



 ここはグトラの街から首都ヴェスタニアへと至る街道。ルガリア王国から国境を越えてグランヴェスタ共和国に入って首都ヴェスタニアを目指すとなればこの街道を使うことが一般的だという。首都に至る街道だからなのか道幅は広くとられ路面も整備されており馬車などでも移動はしやすかった。


 そんな秋晴れの街道をミナトたちは一台の馬車を徒歩で護衛しながらその歩みを進めている。二頭引きの馬車の前方にミナト、シャーロット、後方にデボラとミオという布陣だ。ミナトは御者台の近くを歩いており、馬を操っているグドーバルの両サイドに座っているケイヴォンとリーファンからの質問に答えているところだ。


 今回の護衛依頼、内容を詳しく聞くと首都ヴェスタニアまでドワーフの三人が乗った馬車を護衛してほしいとのことであった。馬車にはグトラの街で仕入れた様々な素材も載せられているという。人命が最優先だが可能であれば素材も護衛対象にしてほしいと言われたので、ミナトはその護衛条件を承諾した。


 ちなみに依頼料はF級冒険者パーティであることを基準に算出され、一日ディルス金貨二枚となった。それが七日間。かなり安いがその代わりこの手の依頼は階級を上げる際に優遇されると説明されとりあえずそれで納得する素振りをみせたミナト。ただ今のミナトに階級を上げる気はない……。


 ディルス貨幣の貨幣価値は、


 ディルス鉄貨一枚:十円


 ディルス銅貨一枚:百円


 ディルス銀貨一枚:千円


 ディルス金貨一枚:一万円


 ディルス白金貨一枚:十万円


 つまり一日二万円。これが今回の護衛任務に就く四人パーティの一日の収入である。命をかける任務の報酬としてはあまりにも少ないと言えた。F級冒険者は冒険者ギルドからの依頼をこなすだけでは稼げない冒険者なのだ。だから普通のF級冒険者は早く階級を上げようと必死になる。


 大森林や世界最難関ダンジョンで魔物を狩りまくり貴重な素材を大量に保有しているためお金に困っていないミナトたちが異常なのだ。だから今回の依頼に関してミナトとしては金額がいくらでも気にしていない。冒険ができればそれで問題ないくらいの気分である。


 ただ見習いである二人のドワーフには少ない報酬でも気にしないミナトの態度が奇異に映ったらしい。


「う~ん……、おれには必要がないってくらいしか説明できないかな……」


 頭を搔きながらそう答えてみる。


「えー!?おかしいだろ?階級が上がれば報酬の基準が上がって、特にC級からは跳ね上がるって……。だから冒険者は上の階級を目指すってグトラの街に来るときに護衛してくれたD級冒険者の兄ちゃんが教えてくれたぜ?」


 冒険者にはS級からF級までの七つの階級に分かれており、それぞれ冒険者証となるプレートの色で区別される。どうやらC級から報酬の基準が大きく上がるらしい。


 S級冒険者:白金プラチナ、人外の存在…この世界にほんの僅か


 A級冒険者:金、超一流…一つの国にほんの僅か


(以上の冒険者は滅多に遭遇することが出来ない)


 B級冒険者:銀、一流…一つの国に数人


 C級冒険者:銅、上級…一つの国に数十人


 D級冒険者:鉄、普通…一つの国に数百人


 E級冒険者:青、見習い…多すぎて計測不能


 F級冒険者:赤、初心者…多すぎて計測不能



「そうなんだ?」


 思わず素直にそう返してしまうミナト。


「なんで知らねぇんだよ……」


 ドワーフの少年が呆れたような声を上げる。グドーバルを挟んで反対側に座っている少女も首を傾げていた。聞けばこのケイヴォンとリーファンは双子の兄妹だという。グドーバルの友人である職人の子供たちらしく修行のために首都ヴェスタニアにあるグドーバルの下で見習いとして働いているとのことだった。


「はっはっは!ケイヴォンよ!お前ではまだミナト殿達の実力が分からんだろう!」


「なんだよ?師匠なら分かるのか?武器を持っていないんだぜ?それもパーティ全員!」


 不機嫌な様子でケイヴォンが豪快に笑うグドーバルを見上げる。


「儂もミナト殿のような装備の冒険者を見たのは初めてじゃよ。じゃがな……、魔法が使える才能があるとなれば話が変わってくるのじゃよ。お前にも聞かせたことがあるじゃろう?」


「魔法は貴重な才能だっつーやつだろ?そんなこと言われてもオイラまだ魔法を見たことがないからな!そんなに凄いのか?」


「もし儂らが魔物に襲われたらミナト殿の戦いをよく見ておくことじゃ!運が良ければ……、魔物に襲われるのは運が悪いとは思うが……、魔法が見られるかもしれんぞ?」


 グドーバルはこちらを向いてニヤリと笑う。


「兄ちゃん!魔法を見せてくれるのか?」


「あたしも見てみたいです!」


 キラキラとした目を向けられさらに困るミナト。


「そんな機会はない方がいいけど魔物が出たらきちんと働くから安心していいよ?」


 とりあえずそう答えておく。


『このパターンだと確実に魔物と遭遇することになりそうだ……』


 そんなことを考えてしまうミナトであった。

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